■第24話 黒猫の店主と、魔道具職人の頼み事
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カランカランと鳴るベルの音に導かれ、仄暗い店内の奥へ進むと、カウンターの向こうからスッと人影が立ち上がった。
「いらっしゃいませ、にゃあ……。お探しのものは、何かしら?」
現れたのは、艶やかな黒髪にピンと張った黒い猫耳、そして腰からしなやかな黒い尻尾を揺らす、蠱惑的な雰囲気を持った獣人の女性だった。切れ長の金色の瞳が、面白そうに僕の全身の銀装備を舐め回すように見つめている。
「あ、えっと……ギルドの紹介で来ました。迷宮の中層の罠に困っていて、何か対策になるアイテムを探してるんです」
「中層の罠、ねぇ。ソロみたいだけど、これまではどうやって対処してたの?」
「飛んでくる毒矢とか酸を、気合と反射神経で避けてました。でも、ずっとそれだと精神的に疲弊しちゃって」
僕が正直に答えると、黒猫の獣人は一瞬目を丸くし、それから「ぷっ」と吹き出した。
「あははっ! 気合と反射神経で中層の罠を全部避けてたの!? あんた、とんでもないバケモノね、にゃあ! そりゃあ疲れるに決まってるわ」
「やっぱり、ソロで中層に行くならアイテムに頼るのが普通なんですね……。初心者なもので、全然知らなくて」
「ええ、お姉さんがしっかりレクチャーしてあげる。あんたみたいなソロの物理アタッカーには、このあたりの商品が必須ね」
彼女はカウンターの下からいくつか木箱を取り出し、僕の前に並べてくれた。
* 『探知のチョーカー』
首に巻くタイプの魔道具。周囲の罠の魔力や不自然な機構を感知すると、震えて危険を知らせてくれる。
* 『解除の妖精粉』
罠の作動部分に振りかけるだけで、魔力回路をショートさせたりバネを腐食させて安全に無力化できる粉。
* 『身代わりの護符』
どうしても避けきれない罠や致命傷を食らった時、一度だけ身代わりになって砕け散ってくれる保険のアイテム。
「す、すごい……! どれも今の僕の悩みを完璧に解決してくれるアイテムばかりだ!」
「ふふん。ここに並んでる魔道具は、ぜーんぶ私が組み上げて調合したお手製よ。私、これでも腕利きの魔道具職人なんだから」
一人でこれほど高度なアイテムを製作しているとは、迷宮都市にはすごい職人がいるものだ。
「これ、全部買います! チョーカーを一つと、妖精粉を十袋。護符も念のため五つください!」
僕は懐から、ギルドで換金したばかりの金貨がたっぷり詰まった革袋を取り出し、カウンターにドンッと置いた。
その溢れんばかりの資金力と僕の顔を交互に見た黒猫のお姉さんは、猫耳をピクッと反応させ、金色の瞳でじっと僕を見つめてきた。
「にゃふふっ、毎度あり! ……ねえ、お兄さん。ちょっと一つ、頼み事があるんだけど聞いてくれないかしら?」
「え? 頼み事ですか?」
彼女はしなやかな尻尾をゆらりと揺らしながら、カウンターから身を乗り出してきた。
「お兄さん、ソロで中層の罠を自力で避けられるくらい腕が立って、しかもこれだけ金払いもいい。ってことは、毎日中層の魔物をかなりの数、安定して狩れてるってことよね?」
「まあ、そうですね。魔石は毎日大量に採れてますよ。ほとんどは寺院に寄進して、残りをギルドで換金してますけど」
「それよ! その中層で採れた魔石、ギルドや寺院に持っていく分の『ほんの少し』でいいから、私に直接融通してくれないかにゃ?」
お姉さんは両手を合わせて、上目遣いでウインクをしてきた。
「こういう高度な魔道具を作るのには、どうしても純度の高い良質な魔石が必要なの。でも、中層以上の魔石って大手の冒険者パーティやギルドが優先的に抱え込んじゃって、あちこちで取り合いになってるのよ。うちみたいな個人の工房にはなかなか回ってこなくてね」
「なるほど、素材不足ってわけですか。そういうことなら全然構いませんよ。毎日腐るほど採れてるんで、必要な分だけ直接ここに持ち込みます」
僕が二つ返事で快諾すると、黒猫のお姉さんはパァッと顔を輝かせた。
「本当!? 助かるわー、にゃあ! もちろんギルドの買取価格より色をつけて買い取らせてもらうし、これからのアイテムの補充も特別割引にしてあげる!」
ソロ冒険者にとって、腕利きの魔道具職人と直接のコネクションができるのは大きなアドバンテージだ。
ホクホク顔で商品を腰のポーチにしまおうとした僕に、お姉さんはふと真剣な表情になって声をかけた。
「あ、それともう一つ忠告よ。お兄さんの腕と、今日買ってくれた対策アイテムがあれば、中層の攻略はぐっと楽になるはず。でもね……いずれ、さらにその下の『下層』に行くつもりなら、話は別よ」
彼女は真剣な金色の瞳で、僕の目を真っ直ぐに見据えた。
「下層は中層の延長だと思ったら大間違い。環境も罠の凶悪さも、文字通り次元が変わるわ。だから、もし下層に足を踏み入れる気になったら……絶対に行く前に、もう一度うちに相談に来なさい。下層専用の対策を教えてあげるから」
「下層に行く前には、相談……わかりました、必ず来ます」
ただのアイテム屋の店主ではなく、迷宮の恐ろしさを熟知している職人としての重い忠告。
僕はその言葉をしっかりと胸に刻み込んだ。
「よろしい! それじゃ、気をつけて行ってきなさいな。良質な魔石、期待して待ってるわよ!」
「はい、行ってきます!」
黒猫の店主に手を振って見送られながら、僕は今度こそ『黒猫の宝箱』の重い扉を開けて外に出た。
首には罠を知らせる『探知のチョーカー』。頼もしい魔道具と、強力な協力者を得た僕は、次なる魔石の大漁を確信して、再び迷宮都市の地下へと足を踏み入れるのだった。
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