■第56話 深淵の第4層と、深海サンゴのランタン
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国宝級のドロップ品である『七色の真珠』をポーチの奥底に厳重にしまい込んだ翌日。
僕は再び完全武装を整え、迷宮の入り口である大水門の前に立っていた。
「よし。一攫千金イベントも終わったし、今日からいよいよ本格的な深層探索だ」
いつもの『上級バフポーション』と、気楽な寺院で貰った『水棲ポーション(絶級)』をあおり、全身に爆発的な力と魔力をみなぎらせる。
海に飛び込むと同時に『アクア・ブーストのブーツ』を全開にし、第1層の遺跡、第2層のサンゴ礁、そして第3層のキラキラ輝くエリアを弾丸のようなスピードで駆け抜けた。
辿り着いたのは、昨日ジュエルタートルと死闘(綱引き)を演じた、あの巨大な断崖絶壁だ。
ここから先は、太陽の光も発光サンゴの光も一切届かない、完全な暗闇の深淵である。
「出番だぞ、相棒その二」
僕は腰に下げていた『深海サンゴのランタン』に魔力を流し込んだ。
すると、ランタンの中の特殊なサンゴがぼわぁっと青白い光を放ち、僕の周囲十メートルほどの空間を昼間のように明るく照らし出した。
「おおっ、エルフのお姉さんが言っていた通りだ。めちゃくちゃ明るい!」
視界を確保した僕は、絶壁の縁を蹴って、真っ暗な第4層の底へと向かってゆっくりと降下を始めた。
光の境界線を越えた瞬間、周囲の景色は一変した。
音もなく、ただ圧倒的な静寂と、どこまでも続く黒い水の世界。水温も急激に下がっているのが肌で分かるが、ポーションのおかげで凍えることも、凄まじい水圧で押し潰されることもない。
「……なんか、急にホラーゲームみたいな雰囲気になってきたな」
ランタンの光が届かない真っ暗な領域から、無数の「何か」がこちらを見つめているような不気味な気配を感じる。
しかし、ランタンから放たれる特殊な光の波長のおかげか、小型の気味が悪い深海魔物たちは「チチチッ」と嫌な音を立てて暗闇の奥へと逃げていく。
「魔除け効果もバッチリだ。これなら無駄な戦闘は避けられそう……ん?」
降下を続けていた僕の視界の端で、暗闇の中にポツンと、淡く発光する丸い玉が揺れているのが見えた。
「なんだあれ? 宝玉か? それともまた珍しい真珠……」
僕が不用意に近づこうとした、その時。
『絶級』のポーションによって飛躍的に引き上げられた動体視力が、その光る玉の背後にある「巨大な輪郭」をハッキリと捉えた。
真っ暗な岩肌に擬態した、岩山のように巨大な体。
そして、その光る玉のすぐ下でパックリと開かれた、ノコギリのような牙が何重にも並ぶ、大洞窟のような『口』。
「……うおっと危ねえ!! 古典的なチョウチンアンコウの魔物じゃないか!!」
僕が急ブレーキをかけて後退した瞬間、獲物が引っかからなかったことに業を煮やした巨大深海魚『アビス・アングラー』が、暗闇の中から凄まじいスピードで突進してきた。
『ゴボォォォォォッ!!』
周囲の海水を丸ごと飲み込むような、恐ろしい吸引力が僕を襲う。
「悪食のサメの次は、丸呑みアンコウか! 海の魔物はどいつもこいつも食欲旺盛だな!」
僕は引き寄せられる水流に逆らうことはせず、逆にアクア・ブーストで加速してその巨大な口の中へと自ら飛び込んだ。
「ウォーター!!」
牽制の簡易魔法をアンコウの喉の奥に向けて放ち、相手が怯んだ一瞬の隙を突く。
そして、バケモノ級の筋力とバフの力をすべて込めた純銀のシルバーソードを、内側から天井(上顎)に向かってフルスイングした。
ズバァァァァァァッ!!
分厚い装甲のような皮膚も、内側からなら関係ない。
純銀の特効を乗せた一撃は、巨大なアビス・アングラーの巨体を内側から見事に真っ二つに切り裂いた。
断末魔を上げる間もなく、巨大な深海魚は浄化の光とともに弾け飛び、真っ黒でどろりとした気味の悪い魔石をコロンと落とした。
「ふぅ……。暗闇での奇襲は心臓に悪いな」
僕はランタンの光を頼りに真っ黒な魔石を拾い上げ、ポーチに放り込んだ。
どうやら第4層は、これまでの美しい海の世界とは完全に毛色が違うようだ。
身を隠し、獲物を確実に仕留めようとする、純粋な殺意と生存競争の領域。
「でも、こういうヒリヒリするダンジョンの方が、僕の肌には合ってるかもな」
ランタンの青白い光を揺らしながら、僕は純銀の剣を構え直し、さらなる深淵へと向かって力強く泳ぎ進んでいった。
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