■第28話 魔量測りの片眼鏡と、狂騒の宴
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「黒猫の宝箱」でオーダーメイドの片眼鏡を受け取った後、僕は再び迷宮へ戻り、腹ごなし程度に軽く中層の探索を済ませた。
そして約束の17時が迫る16時頃。僕は少し重みを持たせた麻袋を肩に担ぎ、決戦の地である冒険者ギルドへと向かった。
ギルドの扉を開けると、中はすでに異様なほどの熱気に包まれていた。
「おっ、主役の登場だぜ!」
「頼むぞ兄ちゃん! 俺の今月の家賃が懸かってるんだ!」
僕に賭けたらしい男たちが、血走った目でジョッキを掲げてくる。
そして程なくして、ギルドの扉が勢いよく開き、赤髪のリーダー率いる女性パーティ「紅蓮の戦乙女」が意気揚々と帰還した。彼女たちの後衛メンバーが、ずっしりと重そうな麻袋を二人がかりで抱えている。
「ふふん、逃げずに来たようね。でも、私たちのこの袋を見てもその余裕が保てるかしら?」
「ええ、まあ……お手柔らかにお願いしますよ」
勝ち誇る赤髪のリーダーに苦笑いを返しつつ、僕は背を向けるふりをして懐から『魔量測りの片眼鏡』を取り出し、こっそりと片目に当てた。
レンズ越しに彼女たちの麻袋を覗き込むと、袋の表面に淡い光の粒が集まり、ポンッと一つの数字が浮かび上がった。
『150』
(なるほど、150個か)
僕は心の中で計算した。通常の5人パーティが中層で1日に稼ぐ魔石の基準は、多くても50個前後だ。それを2日で150個も集めてくるなんて、確かに「気鋭のパーティ」を名乗るだけのことはある。素晴らしい実力だ。
だが、罠を無効化し、バケモノステータスで無双している僕の懐には、この数日で集めた数百個もの魔石がある。
僕は野次馬の視線から隠れるように柱の影へ移動すると、素早く自分の麻袋の中身を調整した。
相手が150個なら、こちらは『156個』くらいにしておこう。2、3個差だと逆にわざとらしすぎて不自然かもしれない。6個差くらいの僅差が、一番リアルで白熱した名勝負に見えるはずだ。
僕は残りの魔石をすべて予備の袋に移し、腰の木箱や懐の奥にしっかりと隠し込んだ。
これで準備万端だ。
「さあ、時間よ! 受付のお姉さん、厳正なる審査をお願いするわ!」
17時ジャスト。赤髪のリーダーの宣言とともに、勝敗の判定が始まった。
まずは「紅蓮の戦乙女」の麻袋がカウンターに乗せられる。眼鏡の受付嬢が、慣れた手つきで専用の魔道具を使って数をカウントしていく。
「……確認しました。中層の魔石、150個です! 素晴らしい成果ですね」
ギルド内が「おおおっ!」とどよめく。5人パーティとはいえ、驚異的な数字だ。
「さあ、次はアンタの番よ。ソロでどこまでやれたのか、見せてもらいましょうか」
「はいはい」
僕は調整を済ませた麻袋を、ドンッとカウンターに置いた。
受付嬢がカウントを始める。ギルド中の冒険者たちが、固唾を飲んでその手元を見つめた。僕の本来の実力を知っている受付嬢は、袋の小ささに「あれ?」と少し不思議そうな顔をしたが、そのまま結果を読み上げた。
「……確認しました。中層の魔石、156個。よって、この勝負……銀のソロ冒険者様の勝利です!」
一瞬の静寂。
次の瞬間、ギルドの屋根が吹き飛ぶかと思うほどの、爆発的な大歓声が巻き起こった。
「うおおおおおっ!! やったぜええええ!!」
「たった6個差!? っくーっ、ソロで5人パーティにここまで肉薄して競り勝つなんて、最高に熱い名勝負じゃねえか!!」
僕に賭けていた男たちが狂喜乱舞し、肩を組み合って喜びを爆発させる。
一方、敗れた「紅蓮の戦乙女」の赤髪リーダーは、信じられないというように目を見開き、悔しそうにギュッと唇を噛み締めた。
「……負け、か。6個差……たった6個の差で……!」
だが、彼女はすぐにスッと立ち直り、真っ直ぐに僕を見て手を差し出してきた。
「負けは負けよ。ソロで私たちを上回るなんて、アンタ、本当に強いのね。……約束通り、勝者の言うことを一つ聞いてあげるわ。何でも言いなさい!」
覚悟を決めたような顔の彼女に、僕は苦笑しながら握手に応じた。
「じゃあ、僕に賭けて勝った人たちの奢りで、今日はみんなで楽しく飲みましょう。それが僕の命令です」
「え……? そんなことでいいの?」
「いいんです。僕は美味しいご飯が食べられればそれで」
僕がそう言うと、周囲の男たちが「兄ちゃん、太っ腹ぁ!」とさらに盛り上がり、そのままギルドは雪崩を打つように夜通しの祝賀イベントへと突入した。
それからはもう、無礼講のお祭り騒ぎだ。
勝利の美酒に酔いしれる冒険者たち、僕にジョッキを差し出してくる戦乙女たち。僕が裏で片眼鏡を使って「接待プレイ」をしたことなど、もちろん誰も知らない。
「出る杭は打たれる」という故郷のことわざを守り抜き、見事に平穏(?)なソロライフの軌道を保った僕は、奢りの厚切りステーキを頬張りながら満足げに息をついた。
喧騒と笑い声に包まれた冒険者ギルド。
ただひたすらに、狂騒の夜は更けていくのでした。
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