■第7話 「ほんのりよりちょっと」の威力と、次のステージ
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本編スタートです。
翌朝、僕はいつもの『緑の草原』に立っていた。
草の海を前にして、腰の木箱から昨日貰い直したばかりの赤いポーションと青いポーションを取り出し、一気に飲み干す。
「さて、『ほんのりよりちょっと』のお手並み拝見といくか」
ガサガサッ! というお決まりの効果音とともに、草むらから角ウサギの大群が押し寄せてくる。僕は息を吸い込み、重い鉄剣を構えて群れの中に飛び込んだ。
「……あれ? 軽い!」
一振り目で、明らかな違いが分かった。
全てが二桁に乗った基礎ステータスと、効果が一段階アップしたポーションの相乗効果。今まで遠心力に任せて力任せに振り回していた安物の鉄剣が、今は自分の意思でしっかりとコントロールできている。
次々と飛びかかってくる角ウサギを、薙ぎ払い、弾き飛ばし、叩き斬る。
百匹の角ウサギの死体の山を築き上げた時点で、僕は自分の体の確かな進化に気がついた。
「息が……そこまで上がってないぞ」
レベル1の時は、百匹倒すだけで全身の筋肉が痙攣し、その場に大の字で倒れ込むほど疲労困憊だった。だが今は、うっすらと汗をかき、心地よい程度の疲労感があるだけだ。
神官の少女が言っていたことは本当だった。「ほんのり」と「ほんのりよりちょっと」の間には、確かな壁が存在したのだ。
「これなら、まだまだいける……!」
その日、僕は限界まで剣を振り続けた。結果として、一日でなんと八百匹もの角ウサギを討伐することに成功した。レベル1の時の限度であった五百匹を大幅に超える大記録だ。
もっとも、八百匹倒したということは、八百匹分の魔石を血まみれになってえぐり出すという地獄の解体作業が待っていたわけだが。
それからさらに一週間。
僕は異世界仕様の全回復システムを頼りに、毎日八百匹の討伐と解体を狂ったように繰り返した。
そして今日。
「……八百五個。これが今日の分です」
ギルドのカウンターに、鈍い音を立てて特大の麻袋を置いた。
受付嬢はもうすっかり慣れた手つきで麻袋を受け取ると、トレイに魔石を広げ、感嘆の声を漏らした。
「ふふっ、今日も凄い量ですね。毎日八百匹の討伐なんて、立派なものです。最近はギルド内でも、あなたのことを密かに『角ウサギの天敵』なんて呼ぶ人がいるくらいですよ」
周りをちらりと見渡すと、最初の頃のように僕を指差して大口を開けて笑う冒険者の姿は減っていた。さすがに毎日これだけの数を一人で黙々と狩り(そして泥だらけで解体し)続ける狂気じみた姿に、呆れを通り越して少し引いているのかもしれない。
「ありがとうございます。まあ、相変わらず角ウサギしか狩れない脳筋なんですけどね」
「そんなことありませんよ。それに、毎日これだけの数をコンスタントに倒せるようになったんですから、またレベルアップしているかもしれません」
受付嬢はトレイの魔石を片付けながら、にっこりと微笑んだ。
「どうですか? 久しぶりに鑑定してみませんか?」
「レベルアップ……!」
その言葉に、僕はドクンと心臓が跳ねるのを感じた。
一週間前、ようやく一桁から抜け出して二桁になった僕のステータス。あの地獄のような八百匹討伐を一週間も続けたのだから、今度こそ劇的な成長を遂げているかもしれない。
「……お願いします!」
僕は期待に胸を膨らませ、再びあの金属製の『ステータス測定板』へと向かった。
受付嬢の合図に合わせて、そっと板に手を乗せる。淡い光が浮かび上がり、見慣れた文字が形作られていった。
【レベル:3】
【筋力:18】
【体力:16】
【敏捷:17】
「……おおっ!」
僕は思わずガッツポーズをした。
劇的……とまでは言えないかもしれないが、確実に数値が伸びている! 初日の農家の子供以下のステータスからすれば、およそ倍近い成長だ。
「おめでとうございます、レベル3ですね! ステータスも順調に伸びているようです」
受付嬢も嬉しそうに拍手をしてくれた。
「ありがとうございます! これなら、明日からもっと角ウサギを狩れそうです!」
「あ、いえ。レベル3になったことですし、そろそろ新しい狩場へステップアップしてみてはいかがですか?」
「新しい狩場?」
受付嬢はカウンターの下から周辺地図を取り出し、トントンとある場所を指差した。
「はい。東門の『緑の草原』をさらに越えた先にある『岩鳴りの谷』です。ここには角ウサギよりも少し手強い『大牙コウモリ』や『はぐれゴブリン』などが生息しています」
「ゴブリン……ついにファンタジーらしい魔物のお出ましですね」
「ええ。角ウサギより凶暴で難易度は少し上がりますが、その分、得られる魔石の『質』が良くなります。なので、1つあたりのギルドでの換金率もグッと上がるんですよ」
魔石の質が良くなる。
その言葉を聞いて、僕の頭の中に神官の少女の言葉がフラッシュバックした。
『質の低い魔石をいくら大量に集めたところで、上質なポーションが精製できるわけがありませんよね? 当たり前のことです』
「……!! ということは、その新しい魔石を寺院に寄進すれば……!」
「はい? 寺院ですか?」
「いや、こっちの話です! なるほど、質の良い魔石……それは挑戦する価値がありますね!」
換金率が上がれば、もっといい装備が買える。
そして何より、質の良い魔石を寺院に持ち込めば、ついにあの『初心者お助けポーション』から卒業して、もっと強力な恩恵を得られるかもしれないのだ!
「よし、決まりだ。明日はその『岩鳴りの谷』に行ってみます!」
「ふふっ、応援していますよ。ただし、無理は禁物ですからね」
僕は受付嬢に礼を言い、換金したばかりのずっしりと重い銀貨の袋を鳴らしながらギルドを後にした。
レベル3のステータス、そして新しい狩場。チートなしの泥臭い僕の異世界ライフが、ここからまた一段階上のステージへと進もうとしていた。
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