第3話 王国の夜明け
聖女の軍は城外に撤退した。
一日の勝利をつかみ損ねた。
その意味を誰も知らない。
もう、二度と手に入らない勝利だ。
――俺の時間が始まる。
俺は、ジュリアス枢機卿が育てた“黒手”を呼び出す。内部工作の特務機関だ。
両軍は一週間にらみ合った。そして聖女の軍十万は退却した。兵糧がもたなかった。
何より、内部が崩壊していた。
三か月後、勇者ラインハルトは戦死する。
ラインハルトは、けなげにも魔王軍に占拠されたベルギット辺境伯領都の解放に向かった。
軍は二つに割れていた。王都では俺を中心に軍が再編されつつある。敵将たちはそちらを警戒した。しかし、ラインハルトは進軍した。
そして敵の魔将を打ち取った直後、絶命する。背後から矢を受けていた。
聖女の軍は崩壊した。疑心暗鬼となった軍の内紛は止められなかった。聖女は数千の味方とともに辺境の砦へと退却する。
途中、反乱軍は略奪を行った。聖女は止められなかった。
一年後、近衛師団長ギルベルト率いる軍が王都を出立する。聖女、いや逆賊アルテシアを討伐するためだ。アルテシアは自害した。死体は見つからなかった。
戦後、俺が最初にやったことは粛清だった。
貴族を徹底的に弾圧し、その領地を王家の直属にした。当然、貴族による反乱は起きた。後世に言う、『七貴族の乱』だ。中央軍は、圧倒的な勝利を収めた。
近衛隊と護衛隊が忠誠を誓う俺に、もう逆らう者はいなかった。俺は独裁制を敷いた。
十年後、王太子が即位する。国王ジークヴァルト三十六世。
俺は王直属の官僚団を整備した。それが完了した時、護衛隊を解散し、近衛隊に統合した。
そして俺は政治の一線から退いた。
あの戦いから二十年がたった。ベルセン王国は、ジークヴァルト三十六世のもと、かつてない繁栄を謳歌している。
俺も九十を超えた。
今では元枢機卿だ。政治と宗教を分離した。枢機卿を廃止し、今は教会長が教会の最高権力者だが国政には関与させない。
俺は大聖堂の中庭でまどろんでいた。そばを修道女の一団が通り過ぎた。先頭を歩く中年の修道女が静かに頭を下げた。そして礼拝堂へと向かった。
聖女アルテシアだった。
俺は静かに目を閉じた。
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連載の執筆中に浮かんだ構想を、短編としてまとめました。
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