■第6話 質と量の壁、そして微々たる恩恵
お読みいただきありがとうございます!
本編スタートです。
ずっしりと重い麻袋を背負い、僕は一週間ぶりに「手頃な寺院」の扉を押し開けた。
むせるようなお香の匂いと、ステンドグラスから差し込む色鮮やかな光。初日と変わらない光景の中、女神像の前で祈りを捧げていた神官の少女がこちらに気づいて微笑んだ。
「あ、勇者様!……の予定だった一般人様ですね。お久しぶりです」
「どうも。今日はギルドじゃなくて、こっちに魔石を直接寄進しに来たんだ。……はい、これ!」
僕は自信満々に、五百個の角ウサギの魔石が詰まった麻袋を床に置いた。
ギルドの受付嬢は(ようやくとはいえ)驚いて褒めてくれたのだ。神官の少女も、さすがにこれだけの量を一人で持ち込めば目を丸くして驚くに違いない。
「おや、こんなにたくさん。ありがとうございます、女神様もお喜びになりますよ」
しかし、少女の反応はごくごく普通だった。
麻袋の重さに驚くこともなく、さも日常の風景の一部であるかのようにニコニコと受け取っている。
「えっと……五百個あるんだけど。これって結構すごい寄進額になるんじゃないかな? もしかして、もっと強い効果のある上級ポーションとか貰えちゃったり……」
「少々お待ちくださいね」
僕の期待をよそに、少女は祭壇の奥へ引っ込み、やがて両手に見慣れた小さな木箱を抱えて戻ってきた。
中に入っているのは、赤と青の液体が揺れるガラスの小瓶。どう見ても、初日に貰った『初心者お助けポーションセット』と全く同じものだ。
「……あの、これ。初心者セットのままですよね?」
「はい! いつもの初心者お助けポーションセットです!」
「いや、だから五百個も寄進したのに!? 量が段違いなんですけど!」
思わず声を大にして抗議した僕に、少女は不思議そうな顔で小首を傾げた。
「あのですね。寄進していただいたのは『角ウサギ』の魔石ですよね?」
「うん。毎日毎日、死に物狂いで狩り続けた血と汗の結晶だよ」
「初心者向けの弱い魔物から採れる魔石は、中に含まれている魔力の『質』が低いんです。そうした質の低い魔石をいくら大量に集めたところで、上質なポーションが精製できるわけがありませんよね? 当たり前のことです」
ぐうの音も出なかった。
質より量でカバーできると思っていたが、この世界のシステムはそう甘くはなかったらしい。スライムを何万匹倒しても、伝説の剣がドロップしないのと同じ理屈だ。
「そんな……じゃあ、僕はずっとこの初心者ポーションで戦い続けるしかないのか……」
肩を落とす僕を見て、少女は慌てたようにパタパタと手を振った。
「あ、でも朗報もありますよ! 先ほどギルドでレベルアップされたんですよね?」
「うん、やっとレベル2になった。ステータスも全部二桁に乗ったし」
「それなら大丈夫です! このポーションは飲む人のレベルに応じて効果が跳ね上がりますから。レベル1の時は『ほんのり』でしたが、レベル2になった今なら、効果は『ほんのりよりちょっと効果あり』にパワーアップしています!」
「……それ、誤差の範囲じゃない?」
「違いますよ! 『ほんのり』と『ほんのりよりちょっと』の間には、大きな壁があるんですから!」
少女が力説する横で、僕はふと、素朴な疑問を口にした。
「それじゃ、実はもう効果が上がってたってこと?」
「いえ、先程鑑定されたのなら、効果が上がるのは明日からですよ。鑑定しないとレベルアップ自体がされないのは、ご存知ですよね?」
「……あ、そうなの?」
どうやら、敵を倒した瞬間にファンファーレが鳴って強くなるような、便利なシステムではないらしい。
まあ、いっか。そんな細かい理屈をこね回したところで、僕がやることは変わらない。
「まあ、いいや。明日を楽しみにしとくよ。ないよりはマシだしね」
僕は木箱を受け取り、深くため息をつきながらも寺院を後にした。
明日はまた、あの『緑の草原』で角ウサギの群れとの大乱闘が待っている。ステータスが二桁になった僕と、効果が少しだけ上がったポーション。
この微々たる変化が、あの地獄のような角ウサギ討伐にどんな影響をもたらすのか。
ほんの少しの期待と、やっぱり変わらないんじゃないかという不安を胸に、僕は足取りも軽く宿屋へと戻るのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
少しでも「面白い!」「次も読みたい!」「ヒョロガリ頑張れ!」と思っていただけましたら、
下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、毎日の執筆(解体作業)のモチベーションが爆上がりします!
ブックマーク登録も、ぜひよろしくお願いいたします!




