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神枷を宿す少年は、大切な人を守るため剣を振る  作者: なごやかたろう
神枷

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13/14

神枷-03

 白い世界が、静かに揺らぐ。

 差し出された右手は、近いようで遠い。

 届きそうなのに、決して届かない距離にあった。

 人影はゆっくりと口を開く。


「少年。」


 ノアはまっすぐ顔を上げた。


「お前は、何を願う。」


 その問いは、とても静かだった。

 けれど、胸の奥まで見透かされるような重みがあった。

 ノアは迷わなかった。


「リリアを助けて。」


 即座に答える。

 人影は何も言わない。

 ただ、静かに続けた。


「それだけか。」

「うん。」

「己の命は。」

「いい。」


 また即答だった。


「家族には、もう会えぬかもしれぬ。」


 ノアの瞳が揺れる。

 父の顔が浮かぶ。

 母の笑顔が浮かぶ。

 兄と剣を振った朝。

 皆で囲んだ夕食。

 温かな家。

 胸の奥が締めつけられる。


「……会いたい。」


 小さな声が漏れた。


「父さんにも。」

「母さんにも。」

「兄さんにも。」

「本当は、帰りたい。」


 その言葉を聞いても、人影は何も言わない。

 ただ待っている。

 ノアは唇を噛んだ。

 目に涙が浮かぶ。

 それでも。


「でも。」


 涙をぬぐい、まっすぐ前を向く。


「リリアは、もっと帰りたいと思う。」

「お父さんと、お母さんが待ってる。」

「だから。」

「お願い。」

「リリアを助けて。」

 白い世界が、わずかに震えた。

 人影は静かに目を閉じる。


「己より、他者を選ぶか。」

「うん。」

「悔いはないか。」


 ノアは少しだけ考えた。

 悔いはある。

 生きたい。

 もっと剣を振りたい。

 父に褒めてもらいたい。

 母のご飯も食べたい。

 兄と競争もしたい。

 まだ、やりたいことはたくさんある。

 それでも。


「悔いは、ある。」


 正直に答える。


「でも。」

「リリアが泣く方が、もっと嫌だ。」


 その一言に、人影は初めて沈黙した。

 長い、長い沈黙。

 やがて、小さく息を吐くように言う。


「……変わらぬな。」

「え?」


 ノアは首をかしげる。

 だが、人影はその問いには答えない。

 代わりに、静かに問いを重ねた。


「もし、その願いを叶える代わりに。」

「お前が生涯、誰にも認められぬ人生を歩むとしても。」

「それでも願うか。」


 ノアは意味がよく分からなかった。

 六歳の少年に、「生涯」という言葉の重みは想像できない。

 それでも。

 願いだけは変わらない。

 ノアはゆっくりとうなずいた。


「うん。」

「みんながリリアを笑顔にしてくれるなら。」

「僕が笑われてもいい。」


 その瞬間。

 白い世界に、初めて風が吹いた。

 何もなかった空間に、小さな光の粒が舞い始める。

 人影は、その光を静かに見つめながら呟いた。


「……ならば。」

「お前には、資格がある。」

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