■第26話 騒がしいギルドと、突然の討伐勝負
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翌朝、日課の迷宮探索へ向かう前に冒険者ギルドへ顔を出すと、なぜかギルド内はいつも以上の熱気と喧騒に包まれていた。
「おっ、来たぜ!」
「噂の銀装備のソロだ!」
僕が重い木の扉を開けた瞬間、酒場スペースにいた大勢の冒険者たちの視線が一斉にこちらに向いた。ざわめきとともに、人混みがモーセの十戒のようにサッと左右に割れて道ができる。
「なんだなんだ……?」
戸惑いながら歩みを進めると、割れた道の中央に、見慣れない一組のパーティが腕を組んで待ち構えていた。
先頭に立つのは、燃えるような赤い髪をポニーテールにした、気の強そうな女性冒険者だ。豪奢な魔法剣を腰に下げ、彼女の後ろには魔法使いや弓使いなど、同じく実力派揃いと一目でわかる女性メンバーが数人控えている。
「貴方が、最近中層で荒稼ぎしているっていう生意気なソロ冒険者ね?」
赤髪のリーダーは、僕の全身の銀装備を値踏みするように睨みつけながら、ツカツカと歩み寄ってきた。
「ええと……生意気かどうかはわかりませんが、ソロで中層に行ってるのは僕です。何か用ですか?」
「用なら大ありよ! 私たちは『紅蓮の戦乙女』。この迷宮都市で、中層の最速攻略を競っている気鋭のパーティよ!」
彼女はビシッと僕に指を突きつけた。
「最近、どこの誰とも知れないソロが私たちの狩り場である中層を荒らしまわっているって噂を聞いてね。バベルの冒険者のプライドとして、ポッと出のソロに負けるわけにはいかないのよ! だから、勝負しなさい!」
「……は? 勝負?」
「そう! 明日の夕方までに、中層の魔物をどれだけ狩れるか……つまり、持ち帰った『魔石の数』で勝負よ! 負けた方は、勝った方の言うことを一つ何でも聞く。どう、逃げないわよね!?」
鼻息を荒くしてライバル視してくる彼女たち。
しかし、僕にとって迷宮探索はレベル上げとポーション代(寄進)稼ぎのルーティンであり、誰かと競うようなものではない。当然、そんな勝負を受ける義理も興味も全くなかった。
「いや、遠慮しときます。そういうの興味ないし、面倒なんで……」
僕が軽く手を振って断り、そのままカウンターへ向かおうとした、その時だった。
「おいおい兄ちゃん! ここで逃げたら男が廃るぜ!」
「そうだそうだ! バベルのソロ冒険者の意地を、あのお高くとまったお嬢ちゃんたちに見せてやれ!」
「俺たちの全財産、兄ちゃんに賭けるぜ!! うおおおおっ!!」
ギルドの酒場にいた男たち……すっかり顔なじみになった中堅パーティのリーダーや、他の冒険者たちが、勝手にジョッキを掲げて大盛り上がりし始めたのだ。
「ちょっ、ちょっと待ってよ! 勝手に賭けの対象にしないで……!」
「さあ、周りもこう言ってるわよ! これで逃げるなんて、ギルドが許さないわ!」
「いや、ギルドは関係……」
助けを求めてカウンターを見ると、眼鏡の受付嬢がすでに大きな黒板を用意し、見事なチョークさばきで『特別対決:紅蓮の戦乙女 VS 銀のソロ冒険者』と書き込んでいた。
「……周囲の総意により、本勝負はギルド公認のイベントとして受理されました。明日の夕方17時、このカウンターへ持ち込まれた中層の魔石の総数で勝敗を決します」
受付嬢が眼鏡を光らせながら無表情で宣言する。
完全に外堀を埋められてしまった。男たちの熱気と、勝負に乗る気満々の女性パーティの圧力の前では、もはや「やらない」という選択肢は消え失せていた。
「……はぁ。わかりましたよ、やればいいんでしょ、やれば」
僕が渋々了承すると、ギルド内は割れんばかりの大歓声に包まれた。
「ふふん、せいぜい泣きを見ないように頑張ることね!」
赤髪のリーダーは勝ち誇ったように笑い、仲間を引き連れて意気揚々と迷宮へ向かっていった。
「やれやれ、面倒なことに巻き込まれちゃったな……」
僕はため息をつきながら、ギルドの天井を仰いだ。
魔石の数で勝負。
普通に考えれば、一流の5人パーティとただのソロでは勝負になるはずがない。
しかし、僕の魔石の回収ペースは、「適当な寺院」と「黒猫の宝箱」、そしてギルドという三カ所に分散してなお、バベルの常識を軽く破壊する量なのだ。もし、その気になって全力で魔石を一つの場所に集めたらどうなるのか。
果たして明日の夕方、どんな結果が待ち受けているのか……どうなることやらと、僕はもう一度深々とため息をついた。
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