■第43話 迷宮の門前払いと、うっかり者の受付嬢
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完璧な装備とアイテムを揃え、意気揚々と『海溝の迷宮』の入り口へとやってきた僕は、さっそく出鼻を挫かれることになった。
迷宮の入り口は、街の端にある巨大な水門のような場所だった。そこから石造りの階段が、青く澄んだ海の中へとずっと続いている。
いざ潜ろうと準備体操をしていた僕の前に、槍を持った屈強な迷宮の門番が立ち塞がった。
「止まれ。海溝の迷宮へ入るには、ギルドが発行する『潜水許可証』が必要だ。提示しろ」
「……はい? 許可証?」
「持っていないのか? 水没迷宮は溺死のリスクが極めて高い。一定以上の潜水スキルや対策アイテムを持っているとギルドに証明し、許可を得た者しか立ち入ることはできない決まりだ」
僕は思わず目を丸くした。
「い、いや、ついさっきギルドで迷宮の話を聞いてきたんですけど、そんな許可証のことなんて一言も……」
「知らん。許可証がないなら通すわけにはいかん。出直してこい」
「そんな殺生な! こっちは全身コーティングも済ませて、やる気満々なんですよ! ちょっとくらい融通利かせてくれたって……」
「ダメなものはダメだ! ギルドで文句を言え! ほら、次!」
頑固な門番相手にこれ以上押し問答をしても無駄だと悟った僕は、肩を落として踵を返した。
海竜の脂でツヤツヤになった純銀の鎧を鳴らしながら、再びギルドへと逆戻りである。
カランッ!
「すみませーん! 迷宮の入り口で、許可証がないからダメだって追い返されたんですけど!」
僕が少し恨めしそうな声でカウンターに向かうと、先ほど応対してくれた日焼け肌の快活な受付嬢が、ピタッと動きを止めた。
彼女は数秒ほど瞬きを繰り返した後、ポンッと自分の頭を軽く叩いて舌を出した。
「あちゃー! ごめんなさーい! すっっっかり忘れてました、てへっ!」
「てへっ、じゃないですよ! こっちは重い鎧で街の端から端まで往復する羽目になったんですから!」
「いやあ、お兄さんが最初からすごい自信満々で『手頃な寺院』の神官様を頼るって言い出したから、すっかりベテランの海ダイバーだと思い込んじゃってて! 本当にごめんなさい!」
悪びれつつもどこかカラッとした謝罪に、僕は毒気を抜かれてため息をついた。バベルの眼鏡の受付嬢のように理路整然と管理されているのも緊張するが、この街のギルドは少しフランクすぎる気もする。
「それで、その許可証ってすぐにもらえるんですか? 何か潜水テストとかあるなら面倒なんですけど」
「大丈夫ですよ! ギルドカードを貸してください。これまでの実績とレベルを確認して、規定を満たしていればすぐに発行しますから!」
僕が手渡したギルドカードを、受付嬢が魔道具の読み取り機に乗せる。
その瞬間、彼女の「てへっ」と笑っていた顔が、ピシッと固まった。
「……えっと? レ、レベル13……? しかも、迷宮都市バベルの下層を……ソロで踏破……!?」
彼女は信じられないものを見るように、カードと僕の顔を何度も見比べた。
「あの、お兄さん……もしかして、他所のギルドで最近噂になってるっていう、ステータスがバケモノ級の『銀騎士』様ですか……?」
「あー、はい。その恥ずかしい二つ名は僕のことですね。一応、バベルのギルドでもそれなりに実績は積んできたつもりです」
受付嬢は慌てて姿勢を正し、先ほどの気安い態度から一転して、プロの顔つき(ただし少し引きつっている)になった。
「し、失礼いたしました! バベルの下層を単独踏破できるだけの実力と実績があれば、当迷宮の潜水許可は無条件で下ります! まさかそんなとんでもない大物だったなんて……!」
彼女は猛烈な勢いで書類にサインをし、耐水加工された銀色のタグ――『潜水許可証』を差し出してきた。
「はい、こちらが許可証になります! どうぞ、ご武運を!」
「ありがとうございます。じゃあ、今度こそ行ってきますね」
あっさりと許可証をゲットした僕は、ギルドを後にした。
少し回り道をしてしまったが、これでようやく堂々と迷宮に潜ることができる。
「さあ、待ってろよ海溝の迷宮!」
潮風を切り裂きながら、僕は再び迷宮の入り口である巨大な水門へと向かって駆け出した。次なる舞台、青く薄暗い海底のダンジョンが、すぐそこまで迫っていた。
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