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神枷を宿す少年は、大切な人を守るため剣を振る  作者: なごやかたろう
神枷

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12/13

神枷-02

 「少年。」


 静かな声だった。

 大きくもない。

 小さくもない。

 男とも女ともつかない、不思議な響き。

 それなのに、その一言だけは、まるで胸の奥へ直接届いたように感じた。

 ノアは息を整えながら、その人影を見つめる。


「……あなたは?」


 問いかけても、人影はすぐには答えなかった。

 白い衣だけが、風もない世界でゆっくりと揺れている。


「名を持たぬ。」


 ようやく返ってきた言葉は、それだけだった。


「え……?」

「名は、我を縛る。」

「ゆえに、名はない。」


 ノアは首をかしげる。

 意味が分からない。

 けれど、不思議と嘘をついているようには思えなかった。


「ここは……どこなの?」

「狭間。」

「はざま……?」

「生と死の狭間。」


 その言葉に、ノアの身体がぴくりと震えた。


「じゃあ……。」


 喉が詰まる。


「僕……死んじゃったの?」


 人影は首を横にも縦にも振らない。


「まだ。」


 短い返事だった。

 その一言に、ノアは大きく息を吐く。

 生きている。

 その事実だけで胸が少し軽くなる。

 しかし次の言葉が、その希望を静かに打ち砕いた。


「だが、このままでは死ぬ。」


 ノアの顔から笑みが消える。


「君も。」


 一拍置いて。


「少女も。」

「……っ!」


 ノアは思わず一歩踏み出した。


「リリアは!?」

「無事なの!?」


 初めて、人影の視線がわずかに揺れたように見えた。

 まるで、その反応を確かめるように。


「案ずるのは、自らではないか。」

「当たり前だよ!」


 ノアは叫んだ。


「リリアは怪我してるんだ!」

「走れないんだ!」

「僕はいいから!」

「リリアを助けて!」


 声が震える。

 必死だった。

 人影は静かにその叫びを聞いている。


「少年。」


 再び、その穏やかな声が響く。


「お前は、自らが死ぬことを恐れぬのか。」


 ノアは答えられなかった。

 怖い。

 死ぬのは怖い。

 家族にも、もう会えない。

 父にも。

 母にも。

 兄にも。

 それでも――。

 ノアはゆっくりと拳を握る。


「……怖いよ。」


 正直な気持ちだった。


「すごく怖い。」


 少しだけ俯く。

 けれど、すぐに顔を上げた。


「でも。」

「リリアは、もっと怖いと思う。」

「だから。」


 小さな拳を胸の前でぎゅっと握り締める。


「お願い。」

「リリアを助けて。」

「それだけでいい。」


 白い世界に、静寂が訪れる。

 人影は何も言わない。

 ただ、ノアを見つめていた。

 その沈黙は、ほんの数秒だったのか。

 それとも永遠にも感じられるほど長かったのか。

 やがて、人影は静かに口を開く。


「……そうか。」


 その声には、それまでにはなかった、わずかな感情が滲んでいた。

 驚き。

 あるいは――。

 遠い昔を思い出したような、かすかな哀しみ。

 そして、人影はゆっくりと右手を差し出す。


「ならば、一つ問おう。」


 白い空間が、かすかに揺らいだ。

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