■第36話 浄化のポーションと、深部への警戒
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命からがら「音なき大群」を退けた僕は、逃げるように迷宮を脱出し、真っ直ぐにいつもの『適当な寺院』へと駆け込んだ。
「神官ちゃん! 寄進だ! 今日は過去最高にヤバい魔石を持ってきたぞ!」
「ひゃあああっ! 旅人様、お怪我はありませんか!? ……って、この魔石、すっごく濃密な闇の力を感じます!」
僕が麻袋から取り出したのは、あの『ミスト・ストーカー』の大群からドロップした、漆黒に淀んだ極上の魔石だ。
神官の少女がそれを震える手で祭壇に捧げると、祭壇がこれまでにないほど眩い光に包まれ、コロンと淡く発光する新しい小瓶が現れた。
「女神様からの新たな授かりものです! 旅人様、やりました! これは……『浄化のポーション』ですね!」
「浄化のポーション?」
「はい! 飲めば一定時間、『簡易浄化魔法(低級)』が使えるようになる素晴らしい秘薬です! 下層のスケルトンナイトやレイス程度なら、この魔法をピュッと放つだけで一撃で浄化できますよ!」
なるほど。わざわざ銀の剣で斬り結ばなくても、遠距離から魔法で安全に処理できるようになるのか。アンデッドの群れを相手にするなら、これ以上ないほど便利な代物だ。
「ありがとう、女神様と神官ちゃん! これで探索がまた少し楽になるよ」
僕はポーションを受け取りながら笑顔を見せたが、内心では極めて冷静に状況を分析していた。
確かに、普通のスケルトンやレイスには効果絶大だろう。だが、今日遭遇したあの『ミスト・ストーカー』のような、瘴気そのものが凝縮したようなバケモノに対しては、低級の浄化魔法が一発当たったくらいでは絶対に倒しきれないはずだ。
それに……と、僕は背中のシルバーソードに視線を向けた。
これまでは「純銀」という絶対的な特効のおかげで、触れるアンデッドをことごとく一撃で灰にしてきた。だが、ミスト・ストーカーの大群を薙ぎ払った時、銀の刃が相手を浄化する一瞬に、これまでにない「重い抵抗」を感じたのだ。
(下層の深部に行けば行くほど、魔物の瘴気はさらに濃く、邪悪になっていく。……いずれ、この銀装備でも一撃で倒せなくなる日が確実に来るな)
特効装備による無双状態は、永遠には続かない。
迷宮の下層深部は、決してそんなに甘い場所ではないのだ。少しでも気を抜けば、今度こそ本当に命を落とす。
「神官ちゃん、この浄化のポーション、持っていけるだけストックからもらうよ」
「はいっ! 女神様の加護が、貴方様の下層探索に常にありますように!」
大量のポーションをポーチに詰め込みながら、僕は小さく息を吐いた。
アイテムの充実に反比例するように、僕の心の中にはこれまで以上の強い警戒心が芽生えていた。
「出る杭は打たれる」どころの話ではない。
頼れる武具に驕ることなく、気を引き締めていかなければ。ソロ冒険者である僕の、真のサバイバルがいよいよ始まろうとしていた。
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