変節5-6 観察者の記錄 Ⅳ
それから、幾度も私は“王”を見てきた。
それは、女性のことも男性のこともあったけれど、いつからか男性ばかりになっていった。
これは、今の一つ前の生。
私は貴族の娘だった。
箱入り娘だった私は、ほとんど外に出ることはなかったの。
だけど、ある時、エドマンド・ヴァレイン侯爵と、その庶子の話を聞いたわ。
王のお気に入りだったヴァレイン侯爵は、奥様を亡くされて政界から退いてしまっていたけれど、最近、社交界に復帰された、と。
そして、彼は、
この世のものとは思えない程美しい庶子を囲っているのだと。
私は舞踏会で、一度だけ、ヴァレイン侯爵の横に立つアウレリウスを見たわ。
一目見て、分かった。
あぁ、今の世の王は、この方なのね、って。
そして、これまでの王とは質が違うことも、すぐに分かったわ。
王は人を惹きつけすぎる。
そして、壊したい人間も、いつの時代も、なぜか現れるの。
王の性質上、女性体は処女性を失いやすい。
私はそう感じたわ。
きっと、それが神聖性の証だったのね。
だから女性の王は、長くは続かなかったのかもしれないわ。
気づいていたかしら。
アウレリウス、あなたに無理に触れたがるのが、男性ばかりだということ。
“王”を壊せるのが“男性”だけだからよ。
舞踏会で見たあなたは、それはそれは、美しかったわ。
侯爵の力をもって着飾られたあなたは、それこそ、この世の祝福全てをその身に受けているようだった。
でもそれは、本当に多くの目を惹きつけた。
アウレリウスを見る目に、あなたを壊したがる視線も含まれていたことに、私は気づいていたわ。
でも、このときの私も、あなたに声をかけることは許されなかった。
貴族令嬢ですもの。
父の目があり、
使用人の目があり、
私は動けなかった。
私は父の横で、あなたに少しだけ目を伏せて、お辞儀をしただけ。
ちらりと見たあなたの瞳は、美しかった。
穢れを押し流す、水のように。
清廉で、柔らかかった。
女性体が処女性を失いやすいのに対して、男性体は触れられない代わりに、触れられずに壊れていくの。
だから、
“どうか美しいあなたが苦しみませんように”
私は心の奥底で、祈ったわ。
そう、祈っただけなの。
その祈りは、霧に阻まれて、きっとあなたには届かなかった。
私はその生で、初めて“王”が壊れる様を見ることなく、人生を終えたわ。
――そして、私はまた新たな生を得て、
アウレリウスとセティちゃんに、
改めて出会った。




