■第30話 持続回復のポーションと、ギルドの警告
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黒猫の宝箱で『抗瘴気のマスク』と『清明の耳飾り』という強力だが制約の厳しい下層対策アイテムを手に入れた僕は、その足でいつもの『適当な寺院』へと向かった。
アイテムで対策できるとはいえ、やはり不安は残る。下層に挑む前に、神様からの便利なポーションのラインナップに何か変化がないか確認しておきたかったのだ。
「こんにちはー」
「あ、お待ちしておりました! 今日も寄進ですか?」
祭壇の前で出迎えてくれた神官の少女に、僕は首を横に振った。
「今日は寄進じゃなくて、ポーションの相談なんだ。実は明日から、迷宮の『下層』に行こうと思ってて」
「下層! とうとうそんな危険な領域に……! でもご安心ください、異世界からの旅人様。女神様(神様)はちゃんと、下層へ向かう貴方様のために新しいポーションを解禁してくださっていますよ!」
少女は祭壇の奥から、淡い緑色に発光するとろりとした液体の入った小瓶を取り出してきた。
「こちら、『リジェネ・ポーション』です!」
「リジェネ……つまり、持続回復?」
「はい! 飲めば一定時間、体力を少しずつ自動で回復し続けてくれるんです。下層にはどうしても防ぎきれない瘴気エリアがあると聞いています。このポーションを飲んでおけば、瘴気でジワジワと削られる体力を、回復効果で相殺できるはずです!」
「おおおっ! それはめちゃくちゃ助かる!」
黒猫のお姉さんが言っていた「マスクを通してしまう20パーセントの瘴気ダメージ」。それがこのリジェネ・ポーションで相殺できるなら、時間制限というプレッシャーはかなり軽減される。
「さすが神様、かゆいところに手が届く! このポーションもストックから持っていくよ」
「はい! ただし、即効性のある大回復ではないので、魔物からの大ダメージにはいつもの回復ポーションを使ってくださいね!」
少女に見送られ、心強い新ポーションをポーチに収めた僕は、最後に冒険者ギルドへと顔を出した。
情報の総本山であるギルドで、下層の魔物についての予備知識を入れておくためだ。
「……下層、ですか」
カウンターで僕の相談を受けた眼鏡の受付嬢は、いつものように深い深いため息をついた。
「普通なら全力で止めるところですが、レベル20を超え、全ステータスが常軌を逸している貴方様なら、もはや止める理由がありません。ですが、油断は禁物です」
彼女は眼鏡のブリッジを指で押し上げ、真剣な眼差しで口を開いた。
「下層の魔物は、中層までの『獣』や『亜人』とは根本的に異なります。瘴気から生まれ、瘴気を力とする『アンデッド(不死者)』や『高位悪魔』の類が徘徊しているのです」
「アンデッドに悪魔……いよいよ本格的なファンタジーっぽくなってきたな」
「物理攻撃が通りにくい幽体や、傷の再生能力を持つ厄介な魔物も多数出現します。……ですが」
受付嬢はそこで言葉を切り、僕の全身を包む白銀の鎧と、背中の剣を見つめた。
「貴方様の装備は、辺境の熟練職人が打ち、ドワーフが極限まで鍛え上げた『純銀』の業物。銀には本来、アンデッドや悪魔を浄化し、魔を退ける強い特性があります。下層においては、下手に鋼やミスリルの武器を使うよりも、その銀装備が最大の特効薬になるはずです」
「……! そうか、親父さんの銀装備が、ここで活きるのか!」
僕は思わず、背中のシルバーソードの柄を強く握りしめた。
中層に行く前、ドワーフの職人に「買い替えろ」と言われながらも手放さなかった相棒。それが下層の魔物に対して最強のアドバンテージになるなんて、運命的なものを感じずにはいられない。
「環境への対策アイテム、持続回復のポーション、そして魔を祓う純銀の装備。……完璧だ」
すべてのピースがカチリとはまった感覚があった。
「教えてくれてありがとうございます。明日から、気をつけて行ってきます」
「ええ。どれだけ準備をしても、下層は生きて帰れる保証のない死地です。どうか、ご武運を」
受付嬢の真摯な言葉に深く頷き、僕はギルドを後にした。
西区の魔道具職人。適当な寺院の神官。辺境の武具屋の親父さん。そしてギルドの受付嬢。
ソロ冒険者である僕一人では決して辿り着けなかった「下層への切符」を、僕は今、たくさんの人たちの助けを借りてしっかりと握りしめていた。
「よし……行くぞ、下層!」
期待と緊張に胸を鳴らしながら、僕は決戦の朝に向けて宿屋への道を急いだ。
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