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■第16話 勇者の真実と、大雑把な神様からのリーク

お読みいただきありがとうございます!

本編スタートです。


ギルドの扉を押し開け、僕はカウンターに真っ直ぐ向かった。


いつものように魔石の入った袋を置く代わりに、懐から取り出した透き通るような青い宝石――『龍石』をコトリと置いた。


「……あの、これ。荒野の奥でドラゴンに貰ったんだけど」


それを見た瞬間、受付嬢の顔からスッと血の気が引いた。彼女は震える手で龍石を拾い上げ、信じられないものを見るように僕の顔と石を何度も見比べた。

そして、かつてないほど居住まいを正し、深く、深く頭を下げた。


「……まさか、本当に『竜骨の荒野』を踏破してしまうなんて。この龍石が持ち込まれたのは、かつてこの街を訪れた『先の勇者様』以来の快挙です。ギルド職員一同、貴方様に最大の敬意を表します」


受付嬢のその言葉は、静まり返っていたギルド中に響き渡った。

一拍の静寂の後、爆発のような歓声が酒場スペースから湧き上がった。


「うおおおおっ!! マジかよ!!」

「あのヒョロガリが、いや、俺たちの『角ウサギの天敵』が、勇者と同じ偉業を成し遂げやがったぞ!!」


初日に僕を大笑いした先輩冒険者が、顔を真っ赤にして僕の肩をバンバンと叩き、ついには男泣きし始めた。


神から特別な力を授かったわけでもない。ステータス一桁から始まり、泥にまみれ、ボロボロの鉄剣を振り回して、ただひたすらに努力と根性だけで最高難易度をクリアしたのだ。普通の勇者が成し遂げるのとは違う、その泥臭い成り上がりの軌跡を一番近くで見ていた彼らにとって、それは我が事のように感慨深いものだったらしい。


その夜、ギルドでは僕の偉業を祝う盛大な酒宴が夜通し催された。誰もが僕にジョッキを向け、肩を組み、朝まで笑い明かした。


――翌日。

二日酔いの頭を抱えながら、僕は例の「手頃な寺院」を訪れていた。


「お待ちしておりました。さあ、こちらへ」


出迎えた神官の少女は、もはや有無を言わさぬ神聖な態度で僕を案内した。向かった先は、かつて一度だけ開かれたことのある、あの巨大な扉。


「ご神託の間です。神様が、貴方様をご招待されております」


促されるまま扉をくぐると、視界が真っ白に染まり、フワリとした浮遊感が体を包んだ。

気がつくと僕は、何もない真っ白な空間に立っていた。そして目の前には――。


「おお、来たな! いやー、まさか本当に自力で荒野をクリアするとは! わっはっは!」


宙に胡座をかき、せんべいをかじりながら笑う髭の老人。

僕をこの世界に放り投げ、チート能力を渡し損ねた張本人、あの大雑把な神様だった。


「アンタ……相変わらずだな」

「まあまあ、そう睨むな。わしだって、まさか君がここまで頑張ってしまうとは思ってなかったんじゃよ。バグでギフトを弾かれた時はどうなる事かと思ったが、立派になったのう」


悪びれる様子もない神様に呆れていると、ふと昨日出会ったドラゴンの言葉を思い出した。


「そういえば、荒野の最深部にいたドラゴン。あいつ、僕の『神の匂い』が薄いって見抜いてたぞ。しかも戦わずに龍石をくれたし。一体何者なんだ?」


僕の問いに、神様はポリポリと頬を掻きながらとんでもない事を口走った。


「ああ、あいつか。あれはわしの使い魔なんじゃよ」

「……はい? 使い魔?」

「そうじゃ。実はな、この世界の仕組みについて少し教えてやろう」


神様はせんべいをお茶で流し込み、少しだけ真面目な顔(といっても胡散臭いが)になった。


「この世界はな、魔石というエネルギーで回っておるじゃろ? その魔石を生み出す魔物というのは、実はあのドラゴンが発する『魔素』から発生しておるんじゃ」

「えっ……じゃあ、魔物の親玉があのドラゴンってことか?」

「親玉というか、自然現象のようなものじゃな。ドラゴンの魔素から魔物が生まれ、人間がそれを討伐して魔石を採取し、世界の営みに還元する。そういうエコシステムなんじゃよ」


世界の根幹に関わる壮大なシステムの話だった。

しかし、だとしたら一つ疑問が残る。


「じゃあ、なんでアンタはわざわざ異世界から『勇者』なんてものを召喚して、チート能力まで与えてるんだ? 普通の冒険者だけでも回ってるじゃないか」

「そこなんじゃよ」と、神様はポンと手を叩いた。


「普通の冒険者たちだけでは、どうしても魔物を倒しきれずに増えすぎてしまう時期が来る。魔物が増えすぎれば、人間の生活圏が脅かされるじゃろ? だから、圧倒的な力を持った勇者を定期的に召喚して、増えすぎた魔物をガッツリ『間引き』してもらっておるんじゃ。勇者の本当の役目は、魔王討伐というより、害獣駆除の超大型助っ人みたいなもんじゃな!」

「……身も蓋もない真実だな、おい」


夢も希望もない勇者の実態に、僕は思わず頭を抱えた。


「ま、この話は他の勇者たちには内緒じゃぞ。あいつら『世界を救う!』って張り切っておるから、間引きが仕事だなんて言えんしな。君には、チート能力を授けられなかったお詫びとして、特別にこの世界の裏事情をリークしてやったんじゃ」

「お詫びの仕方が独特すぎるだろ……」


神様は「わっはっは!」と豪快に笑い飛ばした。


チート能力なしで最高難易度をクリアし、神様から世界の秘密まで打ち明けられてしまった僕。


ただの一般人から始まったこの泥臭い異世界生活は、どうやら僕が思っていた以上に、世界の根幹に近い場所へと辿り着いてしまったようだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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