■第39話 バベルからの旅立ち
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
それでは、本編をお楽しみください!
高位悪魔からの過酷なテストを乗り越え、下層クリアの証である『深淵の魔石』を手に入れた翌日。
僕は迷宮へは向かわず、お世話になったバベルの街の人たちへ挨拶をして回ることにした。
まずは、ドワーフの鍛冶職人たちが並ぶ通りへ。
見覚えのある無骨な武具屋の暖簾をくぐると、奥からカンカンと小気味よい槌音が聞こえてきた。
「親父さん、こんにちは」
「おう、坊主か。……その顔つき、どうやらやり遂げたようだな」
顔を上げたドワーフの親父さんは、僕の全身を包む白銀の装備を見て、ニヤリと笑った。
「ええ。親父さんが極限まで鍛え上げてくれたこの『純銀の装備』のおかげで、下層の最深部まで踏破できました。本当にありがとうございました」
「ふん、腕の良い職人が打った業物を、使い手がしっかり使いこなしたってだけだ。手入れが必要になったら、いつでも送ってきな。最高の状態に直してやるからよ」
「はい、頼りにしてます!」
次に向かったのは、西区の裏通りにある『黒猫の宝箱』だ。
カランカランッ!
「いらっしゃい、にゃあ。あら、銀騎士のお兄さんじゃない。今日はどんな珍しい魔石を持ってきてくれたの?」
「今日は魔石じゃなくて、お礼を言いに来たんです。お姉さんの作ってくれた『抗瘴気のマスク』と『清明の耳飾り』のおかげで、下層の環境を生き抜くことができました」
僕が深く頭を下げると、黒猫のお姉さんは少し照れくさそうに尻尾を揺らした。
「にゃふふっ、私の天才的な魔道具のおかげね! ……でも、あの時間制限つきのキツい制約の中で、本当に最深部まで行き着いちゃうなんてね。アンタのその規格外の体力と根性にも、ちょっとだけ敬意を払ってあげるわ」
そして、いつもの『適当な寺院』へ。
「ああっ! 旅人様! 女神様のご加護はありましたか!?」
「神官ちゃん。リジェネ・ポーションと浄化のポーション、本当に助かったよ。これ、下層で集めた最後の魔石。全部寄進していくね」
「ひゃあああっ! こんなに大量の極上魔石……! 女神様も絶対に大喜びです! 旅人様、本当にありがとうございます!」
神官の少女は感涙にむせびながら、僕の手をぎゅっと握りしめてくれた。
「これでもう、当分ポーションには困らないくらいストックができたよ。神官ちゃんも元気でね」
最後に足を向けたのは、冒険者ギルドだ。
扉を押し開けると、いつものように荒くれ者の冒険者たちで賑わっていた。
「おっ、銀騎士の兄ちゃんじゃねえか! 今日は随分と遅い出勤だな!」
下層で助けたベテランパーティのリーダーが、ジョッキを片手に声をかけてくる。僕は苦笑いしながら彼らに手を振り、カウンターへと向かった。
「こんにちは、受付嬢さん」
「……こんにちは。今日はずいぶんと穏やかな顔をされていますね。何か、特別な報告でも?」
眼鏡をクイッと押し上げた受付嬢に、僕は懐から漆黒に輝く宝石――『深淵の魔石』を取り出して、コトリとカウンターに置いた。
「これ、下層の最深部にいた高位悪魔から貰った『クリアの証』です。これで僕、この迷宮都市バベルのダンジョンを踏破したってことでいいんですよね?」
その瞬間、受付嬢の動きがピタリと止まった。
彼女は震える手で『深淵の魔石』を拾い上げ、信じられないものを見るように目を限界まで見開いた。
「ま、まさか……あの下層の絶対的な支配者から、直接これを……!? ソロで、下層を完全クリアしたというのですか……!?」
受付嬢の悲鳴のような声に、ギルド内の喧騒が一瞬にして静まり返った。
そして次の瞬間、屋根が吹き飛ぶかと思うほどの爆発的な歓声が巻き起こった。
「うおおおおおっ!! マジかよ!!」
「ソロで下層クリア!? 歴史的快挙じゃねえか!!」
「俺たちの銀騎士が、またやりやがったぞーっ!!」
もみくちゃにされながら、僕は集まってくる冒険者たちに笑いかけた。
「みんな、ありがとう! でも、僕はこの街を出ることにしたんだ」
「「「えっ!?」」」
「このバベルのダンジョンはクリアしたからね。もっと自分の実力を試せる、次のダンジョンがある街へ向かおうと思う」
チート能力を弾かれ、農家の子供以下のステータスから始まった僕の冒険。
ポーションをガブ飲みし、泥臭く剣を振り回し続けてきた結果、気づけばこの巨大な迷宮都市の深淵まで辿り着いてしまった。
「……そうですか。貴方様なら、きっとそうおっしゃると思っていました」
受付嬢は寂しそうに微笑みながらも、深く、敬意を込めて頭を下げた。
「貴方様のこれからの旅路に、大いなる武運があらんことを。ギルド一同、心より応援しております」
「兄ちゃん! 次の街でも暴れてこいよ!」
「絶対死ぬなよーっ!」
顔なじみの冒険者たちの大声援を背に受けながら、僕はギルドを後にした。
眩しい太陽が照りつけるバベルの街並み。
頼れる相棒の純銀装備、腰でカチャカチャと鳴る大量の特級ポーション、そして、竜と悪魔から貰ったクリアの証。
「出る杭は打たれる」というモットーはどこへやら、すっかり目立ちまくってしまったが、後悔はない。
「よし……行こう!」
僕は振り返ることなく、次なる未知のダンジョンが待ち受ける新たな街へと向かって、力強く歩み出した。
チートなしの泥臭いソロ冒険者の旅は、まだまだ終わらない。
(第二部 完)
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