■第19話 迷宮探索開始と、無自覚なブレーキ
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「……こ、この紹介状の記録、すべて事実なのですか?」
ギルドのカウンターで、眼鏡の受付嬢は震える声で尋ねてきた。
無理もない。ステータス一桁から始まり、ソロで最高難易度の『竜骨の荒野』を踏破し、ドラゴンから龍石を貰ったなんて記録、普通なら与太話だと笑い飛ばされるレベルだ。
「ええ、まあ。一応、これがその龍石です」
僕が懐から青く透き通る龍石をチラリと見せると、彼女はヒッ、と息を呑み、慌てて居住まいを正した。
「し、失礼いたしました! 前の街のギルド長からの直筆サインもありますし、疑う余地はありません。貴方様の実力であれば、迷宮への入場は今すぐ無条件で許可されます!」
「よかった。ちなみに、この迷宮の浅い階層って、普通のパーティだと1日にどれくらい魔石を稼いでくるものなんですか?」
「そうですね……標準的な5人組のパーティで、上層なら1日に大体20〜30個の中級魔石を持ち帰れば、十分な黒字と言える水準です」
なるほど、20〜30個か。
前の街で毎日麻袋いっぱいの最高級魔石を乱獲していた僕の金銭感覚はすっかり麻痺していたが、まずはその「標準」というやつを基準に動いてみるのが無難だろう。
「わかりました。色々とありがとう」
手続きを終えた僕は、ギルドからほど近い、巨大な塔の地下へと続く大迷宮の入り口へと向かった。
迷宮の内部は薄暗い石造りの通路が迷路のように入り組んでおり、松明の明かりが妖しく揺らめいていた。
遭遇したのは『迷宮ゴブリン』や『大コウモリ』など、前の街の序盤で見たような魔物の強化版だ。
「ふっ!」
僕はいつものように中級バフポーションを煽り、シルバーソードを一閃する。
キィィィンッ! という澄んだ音とともに、ゴブリンの武器ごと胴体が真っ二つに両断された。
「うん、やっぱり上層の魔物なら、竜骨の荒野のオーガに比べれば豆腐みたいなもんだな」
レベル10を超えた圧倒的な基礎ステータスに、バフポーションの強化、そして銀の業物。
ソロである僕にとって、迷宮の上層は完全に「お散歩コース」と化していた。
途中、物理攻撃が効きにくいという『アシッドスライム』にも遭遇したが、ここで「適当な寺院」で貰ったばかりの虹色のポーションを試してみることにした。
小瓶の中身をグイッと飲み干し、指先をスライムに向ける。
「ええと……ファイヤー!」
ポンッ! という音とともに、拳大の火の玉が指先から射出され、スライムに着弾してジュワッと蒸発させた。
「おおおっ! 本当に魔法が使えた! すっげえ!」
大魔法と呼べるほどの威力はないが、チートなしの完全な脳筋だった僕にとっては、人生で初めて放つ本物の魔法だ。感動のあまり、無駄に火の玉や水鉄砲を撃ちまくりながらテンション高く迷宮を突き進んでしまった。
そうしてさくさくと魔物を討伐していくうち、腰の袋はずっしりと重くなっていた。
「ええと、今の魔石の数が……だいたい60個くらいか」
僕は足を止め、袋の中身を計算した。
ギルドの受付嬢は、標準的な5人パーティで1日に20〜30個と言っていた。
「初日からあんまり目立ちすぎるのも良くないしな。パーティの稼ぎの『倍』くらい……このへんで今日は切り上げるか」
僕は自分なりに「常識的なブレーキ」をかけたつもりで、ホクホク顔で迷宮を引き返し、冒険者ギルドへと帰還した。
「ただいま戻りました。とりあえず今日の分、換金をお願いします」
カウンターにドサリと袋を置く。対応に出た先ほどの眼鏡の受付嬢は、中に入っていた60個近い魔石を見て、目をぱちくりと瞬かせた。
「あの……迷宮に入られてから、まだ数時間しか経っていませんが。それに、この数は……?」
「ああ、標準的なパーティの稼ぎを聞いてたんで、とりあえずその倍くらいでやめておきました。初日からあんまり無茶して目立つとアレなんで」
僕が気遣いたっぷりにそう言うと、受付嬢の動きがピタリと止まり、そして顔を覆って天を仰いだ。
「標準的な5人パーティが『1日かけて』稼ぐ量の倍を……ソロで、しかもたった数時間で……?」
「えっ、何かマズかったですか?」
「……いいえ。ただ、貴方様が『目立たないように手加減した結果』がこれだという事実に、私の常識が追いついていないだけです……」
前の街で完全にバグってしまった僕の「常識」は、この迷宮都市でも初日から容赦なくギルド職員の胃を痛めつけることになったのだった。
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