■第38話 神の使い魔と、力量を測るテスト
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身体強化のポーション、持続回復のポーション、そして簡易浄化魔法のポーション。
ありったけの霊薬を胃袋に流し込み、ステータスを極限まで引き上げた僕は、最深部を塞ぐ巨大な『黒鉄の扉』に両手を当てた。
「ふんっ……!!」
筋力値160オーバーのパワーで押し込むと、扉はギゴゴゴゴッ……と重々しい音を立てて開いていく。
扉の向こうに広がっていたのは、広大で荘厳な地下神殿のような空間だった。
その中央にある漆黒の玉座。そこに深々と腰を下ろしていたのは、背中に巨大なコウモリの翼を持ち、頭部に立派な山羊の角を生やした、美しくも禍々しい『高位悪魔』だった。
彼から放たれる濃密な紫色の『瘴気』が、玉座から滝のように溢れ出し、下層の空間全体へと広がっていくのが見える。
「……なるほどな。アンタがこの下層の『ボス』ってわけか」
僕はシルバーソードを構えたまま、玉座の悪魔を睨みつけた。
すると悪魔は、真紅の瞳を細めて面白そうに口角を上げた。
『いかにも。我はこの迷宮都市の下層領域を任されし者。我が身から溢れる瘴気がアンデッドを生み、この階層を満たしている』
悪魔の言葉を聞いて、僕は確信した。
最初の狩場であった竜骨の荒野の最深部にいた、あの美しいドラゴンと同じだ。
「やっぱり。……アンタ、あの髭の大雑把な『神様』の使い魔だろ」
僕がそう指摘すると、悪魔は少しだけ驚いたように目を丸くし、やがて「くくっ」と低い声で笑い出した。
『……ほほう。ただの人間が、我ら使い魔と創造主(神)との関係、そしてこの世界のエコシステムの真実を知っているとはな』
「ああ、本人から直接聞いたからね。アンタたちが魔素や瘴気を出して魔物を生み出し、それを人間が倒して魔石にする。だから、ダンジョンのボスであるアンタを倒しきっちゃいけないんだろ?」
僕は肩の力を抜き、剣の切っ先を下げた。
荒野のドラゴンは、僕が神のギフト(チート能力)を持たずに辿り着いたことを知り、戦うことなくクリアの証をくれた。この悪魔も話が通じるなら、無駄な戦闘は避けられるはずだ。
「事情は分かってる。アンタを倒すつもりはないから、この下層をクリアしたっていう『証』、さっさと貰えないかな?」
僕が気楽な調子で手を差し出すと――悪魔はゆっくりと玉座から立ち上がり、その全身から途方もない殺気と瘴気を膨れ上がらせた。
『……竜骨の荒野にいるあの老竜は、ずいぶんと人間を甘やかしているようだな』
「えっ?」
『我はあのような甘さ(テスト)は許さん。我が領域を踏破し、さらに奥へと進む資格があるか……貴様の力量、この我が直々に測ってやろう!!』
ドゴォォォォンッ!!
悪魔が翼を羽ばたかせた瞬間、爆風のような瘴気の塊が飛んできた。
僕は慌てて横に跳躍して躱したが、僕がさっきまで立っていた石畳は、一撃で粉々に吹き飛んでいた。
「ちょっ、待てよ! 倒しちゃいけない相手と本気で戦うなんて、理不尽すぎるだろ!?」
『案ずるな! 貴様のその純銀の剣で全力で斬りかかってこようと、我は決して死なん!! 手加減などせず、死ぬ気で来い、人間!!』
高笑いとともに、悪魔の手から黒い稲妻のような魔法が次々と放たれる。
「クソッ、あの神様の使い魔はどいつもこいつも極端なんだよ!」
僕は悪態をつきながら、バケモノ級の敏捷性で黒い稲妻を紙一重で躱し、悪魔の懐へと一気に踏み込んだ。
「ウォーター!」
牽制の簡易魔法を放ち、悪魔がそれを瘴気で弾いたその一瞬の隙を突く。
筋力とポーションのバフを全て乗せた、僕の今の最高火力。
「飛べえええええっ!!」
シルバーソードを渾身の力で振り抜き、至近距離から超巨大な『銀の浄化の光を纏った飛ぶ斬撃』を放つ。
下層の魔物なら、触れた瞬間に数百匹まとめて灰にするであろう必殺の一撃。それが、悪魔の胴体に直撃した。
ズバァァァァァンッ!!
神殿全体が揺れ、強烈な閃光と爆煙が巻き起こる。
「やったか!?」と息を呑む僕の前で――煙が晴れると、そこには。
『……素晴らしい一撃だ』
片手で僕の斬撃を受け止め、少しだけ手のひらから浄化の煙を上げながらも、無傷で微笑む高位悪魔の姿があった。
「嘘だろ……あれを片手で……」
『純銀の特効を乗せた飛ぶ斬撃。そして何より、神の恩恵を持たず、己の肉体と努力のみで練り上げられたその身のバネ。……見事だ』
悪魔はパンパンと手を払い、先ほどまでの殺気を嘘のように霧散させた。
そして、満足げに頷くと、宙に一つの漆黒の宝石を浮かび上がらせ、僕の足元へふわりと落とした。
『合格だ、小さき人間よ。これは我が力を分けた【深淵の魔石】。貴様がこの下層領域を完全にクリアしたという証だ』
僕は膝から崩れ落ちそうになるのを堪え、ゼェゼェと息を切らしながらその宝石を拾い上げた。
「ハァ……ハァ……マジで、死ぬかと思った……」
『くくっ。よいテストであった。これからも精進するがいい、異端の冒険者よ』
悪魔は再び玉座に深く腰を掛け、面白そうに喉を鳴らした。
倒してはいけない、世界を回すための絶対的な存在。
彼ら神の使い魔からの過酷な「テスト」を見事乗り越え、僕はついに下層クリアの証を手に入れたのだった。
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