■第58話 深淵の走破と、気楽な寺院への帰還
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目眩ましを仕掛けてくる『閃光魔蝦』や、待ち伏せ特化の『アビス・アングラー』。
そんな暗闇の殺し屋たちが次々と襲い来る第4層を、僕はランタンの光と研ぎ澄まされた動体視力、そして純銀の暴力(物理)で片っ端から薙ぎ払っていった。
「ふぅ……。だいたいこの階層の構造と、敵のパターンは把握できたな」
真っ黒でどろりとした魔石や、鋭い甲殻の残骸をポーチに詰め込みながら、僕は海底のさらに奥へと目を向けた。
そこには、これまでとは比べ物にならないほど巨大で、不気味な冷たい水流が吹き出している『大穴』がぽっかりと口を開けていた。
光を一切反射しない、文字通りの真の深淵。間違いなく、第5層への入り口だ。
「今日はここまでにしておこう。あの下は、もっとヤバいのがウヨウヨしてそうだ」
深層の探索は精神的な疲労が大きい。僕は未練を断ち切るように踵を返し、『アクア・ブーストのブーツ』を全開にして、海面へ向かって一気に浮上を開始した。
暗黒の第4層から、キラキラと輝く第3層、サンゴ礁の第2層、そして冒険者たちで賑わう浅層を弾丸のように駆け抜ける。
ザバァァァッ!!
「ぷはぁっ! やっぱ太陽の光は最高だ!」
大水門の海面に飛び出した僕は、大きく深呼吸をして潮風と陽光を全身に浴びた。暗闇の世界に長くいたせいで、眩しい太陽の光がやけに目に沁みる。
大通りを抜け、ギルドで真っ黒な深層の魔石をいくつか換金(ついでにジュエルタートルのオークションがとんでもない額に吊り上がっていると報告を受けた)した後、僕は真っ直ぐに『気楽な寺院』へと向かった。
カランッ、と貝殻の風鈴を鳴らして中に入る。
「はーい、いらっしゃーい! あ、一般人様、おかえりなさい!」
いつものようにハンモックで揺られていた神官ちゃんが、僕の顔を見るなりパッと明るい笑顔を浮かべて飛び降りてきた。
「ただいま。今日は第4層まで潜ってきたから、かなり質のいい魔石が手に入ったよ」
「第4層!? もう光が届かない真っ暗なエリアじゃないですか! さすがですね!」
僕はポーチから、アビス・アングラーやフラッシュ・マンティスからドロップした、真っ黒で禍々しい魔力を放つ魔石を取り出し、祭壇の上にドンッと置いた。
「これ、寄進するよ。明日からさらに深い第5層に挑むから、ポーションの補充をお願いしたくて」
「わぁっ、こんなに濃密な魔石……! はいっ、女神様にお願いしてみますね!」
神官ちゃんが手を合わせて祈りを捧げると、真っ黒な魔石がシュンッと光となって消滅した。
カァァァァッ……!!
祭壇が眩い光に包まれ、次の瞬間、そこには木箱いっぱいの『上級バフポーション』と、あの金色の装飾が施されたガラス瓶――『水棲ポーション(絶級)』がずらりと並んで現れた。
「おおっ! 絶級ポーションがいっぱい出た!」
「やりましたね! 深層の高位魔石だったから、女神様も大盤振る舞いしてくれたみたいです!」
神官ちゃんが自分のことのようにニコニコと笑いながら、ポーションを袋に詰めて渡してくれた。暗く殺伐とした深海から帰ってきた後だと、彼女のこの裏表のない明るさと気楽な雰囲気が、本当に心に沁みる。
「ありがとう、神官ちゃん。これだけあれば、第5層でもガンガン戦えるよ」
「はい! でも、深く潜れば潜るほど海は危険になりますから、絶対に無理はしないでくださいね。危なくなったら、いつでもこのハンモックの横に逃げてきていいですから!」
「あはは、その時は頼りにさせてもらうよ」
僕はずっしりと重くなったポーションの袋を抱え、神官ちゃんに手を振って気楽な寺院を後にした。
宿屋に向かう帰り道、夕日に照らされる美しい水上都市の運河を眺めながら、僕はポーチの奥にある『七色の真珠』にそっと触れた。
明日はついに第5層。神の使い魔からのテストが待つ最深部も、きっとそう遠くないはずだ。
「待ってろよ、海のボス。僕の脳筋パワーを見せつけてやるからな」
気力も物資も完全に補充した僕は、次なる深淵への挑戦に向けて、静かに闘志を燃やすのだった。
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