■第57話 深海の閃光と、目眩ましの奇襲
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青白い『深海サンゴのランタン』の光だけを頼りに、真っ暗な第4層の底をさらに奥へと進んでいく。
道中、また懲りずに提灯で誘い込もうとしてくるアビス・アングラーが何度か襲いかかってきたが、僕はその度にシルバーソードを振るい、彼らを容赦なく仏(光の粒子)に変えていった。
「ふう……。暗闇での奇襲には慣れてきたけど、ワンパターンだな。ちょっと単調になってきたかも」
そんな軽口を叩きながら、ランタンの光が届く範囲の岩肌を警戒して泳いでいた、その時だった。
――ピカァァァァァァァァッ!!!!
「なっ……!?」
完全な暗闇に慣れきって、瞳孔が限界まで開ききっていた僕の目に、突如として強烈な白昼夢のような『閃光』が突き刺さった。
「ぐあっ!! 目がっ……!!」
物理的なダメージはない。しかし、視界は完全に真っ白に染まり(ホワイトアウト)、ランタンの光はおろか、自分の手元すら一切見えなくなってしまった。
真っ暗闇の世界で生きる深海生物にとってはもちろん、人間にとってもこれは致命的だ。
『視界を奪ってからの不意打ち』。
あまりにも恐ろしく、そして悪辣な狩りの手口。
(ヤバい、何も見えない! どこから来る……!?)
パニックになりかけたその瞬間、僕の『水棲ポーション(絶級)』で極限まで研ぎ澄まされた感覚が、右側面から急速に接近してくる「鋭い水流の乱れ」を察知した。
「そこかっ!!」
僕は見えない右側に向かって、咄嗟に純銀のシルバーソードを「盾」のように構えた。
ガキィィィィィンッ!!!!
重厚な金属の衝突音が海中に響き渡り、僕の体は凄まじい衝撃で数メートルほど後方へと弾き飛ばされた。
シルバーソードの腹で受け止めていなければ、シルバーアーマーごと胴体を貫かれていたかもしれないほどの、恐ろしく鋭く重い一撃だ。
「この野郎っ……!!」
弾き飛ばされた勢いを利用して水中で体勢を立て直し、僕は水流が乱れた方向へ向かって、やみくもにバケモノ級の筋力を乗せた『飛ぶ斬撃』を放った。
ズバァァンッ!!
何かの硬い甲殻を両断する生々しい手応えと共に、「ギャチィッ!」という短い悲鳴が響き、そして浄化の光が弾ける気配がした。
数秒後。
ようやくチカチカする視界が元に戻り始めた僕は、ランタンの光を頼りに、水底に落ちていたものに近づいた。
そこにあったのは、中位サイズの魔石と……ザリガニとカマキリを合わせたような、巨大な甲殻類のハサミの残骸だった。
「……『閃光魔蝦』か。なるほど、発光器官で目眩まし(フラッシュバン)を食らわせてから、超音速のパンチで獲物を仕留めるってわけだ」
僕は冷や汗を拭いながら、大きく息を吐き出した。
暗闇に潜み、相手の視界が闇に慣れたタイミングを見計らっての強烈な閃光。
そして視界を奪われた隙に、必殺の一撃を叩き込む。
ただ筋力とスピードでゴリ押ししてくる浅層の魔物とは次元が違う、純粋で恐ろしい「殺意のコンボ」だ。
「本当に油断も隙もないダンジョンだ……。動体視力を上げるポーションを飲んでなかったら、あの水流の変化に気づけず串刺しにされてたぞ」
もし普通の冒険者がこんな不意打ちを食らったら、何が起きたかも分からないまま海の底で仏になっているだろう。第4層の生存競争の過酷さに、僕は改めて背筋が凍る思いがした。
「気を引き締め直そう。ここは完全に、獲物を『狩る』ことに特化したヤツらの縄張りだ」
単調だなんて言った過去の自分を反省し、僕はランタンをしっかりと握り直した。
いつまた閃光が走るか分からない暗闇への恐怖と緊張感を胸に抱きながら、僕はさらに深く、海溝の迷宮の深淵へと足を踏み入れていった。
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