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10 拷問部屋

「おいっどうした? おいっ」


 お姉さんでも通る美形な茶髪に肩を揺すられ、目の前で手がひらひらと揺れているのを眺めているうちに、だんだん焦点が合ってきた。


「おーい」


 視線を顔に向けると、とても心配そうな眼差しと目が合った。きっとこいつの作品にも酷い毒を吐きながら、感想入れてたんだよな。ぼんやりとそんな事を考えて、目をそらす。


 視界の片隅で美形な茶髪が紳士に事情を問いかけている。紳士はオカシナ声に取り憑かれたようだと真剣に答え、美形な茶髪は何と答えたものかといった顔をする。


「キャーーー!」


 大ホール前から甲高い悲鳴が響き、女性参加者が真っ青な顔で大ホールに飛び込んで来た。娘さんが慌てて駆け寄る。


「マダム、マダムが揺れながら、」


 女性参加者は娘さんに必死に抱きついて、すがりつきながらも誰かを探すように周りを見回した。


 マダム? 女神だろうか。一人で危険な扉の中に入ったのだろうか。ハッとする。逃げないと!


 俺は慌てて立ち上がり、玄関ホールの方向へ走り出した。皆どいてくれ。邪魔するな。ここにいちゃダメなんだ。


「落ち着いて下さい。お願いだから」


 気がつくと180㎝男を腰に巻き付けて、床に押し倒されたまま暴れていた。


「大丈夫です。俺があなたを守りますからぁ」


「は? 俺を?」


 何をバカなことを言ってるんだ。守るより離せ!俺は大男から逃れようと暴れる。


「そうです。俺はあなたに救われたんですぅ。だから絶対に守りますからぁ」


「いやいや、それを言うなら最終投稿組の俺だろ。まあ、俺は戦友って方がはまるけどな。今だって最終話の更新一緒にしようと思って待ってたんだし」


 続いて美形な茶髪まで…


「キャアアアッ イヤーーー!」


 再び悲鳴が聞こえて全員の視線が大ホール入り口へ。再現フィルムのように、また女性参加者が飛び込んで来る。


「マダムが、マダムが、」


 凄い早口で娘さんに説明している。マダムとはパワフル婆さんのことらしい。誰とも会わないと話題の通路でゆらゆらと揺れながら立っていて、先に現れた女性参加者は目があうと、その後に来た女性参加者は声をかけると、怨霊のような顔で駆け寄ってきた、揺れながら、目が血走っていた、とかなんとか。


「逃げるなよ。迷子かもしれないのに可哀想だろ」


 美形な茶髪の責める口調に二人の女性参加者はキンキン声で反論を繰り出す。イケメンに限るの発動条件を満たせなかった模様。


「そんなもんじゃない。あれはもうホラーよ」

「そうよ。取り憑かれてるとしか思えなかったわよ」

「捕まって私まで取り憑かれたらどうしてくれんの」

「そうよ。道連れを探しているのかもしれないじゃない」


 顔を見合わせる男性参加者たち。一瞬の間の後、大ホール前から悲鳴が続く。男も女も次々と、真っ青な顔で逃げ込んでくる。揺れながら移動しているらしきオカルト婆さんが個室にまで現れたとの証言が入る。


 そのオカルト婆さんが遂に大ホールに姿を見せた。


「「「 !!!!! 」」」


 絶句!絶句するしかない!


 物凄いスピードで大ホールを駆け抜けてあっという間に玄関ホールに消えたオカルト婆さん!そしてその後を追うお孫さん!


 慌てて追いかける美形な茶髪はどこか嬉しそうで、目を輝かせて玄関ホールへ突っ込んでいく。180㎝男がその後を追う。つられて俺も追う。


 そこにはウサギの着ぐるみに羽交い締めにされているオカルト婆さんの姿があった。羽交い締めにされているのに揺れています。首と手足が揺れています。確かにこれはホラーです。振り返ると、もれなく全員が怯えていた。


「あ、ホラーイベント?」


「え? ヤラセ?」


「精神状態が限界を訴えたのでしょう。君は大丈夫かな?」


 紳士が俺に向かって問う。恥ずかしくなり赤面してしまう俺。


「なんか今の騒ぎで正気を取り戻しました」


「よくあることです。逆に悪くなることもよくありますから、ショック療法はお勧めできませんが」


 紳士はにっこりと笑って言った。いやいや、俺は大丈夫かもしれないが、オカルト婆さんどうなっちゃうんだろうか…


 だが、それも問題ないとハイヒールのお姉さんから説明があった。元々オカルト婆さんの息子さんから申告があり、近場に医者と共に待機しているとのこと。


 なんでもエッセイを読んでは、自分が見聞きしたことのように語って楽しんでいる内に、自分を投稿しているユーザだと思い込んでしまい、孫を巻き込んでの参加に至ったが、イベント用の作品を書き始めてから記憶が飛んだり暴言を吐いたりの異常行動が出るようになる。イベントの参加を諦めさせることも考えたが、何も知らずに初めての小説を書き上げて喜色満面な息子に言い出せなかったそうだ。


 淡々とした口調でその場に居合わせたから、といった理由だろうか、割りと詳しく説明をするハイヒールお姉さん。口止めもなしにカツカツと足音をたてて去っていくハイヒールお姉さん。無表情なあなたと笑顔のウサギのコンビネーションも俺にはホラーです。


「た~だ~い~ま~~」


 女神が戻ってきた。腰が抜けてるのかヘロヘロな足取りで、ハイヒールお姉さんに支えられて歩いている。


「いや~、強烈だったわ。拷問部屋」


 そう言いながらもどことなく嬉しそう。


「見つけたのか!」


 食いつく美形な茶髪。好奇心溢れる少年の瞳とはこれのことか。


「こちらの方が入られたのは、クリアしていない方がたどり着く【館の怨念が聴こえる部屋】です。クリアした方をご案内する【自身の深層の声を聴かせる部屋】とは別の部屋となっております。我々はクリア報酬として、自身の内面を探るお手伝いを致しております。小説を書くということは、自分の内面を掘り下げて、汲み取り、それを外に表現するということ。単なる作文ではありません。運の強さでクリアされた方へは相応のダメージとなるでしょう。己の実力を過信することなかれという願いと戒めを込めておりますから」


 ハイヒールお姉さんの説明が胸を突く。い、痛い!


「あはは。運の強さでクリアってカレーマンぴったりだね」


「相応のダメージは相当なダメージでしたね」


 女神と紳士が笑い話にしてくれてます。もしかしてやっぱり俺のクリアは不満ですか?何か黒いですよ。その笑顔。


「あ、俺も内面とか考えてないんで、仲間です」


 ありがとう。180㎝男の仲間発言で俺のクリアは運の強さだけと決定しましたよ。

 どこまで抉られたら終わってくれるのでしょう。

 ここも拷問部屋ですか?


「クリアされたんですよ」


 不思議顔の美形な茶髪に説明する娘さん。


「マジか。ペンネームは?」


 それを受けて紳士が真顔で発表しました。


「伝説の英雄です」


 この場に居る全員が笑いを堪えています。


 今、この部屋こそ拷問部屋ではないでしょうか!


 *******


 イベント終了後、感想投稿者名の記載はイベントユーザ番号からユーザ名に変わるよう設定されています。事後の通達となりましたことをお詫び申し上げます。


 匿名でもコメントには細心の注意を払って頂きますよう、お願い申し上げます。




完結です。

読了ありがとうございましたm(__)m

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