■第17話 新たなる旅立ちと、次なる街へ(第一部 完)
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本編スタートです。
真っ白なご神託の間の空間で、世界の裏事情という特大のリークをぶっちゃけた神様は、満足そうにお茶を飲み干した。
「さて、話はこれくらいにしておこう。竜骨の荒野の主にも認められた君は、もうあの街の周辺で狩れる魔物は狩り尽くしてしまったじゃろ? レベル上げにも限界が来る頃合いじゃ」
「確かに。最近は荒野の魔物も一刀両断できちゃうから、ちょっと物足りなくなってきてたんだよね」
「うむ。そこでじゃ、君にはそろそろ次の街へ旅立ってもらおうと思う!」
神様はビシッと僕を指差した。
「この先には、より強大な魔物がひしめく巨大な街がある。もちろん、安心せい。この街で君がずっとお世話になったのは『手頃な寺院』じゃったが、次の街にもちゃんと『適当な寺院』を用意しておるからな!」
「『手頃』の次は『適当』って……神聖な祈りの場のネーミング、いくらなんでも雑すぎないか!?」
「細かいことは気にするな! 名前は適当でもシステムは全く同じじゃ! 新しい街で手に入れたより強力な魔石を寄進すれば、引き続きポーションの恩恵も受けられるし、さらなる上位のアイテムも解放されるかもしれんぞ。わしたちも上質な魔石がいっぱい集まって助かるし、まさにウィンウィンじゃな! わっはっは!」
相変わらずの調子で高笑いする神様。
しかし、ステータス一桁から始まった僕がここまで生き延びてこられたのは、間違いなくその「手頃な寺院」で貰い続けたポーションのおかげだった。「適当な寺院」とやらにも、お世話になるしかないだろう。
「わかったよ。これからも、せいぜい質のいい魔石を稼いで寄進させてもらうよ」
「おお、頼もしいのう! それでは、良き旅を! 次の街の詳しい情報は、あのギルドの受付嬢にでも聞くのじゃな!」
視界が再び真っ白に染まり、フワリとした感覚のあと、僕は寺院の祭壇の前に戻っていた。神官の少女に丁寧に見送られながら、僕はその足で冒険者ギルドへと向かった。
「――なるほど。ついに、この街を旅立たれるのですね」
ギルドのカウンターで僕が事情を話すと、受付嬢は少しだけ寂しそうな顔をしたあと、すぐにプロの笑顔に戻って一枚の地図を広げてくれた。
「貴方様の実力ならば、もはやこの街に留まる理由はどこにもありません。竜骨の荒野を踏破した貴方様にお勧めする次の目的地は……ここです」
彼女が指差したのは、地図のさらに東、山脈を越えた先にある大きな印だった。
「『迷宮都市バベル』。巨大な地下ダンジョンが存在し、世界中から腕利きの冒険者が集まる場所です。そこに出現する魔物は、竜骨の荒野の比ではありません。ですが、今の貴方と、その素晴らしい銀の装備、そして竜からの贈り物があれば、きっと通用するはずです」
「迷宮都市……いかにも冒険の次のステージって感じだ。よし、次の目的地はそこに決めた!」
僕が地図を受け取ると、背後からガシッ! と力強い手で肩を掴まれた。
振り返ると、あの先輩冒険者をはじめ、ギルド中の男たちがジョッキを片手に集まっていた。
「おいおい、行くのかよ坊主! いや、もう坊主なんて呼べねえな。俺たちの街が誇る、最高のソロ冒険者様だ!」
「寂しくなるぜ! だが、迷宮都市でも暴れ回ってこい!」
「向こうの連中に、ステータス一桁から成り上がった男の意地を見せてやれ!!」
初日は僕を鼻で笑っていた彼らが、今は心からの笑顔と大きなエールで僕を送り出そうとしてくれている。
鼻の奥がツンと熱くなった。
「……みんな、本当にありがとう! 絶対に死なないで、向こうでもガンガン魔石を稼いできます!」
「おう! 達者でな!!」
ギルド中に響き渡る歓声と拍手に見送られながら、僕は冒険者ギルドを後にした。
ギルドを出たその足で、僕は馴染みの武具屋の暖簾をくぐった。
「親父さん、こんにちは」
「おう、ひよっこか。どうした、俺が持たせてやった自慢のシルバー装備に、早くもガタが来たってのか?」
奥で剣を研いでいた強面の親父さんが、からかうように笑う。
「まさか。最高に手に馴染んでるよ。……実は明日、この街を出るんだ。迷宮都市バベルに行くことになってね」
「……ほう。バベルか」
親父さんは研ぐ手を止め、僕の全身を包む傷一つない銀の装備を鋭い目で見定めた。
「ま、あの死地をソロで踏破するようなバケモノが、いつまでもこの辺境の街にいるわきゃねえか。俺の打った最高傑作に恥じねえ戦いをしてきな」
「うん。親父さんには、ボロボロの鉄剣の時から本当にお世話になったから。ありがとう」
僕が深く頭を下げると、親父さんはフンと鼻を鳴らした。
「金払いのいい上客が減るのは痛手だがな。……死ぬんじゃねえぞ、ひよっこ」
照れ隠しのように再び作業に戻った親父さんの背中に向けてもう一度礼を言い、僕は武具屋を後にした。
翌朝。
雲一つない青空の下、僕は一人、街の東門の前に立っていた。
身に纏うのは、傷一つない白銀の『シルバーアーマー』と『シルバーソード』。
左手の中指には、静かな冷気を放つ『ドラゴン・リング』。
そして腰の木箱には、手頃な寺院でたっぷり補充した上級バフポーションとハイエリクサー。
「ステータス一桁の、農家の子供以下……か」
初めてこの街に来た日のことを思い出し、僕は小さく笑った。
チート能力なんて一つも貰えなかった。魔法も使えなければ、特別なスキルも最初から持っていなかった。
ただがむしゃらに剣を振り、ポーションをガブ飲みして、泥水と魔物の血にまみれながら這い上がってきた。
でも、悪くない。
大雑把な神様の手違いから始まったこの異世界ライフは、最高に熱くて、泥臭くて、面白い。
「よし、行くか!」
僕は振り返らずに、新しい地図を片手に歩き出した。
まだ見ぬ強敵と、「適当な寺院」、そしてさらなる高みを目指して。チートなし異世界冒険者の旅は、ここからまた新たな幕を開けるのだ。
第一部[完]
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