神枷-04
「……ならば。」
「お前には、資格がある。」
その言葉とともに、白い世界の足元へ、幾重もの光の輪が広がっていく。
静かだった空間に、初めて波紋のような揺らぎが生まれた。
ノアは驚いたように辺りを見回す。
「これ……。」
人影は一歩だけ前へ出る。
その姿は相変わらず光に包まれ、顔は見えない。
だが、その声だけは、先ほどまでよりも少しだけ近く感じられた。
「願いは、対価なく叶うことはない。」
ノアは黙って聞いている。
「世界は等しく在る。」
「得る者は、失う。」
「救う者は、背負う。」
「それが理だ。」
静かな言葉が、一つひとつ胸へ落ちていく。
「少年。」
「お前は少女を救うことができる。」
ノアの瞳が大きく開く。
「本当に……?」
「だが。」
その一言で、空気が変わった。
「代償を負う。」
ノアは小さく息を呑む。
「代償……?」
「お前は枷を背負う。」
白い世界のどこからともなく、小さな光が集まり始める。
それらは鎖のように連なり、ノアの周囲を静かに巡っていた。
「その名は――神枷。」
その名が告げられた瞬間、光の鎖が淡く輝く。
「神が与える枷ではない。」
「お前自身が、お前に課す枷だ。」
ノアはその言葉の意味を考える。
しかし、六歳の少年には、まだ理解しきれない。
人影は続ける。
「この枷を受け入れた瞬間、お前は弱くなる。」
「誰よりも。」
ノアは眉を寄せた。
「弱く……?」
「魔力は底へ沈む。」
「力は封じられる。」
「人はお前を無能と呼ぶ。」
「努力しても、報われぬ日々を歩む。」
ノアは静かに聞いていた。
「戦えば敗れる。」
「笑われる。」
「蔑まれる。」
「才能なき者と見下される。」
「それでも。」
「お前は、その枷を外せない。」
白い鎖が、ゆっくりとノアの周囲を巡る。
「ただし。」
人影は初めて、少しだけ声を和らげた。
「お前が命を懸けて守ろうとする者が、本当に命の淵へ立った時。」
「その瞬間だけ。」
「神枷は解かれる。」
鎖が一瞬だけほどけ、眩い光となって広がる。
ほんの一瞬だけ。
世界そのものが息を呑んだようだった。
「だが、それも一時。」
「守り終えれば、再び枷は閉じる。」
ノアは光の鎖を見つめる。
それは恐ろしいはずなのに、不思議と嫌な感じはしなかった。
まるで、「誰かを守る」という願いそのものが形になったように見えた。
人影は最後に問う。
「この道は、長い。」
「孤独でもある。」
「それでも、お前は歩むか。」
ノアは少しだけ俯く。
難しいことは分からない。
未来がどうなるかも分からない。
でも、一つだけ分かることがあった。
リリアを助けたい。
その気持ちは、さっきから一度も変わっていない。
ノアはゆっくりと顔を上げる。
そして、小さく、しかし迷いなく頷いた。
「うん。」
「僕が歩く。」
その答えに、白い鎖が静かに輝きを増した。




