■第4話 異世界の常識と、二日目の全回復
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本編スタートです。
百匹以上の角ウサギを解体し終えた頃には、日はすっかり傾いていた。
血と泥と得体の知れない体液にまみれ、僕はゾンビのような足取りで冒険者ギルドへと帰還した。
「……はぁ、はぁ……」
カウンターに、ずっしりと重い血まみれの麻袋をドサリと置く。
「……角ウサギの魔石です。数えたら、百と少しありました……」
ステータス一桁の素人が、初日で百匹以上の魔物を討伐したのだ。「百匹も!? 初心者なのに凄いですね!」と、受付嬢が目を丸くして驚く姿を想像していた。チート能力がないなりに、僕も結構やった方ではないか、と。
「はい、お疲れ様でした。確認しますね」
しかし、受付嬢は顔色一つ変えずに袋を受け取ると、あまりにも手慣れた様子で魔石をトレイに出し、カチャカチャと数え始めた。
「えっ?」
拍子抜けして固まる僕の前で、受付嬢は淡々と銀貨を並べる。
「はい、百三個ですね。こちらが本日の討伐報酬と魔石の買取額になります」
「あ、あの……百個ですよ? 初心者にしては、その、結構頑張った方じゃ……」
僕が思わず口走ったその時、背後からまたしても聞き覚えのある笑い声が飛んできた。
「おいおい、たった百個かよ。まだまだだなァ!」
振り返ると、昼間に僕を「魔物にも相手にされない」と笑っていた冒険者の男が、ニヤニヤしながらジョッキを傾けていた。
「死にそうな顔してるが、初心者ならそんなもんだろうな。だがよ、俺たちなら一回で一人あたま三百は採ってくるからな。もっと手際よくやらねえと、日が暮れちまうぜ?」
「さ、三百……?」
僕は絶句した。
あんな死闘を、いや、あれの三倍の地獄を、この世界の住人は「普通の日課」としてこなしているというのか。
チート勇者どころか、その辺の一般冒険者ですらこれだ。ステータス一桁の僕と、異世界の常識。その圧倒的な壁を前に、僕はただ肩を落とすしかなかった。
ギルドで換金したお金と、神官の少女からもらった支度金の残りを握りしめ、僕は手頃な宿屋兼食堂へと転がり込んだ。
運ばれてきたのは、黒くて硬いパンと、よく分からない肉の塩茹で。元の世界なら顔をしかめていたかもしれない質素な食事だったが、極限まで疲労した体には信じられないほど美味く感じた。
胃袋に食べ物を詰め込み、部屋を借りて泥のようにベッドへ倒れ込むと、僕は気絶するように眠りに落ちた。
そして、翌朝。
「ん……あ、あれ?」
朝日を浴びて目を覚ました僕は、ベッドから身を起こして自分の体をペタペタと触った。腕を回し、屈伸をしてみる。
昨日あれだけ重い鉄剣を振り回し、全身の筋肉が悲鳴を上げていたはずなのに、筋肉痛はおろか、疲労感すら綺麗さっぱり消え去っているのだ。
「すげえ……一晩寝たら全回復してる!」
どうやらこの世界、「チート能力を弾いてしまう」という理不尽なバグがある一方で、食事と睡眠による回復メカニズムだけはゲームのように親切な「異世界仕様」になっているらしい。黒くて硬いパンと謎の肉を詰め込んで寝ただけで、これほどスッキリ目覚められるとは驚きだ。
これなら、連日の無茶な討伐もなんとかこなしていけそうだ。
「昨日は百ちょっとだったな……」
顔を洗いながら、ギルドで笑っていた冒険者の言葉を思い出す。『俺たちなら一回で一人あたま三百は採ってくる』。
一桁ステータスの僕からすれば途方もない数字だが、あの地獄のような群れとの戦いをもう一度乗り越え、もう少しだけ手際よく立ち回れば——もうひと頑張りすれば、今日は二百はいける気がする。
いや、当面の目標として、早く彼らの言う「普通」の三百に到達しなければならないのだ。そうしないと、寺院に寄進してより強いポーションを手に入れるための資金がいつまで経っても貯まらない。
「よし、やってやる。今日の目標は二百だ!」
僕は重い鉄剣を背負い、気合を入れ直して宿を飛び出した。
向かうは昨日と同じ、東門を出てすぐの『緑の草原』。
草の海を前にして、僕は腰の木箱から神官の少女に貰ったポーションを取り出した。昨日の教訓から、遭遇率が異常なことは分かっている。出ない時は全く出ないが、出た瞬間に大群に囲まれるのだ。焦って戦いの中で飲むより、先にバフをかけておいた方が絶対に安全だ。
赤い小瓶と青い小瓶の蓋を開け、一気に煽る。
ドクン、と体に力が漲ってくるのを感じながら、僕は鉄剣を構えて草むらへと足を踏み入れた。
「さあ来い、角ウサギ! 今日は二百匹狩ってやる!」
果たして二日目の討伐はどうなることやら。僕は再び過酷な現実へと飛び込んでいった。
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