■第10話 刃こぼれと、初めての装備新調
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本編スタートです。
獣牙の森での狩りは、驚くほど順調だった。
中級バフポーションの恩恵は絶大で、レベル4に上がったステータスと合わさることで、オークの丸太のような腕から繰り出される一撃も難なく受け流せるようになっていた。空飛ぶ斬撃も冴え渡り、今や素早いキラーウルフの群れも恐るるに足りない。
ギルドでの魔石の換金もすっかり日常の風景になり、受付嬢ともすっかり打ち解けていた。
「今日も見事な成果ですね! いつもありがとうございます」
「こちらこそ。おかげで懐もだいぶ暖かくなってきたよ」
冗談を言い合いながら報酬を受け取る。寺院への寄進も欠かさず行っているため、ポーションのストックが切れる心配もない。僕の泥臭い異世界生活は、完全に軌道に乗っていた。
だが、そんな充実した日々の中で、僕は少しずつある「違和感」を覚え始めていた。
「……やっぱり、ちょっと斬り抜けが悪くなってきたな」
ある日、オークを討伐した後に剣を拭っていると、刀身に小さな刃こぼれがいくつもできていることに気がついた。
ギルドへ戻り、いつものように酒場スペースで換金待ちをしていると、背後から声をかけられた。
「おいおい、お前さん。いつまでそんなボロボロの鉄剣を使ってるんだ?」
振り返ると、初日に僕のことを「農家のガキ以下」と笑っていた冒険者の男だった。しかし、今の彼の目に嘲笑の色はない。むしろ、毎日とんでもない数の魔石を持ち込み、着実にステップアップしていく僕に対する呆れと、一種の敬意のようなものが混じっていた。
「いや、これ初日に買った安物なんですけど、最近どうも刃こぼれが目立ってきて……」
「当たり前だ! そんな鉄剣で何千匹も魔物斬り捨ててたら、そりゃガタも来る! お前、今じゃそれなりに稼いでるんだろ? 命を預ける相棒くらい、そろそろいいヤツに買い替えろよな」
「……確かに、その通りですね」
言われてみれば、僕の手持ち資金は毎日の乱獲と換金率のアップにより、初日とは比べ物にならないほど潤っている。
僕はギルドを出ると、そのまま真っ直ぐに大通りを抜け、初日に訪れたあの武具屋の暖簾をくぐった。
店内には相変わらず無骨な武具が並び、奥では強面な店主の親父さんが黙々と剣を研いでいた。
「いらっしゃい……ん? あんた、いつぞやのヒョロガリのひよっこか。なんだ、まだ生きてたのか」
親父さんは僕の顔を見るなり、驚いたように眉をひそめた。
「お久しぶりです。今日は装備を新調しようと思って来ました。ちょっとこれ、見てもらえますか?」
僕は腰から鞘ごと鉄剣を外し、カウンターに置いた。
親父さんは訝しげに剣を引き抜き、刀身に目を落とした瞬間――その動きがピタリと止まった。
「……おい。あんた、この剣で一体何を斬ってきた?」
「え? いや、角ウサギとか、ゴブリンとか、コウモリとか……最近はオークなんかも」
「馬鹿野郎! これは初心者向けのナマクラだぞ! これだけ刃こぼれして、芯まで疲労しきってるってことは、毎日何百、何千って数の魔物をぶっ通しで斬り続けなきゃこうはならねえ! 普通はここまで使い潰す前に折れるか、使い手が死ぬかのどっちかだ!」
親父さんは信じられないものを見るような目で僕を見た後、大きくため息をついた。
「……ふん。初日は『重すぎて使いこなせねえ』なんて言ったが、どうやら見当違いだったらしいな。ステータスが一桁だなんだとギルドで笑われてたから、てっきりすぐに野垂れ死ぬと思ってたぜ」
「あはは……まあ、色々ありまして」
「いいだろう。今のあんたになら、店の奥に仕舞ってある『本物』を見せてやってもいい。予算はいくらある?」
僕は懐から、ずっしりと重い金貨の入った革袋を取り出した。そして、頭の中で素早く計算を済ませる。
「ええと、当面の宿代とご飯代、それからもしもの時の予備費は残しておきたいので……出せるのはこのくらいです。この予算内で買える、一番いい剣と、それに合う丈夫な防具をお願いします。さすがに革鎧のままじゃ、オークの一撃は痛くて」
僕がカウンターに並べた硬貨と僕の顔を交互に見た親父さんは、鼻を鳴らしてニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。
「……金を持った途端に全額注ぎ込んで見栄を張るんじゃなく、ちゃんと明日の飯と生活のことまで考えてやがる。それに、武器だけじゃなく防具の重要性もな。……合格だ、ひよっこ」
親父さんは満足そうに頷くと、「ちょっと待ってな。あんたの戦い方に合いそうなヤツを見繕ってきてやる」と店の奥へと消えていった。
どうやら、いよいよ初心者装備ともお別れのようだ。生活費を確保しつつ手に入れる新しい相棒と鎧。堅実に進み始めた僕の冒険は、ここからさらに本格的になっていきそうだ。
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