■第15話 美しき最深部の主と、竜の指輪
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本編スタートです。
舞い散る色鮮やかな花びらの奥から姿を現したのは、神々しいほどの輝きを放つ白銀の鱗を持った、巨大なドラゴンだった。
「……すげえ」
僕は思わず息を呑み、シルバーソードを構えることすら忘れてその場に立ち尽くした。
まさにファンタジーの頂点。周囲の静謐な花畑の景色と相まって、その圧倒的な威容と美しさに完全に唖然としてしまっていた。
すると、巨大なドラゴンは長い首をゆっくりとこちらへ向け、黄金に輝く瞳で僕を鋭く見つめ下ろしてきた。
その眼光の鋭さに、ビリビリと肌が粟立つ。シルバーアーマー越しでも伝わってくるほどのプレッシャー。慌てて剣を構え直そうとした、その時だった。
『剣を収めよ、小さき人の子』
頭の中に直接、地鳴りのような低く威厳のある声が響いた。
「えっ……喋った?」
『我は無駄な戦闘を好まぬ。この美しき庭を血で汚すことも本意ではない』
ドラゴンはそう言って、ゆっくりとその場に伏せるように長い首を下ろした。
ボス戦を覚悟して上級ポーションの力を漲らせていた僕は、完全に拍子抜けしてしまった。
『汝が数多の強敵を退け、この最深部まで辿り着いた事実は、その身に纏う闘気と銀の輝きを見ればわかる。わざわざ我と剣を交える必要はあるまい。……この領域を踏破した証として、これをくれてやろう』
ドラゴンが軽く鼻先を鳴らすと、宙に淡い光が集い、コロンと僕の足元の花畑に落ちてきた。
それは、透き通るような青い輝きを放つ、掌大の美しい宝石だった。
「これは……?」
『我の力が宿った【龍石】だ。それを人間の街にあるギルドとやらに持ち帰るがいい。汝がこの竜骨の荒野を完全にクリアしたと、誰もが認めるはずだ』
「戦わずに、クリアの証をくれるってことか。……ありがとう、助かるよ」
僕はシルバーソードを鞘に収め、足元の龍石をありがたく拾い上げた。
その時だった。ドラゴンがスッと鼻先を僕に近づけ、フンッ、と微かに息を吸い込んだ。
『……奇妙だな』
「え? 何が?」
ドラゴンは黄金の瞳を細め、不思議そうに僕を見つめた。
『汝、その魂の形からして、この世界とは別の次元……異世界から渡ってきた者であろう?』
「う、うん。まあ、そうだけど」
『だが、異世界人にしてはひどく【神の匂い】が薄いのだ』
ドラゴンは喉の奥でグルルルと低い音を鳴らしながら続けた。
『通常、神の力によってこの世界へ導かれ、特別な恩恵――【ギフト】と呼ばれる力を授かった者たちからは、むせ返るような強烈な神の気配がするものだ。だが、汝からはその【ギフト】を貰った者の匂いが全くしない。神の干渉の痕跡が、驚くほど希薄なのだ』
「…………」
『つまり汝は、神からの特別な力など何一つ持たず、ただ己の肉体と努力のみで、この街の最高難易度と呼ばれるここまで辿り着いたというのか』
ドラゴンの言葉に、僕は思わず苦笑してしまった。
初日、大雑把な神様の手違い(?)でチート能力を弾いてしまい、「農家の子供以下」の一桁ステータスから始まった僕の泥臭い異世界ライフ。毎日ポーションをガブ飲みし、ボロボロになりながら剣を振り回し続けてきた真実が、この誇り高き竜にはすっかり見抜かれていたらしい。
「まあ、色々あってさ。特別な力は貰いそこねちゃったんだよ」
僕が肩をすくめてそう答えると、ドラゴンは感心したようにフッと息を吐いた。その吐息に揺られて、周囲の美しい花々が一斉に舞い上がる。
『面白い。チートなき身でありながら、その高みへ至るとはな。……ならば、神から力をもらい損ねた汝に、我からささやかな贈り物を授けよう』
ドラゴンが再び黄金の瞳を瞬かせると、今度は小さな銀色の光が宙を舞い、僕の手のひらにふわりと降り立った。
それは、細密な竜の意匠が彫り込まれた、美しく冷たい銀の指輪だった。
「これは……?」
『我の力が込められた【ドラゴン・リング】だ』
「すごい……! これ、どんな効果があるの? ステータスが上がるとか?」
僕が目を輝かせて尋ねると、ドラゴンは面白そうに喉を鳴らした。
『それは、いずこかで汝がその力を必要とした時……その時に自ずと分かるであろう』
「ええっ、教えてくれないの?」
『ふふっ。神からのギフトがなくともここまで辿り着いた汝ならば、焦る必要もあるまい。……ゆけ、小さき人の子よ。汝のその足跡は、いかなるギフトを持つ者よりも価値がある』
ドラゴンは優しく目を閉じると、再び静かな花畑の奥へと身を横たえた。
「ありがとう。大切にするよ」
僕はドラゴンに向かって深く一礼すると、輝く龍石と、左手の中指に嵌めた冷たいドラゴン・リングの感触を確かめながら、花畑に守られた最深部を後にした。
チートなしの僕が、自らの足で歩み、ついに手にした最高の勝利の証と竜からの贈り物を胸に抱いて。
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