■第34話 広がる噂と、ソロ冒険者の憂鬱
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下層の瘴気エリアを駆け抜け、大量のアンデッドを狩り尽くした僕は、ホクホク顔で迷宮を後にした。
「いやあ、大漁大漁。さすが下層、魔石の質も大きさも段違いだな」
いつものように『適当な寺院』と『黒猫の宝箱』へ寄り道し、寄進と素材の納品(という名の接待プレイの余り)を済ませる。神官ちゃんも黒猫のお姉さんも、下層の極上魔石を見て狂喜乱舞していた。
そして最後に、残りの魔石を換金するため、冒険者ギルドへと足を向けた。
「あのベテランパーティの人たち、無事に帰れたかな。まあ、ポーションも渡したし大丈夫だろうけど」
そんなことを考えながら、ギルドの重い扉を押し開けた。
――カラン、とベルが鳴る。
その瞬間、ギルド内の喧騒がピタッと止まり、酒場にいた数十人の冒険者たちの視線が一斉に僕へと突き刺さった。
「えっ……なに?」
異様な空気に戸惑っていると、酒場の中央のテーブルから、包帯を巻いた大柄な男が勢いよく立ち上がった。下層で見かけた、あのベテランパーティのリーダーだ!
「おおおっ! あんた、無事だったか!! 俺たちの命の恩人!!」
「えっ、ちょ、ちょっと待って……」
男はズンズンと歩み寄ってくると、僕の手を両手でガシリと握りしめ、ギルド中に響き渡る大声で叫んだ。
「おいお前ら! こいつだ! さっき俺たちが話してた、下層でデスナイトを一撃で真っ二つにした『銀騎士』の兄ちゃんだ!!」
「「「うおおおおおおおおっ!!!」」」
ギルドの屋根が吹き飛ぶかと思うほどの、割れんばかりの大歓声。
「マジかよ! あの『紅蓮の戦乙女』に勝っただけでもヤバいのに、もう下層で無双してんのか!?」
「しかも、高価なリジェネ・ポーションを惜しげもなくポンと渡して去っていったんだと! どんだけ太っ腹なんだよ!」
「銀騎士! 銀騎士! 銀騎士!」
(……終わった)
僕は天を仰いだ。「出る杭は打たれる」からこっそりソロライフを満喫しようとしていたのに、助けたベテランたちがギルドで思いっきり僕の武勇伝を語りふけっていたのだ。
しかも『銀騎士』なんていう、絶妙に恥ずかしい二つ名まで定着しそうになっている。
「いや、あの、僕はただの通りすがりで……」
「謙遜するな! あの瘴気の中でデスナイトを瞬殺するなんて、一流パーティのエース級でも不可能だ! さあ、俺たちに恩返しをさせてくれ! 今日は限界まで奢るぞ!!」
ベテランリーダーに肩を組まれ、冒険者たちに揉みくちゃにされながら、僕は半ば強制的にカウンターへと連行された。
「……お疲れ様です、銀騎士様」
カウンターの向こうでは、眼鏡の受付嬢が微かに口角を上げて(絶対に面白がっている)待ち構えていた。
「受付嬢さんまで……やめてくださいよ、その名前」
「ですが、すでにギルド長まで貴方様の噂を耳にしておりますよ。さあ、本日の『通りすがりの成果』を拝見しましょうか」
ため息をつきながら、僕は下層で狩った魔石の袋をカウンターに乗せた。
受付嬢が手際よく査定を進めていくが、次々と出てくるスケルトンナイト、レイス、そして一際大きなデスナイトの魔石に、周囲の冒険者たちは再びどよめいた。
「下層の初陣で、これほどの質の魔石を大量に持ち帰るとは……。やはり、あの純銀の装備は貴方様にとって最高の相棒ですね」
「ええ、まあ。でも瘴気エリアは時間制限があるから、寿命が縮む思いでしたよ」
「それでも無傷で、他パーティの救助までやってのけるのですから、もはや規格外という言葉すら陳腐ですね」
受付嬢は呆れたように息を吐き、ずっしりと重い金貨の袋を手渡してくれた。
「ほら、換金も終わったろ! 兄ちゃん、こっち来て飲もうぜ!」
「そうだそうだ! 銀騎士に乾杯だーっ!」
僕に賭けて勝ったいつかの男たちや、ベテランパーティの面々に腕を引かれ、僕は酒場の中心へと引きずり込まれていく。
(……まあ、美味しいお酒とご飯がタダで食べられるなら、いっか)
すっかり諦めモードに入った僕は、ジョッキを片手に苦笑いを浮かべた。
「目立たない平穏なソロライフ」という目標は完全に崩れ去ってしまったが、この迷宮都市で頼れる仲間(?)や知り合いが増えていくのも、悪くないのかもしれない。
熱狂に包まれたギルドの夜は、またしてもひたすらに更けていくのだった。
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