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■第29話 休息の街散策と、下層対策の厳しい制約

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

それでは、本編をお楽しみください!


夜通し続いた狂騒の宴から解放された頃には、すっかり朝日が昇っていた。


フラフラになりながら宿屋の自室に戻った僕は、そのままベッドにダイブした。迷宮の罠を気合で避けていた時とは違う、変な気疲れと寝不足による疲労だ。


「……今日はもう、迷宮ダンジョンは休みにしよう」


顔なじみの冒険者たちに揉まれ、赤髪のリーダーにお酒を注がれまくった昨晩の記憶を思い出しながら、僕は泥のように深い眠りについた。


目を覚ますと、すでに時刻は昼を大きく回っていた。

たっぷり睡眠をとって体力を全快させた僕は、せっかくの休日を有効活用することにした。思えば、この巨大な迷宮都市バベルに来てからというもの、寺院とギルドと迷宮と武具屋(アイテム屋)を往復するだけの毎日で、まともに街を見て回ったことがなかったのだ。


「よし、今日は観光だ!」


銀装備ではなく、動きやすい普段着に着替えた僕は、宿屋を飛び出してバベルの大通りへと向かった。

改めて歩いてみると、この街は本当にファンタジーのるつぼだった。


ドワーフの鍛冶屋が並ぶ通りには小気味よい槌音が響き、エルフの商人が珍しい果物を売り歩いている。屋台からはオーク肉の串焼きや、香辛料の効いた迷宮キノコのスープの匂いが漂い、胃袋を容赦なく刺激してくる。


買い食いをしながら広場を歩き、大道芸人の魔法の手品を眺める。チート能力もなく、ステータス一桁から必死で生き抜いてきた僕にとって、こういう平和で活気のある「異世界の日常」を味わうのは初めてのことだった。


「いやあ、いい休日だった。……さて、そろそろ約束の品を届けに行かないとな」


日が傾き始めた頃、僕はあらかじめ用意しておいた「ずっしりと重い麻袋」を肩に担ぎ、西区の裏通りにある『黒猫の宝箱』へと向かった。


カランカランッ!


「いらっしゃい、にゃあ。あら、昨日の主役じゃないの。ギルド中がアンタの『たった6個差の奇跡の勝利』の噂で持ちきりよ?」

「お姉さんのおかげですよ。はい、これ約束の品です」


僕がカウンターに麻袋をドンッと置くと、黒猫のお姉さんは中身を覗き込み、目を丸くして猫耳をピンと立てた。


「……ちょっと、何これ。昨日の勝負で提出したのが156個でしょ? なんで余りの方がこんなに多いのよ! 軽く数百個はあるじゃない!」

「言ったじゃないですか、圧勝できる量は持ってるって。約束通り、ギルドに出さなかった余りは全部お姉さんの工房に回しますよ」

「アンタ、本当にただの脳筋ソロじゃないわね……。これだけ純度の高い魔石が大量にあれば、当分の間は素材に困らないわ。にゃふふっ、最高の取引相手ね!」


黒猫のお姉さんは上機嫌で尻尾を揺らしながら、ホクホク顔で魔石を工房の奥へと運んでいった。


そしてカウンターに戻ってくると、彼女はふと真面目な顔になり、金色の瞳で僕をじっと見つめてきた。


「ねえ、お兄さん」

「はい?」

「中層の魔物をこれだけのペースで狩り尽くせて、しかも周囲を出し抜く余裕まである。……そろそろ、アンタの実力なら『下層』に行ってもいいんじゃないかしら?」


下層。

以前、彼女自身が「行く前には必ず相談に来い」と重い忠告をしてくれた、未知の領域だ。


「もちろん、下層が中層の比じゃないくらい危険な場所だってのは分かってるわ。でも、今のアンタなら十分に通用するはずよ。むしろ、中層じゃもう満足に経験値も稼げなくなってきてるんじゃない?」

「……確かに。最近はレベルも上がりづらくなってきました」

「でしょ? なら、いよいよ私が教える時が来たわね」


黒猫のお姉さんはカウンターに両手をつき、ニヤリと職人の顔で笑った。


「下層が中層と決定的に違うのは、魔物の強さだけじゃないわ。一番厄介なのは、空間のあちこちに『環境そのものが牙を剥く』エリアが点在していることよ」

「環境、ですか?」

「ええ。下層の一部には、ただ息をするだけで体力を削り状態異常を引き起こす濃密な『瘴気しょうき』が滞留している場所があるの。それに、方向感覚を狂わせる『精神干渉』の霧が立ち込める場所もね」


罠や魔物だけでなく、そこに足を踏み入れただけでダメージを受ける空間があるというのか。


「そこで、この天才魔道具職人である私が作った『下層対策アイテム』の出番ってわけ!」


彼女はカウンターの下から、重厚な装飾が施された木箱を取り出した。中には、特殊なフィルターがついたマスクのような魔道具と、淡く光る耳飾りが入っていた。


「ただし、よく聞いてね。これらがあれば完全に安全ってわけじゃないの」


お姉さんは真剣な声で念を押す。


「この『抗瘴気のマスク』がカットできる瘴気は、どんなに調整しても約80パーセントが限界。残りの20パーセントは確実にアンタの体を蝕んでいくわ。だから、瘴気エリアに長時間留まるのは絶対に命取りよ。それから、『清明の耳飾り』の精神干渉ブロックも、連続で効果が保てるのはせいぜい一時間ってところね」

「なるほど……完全に防げるわけじゃないから、時間との勝負になるってことか」

「その通り。下層の罠は中層以上に凶悪だけど、瘴気エリアに入ったら悠長に罠を一つ一つ解除したり、魔物を全滅させてる余裕はないわ。時にはダメージ覚悟で駆け抜けたり、即座に判断して離脱する胆力が試されるのよ」


僕はゴクリと唾を飲み込んだ。


中層では、アイテムの力で罠の恐怖から完全に解放され、無双状態を楽しむことができた。しかし下層では、アイテムを使ってなお、常に死のリスクと時間制限が付き纏うのだ。


「どう? ビビっちゃったかしら、にゃあ?」

「……いえ。むしろ、冒険してるって感じがしてワクワクしてきました。そのアイテム、買いますよ!」


休日を満喫し、身も心もリフレッシュした僕。

厳しい制約のある下層対策アイテムを手に、僕の次なる舞台はいよいよ過酷なる「迷宮下層」へと移ろうとしていた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


少しでも「面白い!」「次も読みたい!」「ヒョロガリ頑張れ!」と思っていただけましたら、

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