■第37話 危険地帯の強行突破と、最深部への扉
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「こんな常に死と隣り合わせの危険なダンジョン、長居は無用だ。早々に踏破してやるに限るな」
翌日、再び下層の入り口に立った僕は、マスクの隙間から深く息を吸い込み、決意を固めた。
これまでは「安全に稼げる範囲」でちまちまと狩りをしていたが、ミスト・ストーカーのような初見殺しのバケモノが湧くとなれば話は別だ。時間をかければかけるほど、アイテムの制限時間と予期せぬリスクに押し潰される。
ならば、取るべき戦術はただ一つ。
『圧倒的なスピードで、一気に最深部まで駆け抜ける』ことだ。
僕は腰のポーチから、神官ちゃんに貰った『リジェネ・ポーション』と、新兵器である『浄化のポーション』を取り出し、二本まとめて一気に飲み干した。
持続回復の温かい光と、清らかな魔力が体の内側を満たしていくのを感じる。
「『抗瘴気のマスク』よし。『清明の耳飾り』よし。……いくぞ!」
僕は床の石畳を力強く蹴り飛ばし、紫色の瘴気が立ち込める下層の深部へと、文字通り「白銀の弾丸」となって飛び込んだ。
――ゴォォォォッ!!
レベル20オーバー、三桁に達したバケモノ級の敏捷性が生み出すトップスピード。
周囲の景色が線のように後ろへとすっ飛んでいく。濃密な瘴気がマスクのフィルターを悲鳴を上げさせ、漏れ出した毒素が皮膚を焼くが、それと同時にリジェネ・ポーションが細胞を再生していく。
「ギガァッ!?」
「シュルルルルッ!」
僕の凄まじい足音と気配に気づき、瘴気の奥から無数のスケルトンナイトやレイス、そしてさらに上位のアンデッドたちが次々と立ち塞がる。
「邪魔だッ!」
僕は歩みを一切緩めず、走りながら右手を突き出した。
浄化のポーションによって付与された力が、手のひらに収束する。
「簡易浄化魔法、連射!!」
ピシュゥゥゥッ! ピシュンッ!
指先から、眩い光の弾丸が次々と放たれる。本来は「低級」の魔法だが、僕の異常なステータスと魔力によって射出速度がとんでもないことになっていた。
光の弾丸が直撃したスケルトンやレイスは、「ギィヤァァッ!」と断末魔を上げて次々と浄化の煙に変わっていく。
魔法一発では倒しきれない重装甲のデスナイトや、実体を持たないミスト・ストーカーが光の弾幕を抜けて迫ってきたら、そこは親父さん特製の『シルバーソード』の出番だ。
「はぁぁぁっ!!」
すれ違いざまの一閃。
もはや一撃で完全に灰にすることはできなくなっていたが、それでも純銀の刃が与える「浄化の猛毒」は健在だ。斬り裂かれた魔物たちは致命的なダメージを負い、体勢を大きく崩す。
僕は彼らにトドメを刺すことなく、開いた隙間を縫うようにして、ただひたすらに下へ下へと続く階段を目指して駆け抜けた。
戦うのではなく、突破する。
迷宮のセオリーを無視した強行軍だ。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……!」
どれくらい走り続けただろうか。
何十という部屋を抜け、いくつもの階段を転がり落ちるように下り、ポーションの効果が切れかけてきたその時。
――スッ。
突然、周囲を覆っていた息苦しい紫色の靄が、嘘のように晴れた。
『清明の耳飾り』の警告音も止まり、『抗瘴気のマスク』のフィルターも静かな呼吸音を取り戻す。
「……抜けた?」
僕は急ブレーキをかけ、勢い余って石畳の上をズザーッと滑りながら周囲を見渡した。
そこは、瘴気も精神干渉の霧も一切存在しない、不気味なほどに静まり返った巨大な大広間だった。
空気はひんやりと澄み切っており、広間の奥には、禍々しいレリーフが彫り込まれた見上げるほど巨大な『黒鉄の扉』が、重々しく鎮座している。
「……間違いない。ここが下層の最深部だ」
乱れた呼吸を整えながら、僕はその巨大な扉を睨みつけた。
これまでの階層の法則からして、あの扉の向こうにいるのは、下層を統べるボス魔物に違いない。あいつを倒せば、この過酷な下層を「クリア」したことになるはずだ。
「よし、ポーションの追加だ。バフも全部乗せで行くぞ」
僕は腰のポーチからありったけのポーションを取り出し、来るべき決戦に向けて万全の準備を整え始めた。
下層の深部を力技で突破し、ついに辿り着いた最深部。
ソロ冒険者の意地と、生き残りを賭けた総力戦の幕が、今まさに上がろうとしていた。
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