↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グレイブハル城の観測者  作者: かも ねぎ
変節 第五章『王を見つめる者』
178/215

変節5-4 観察者の記錄 Ⅱ


 また、別の人生では、私自身がどんな身分だったかは、覚えていないわ。


 だけど、私は“王”の近くにいた。


 その人の家の使用人だったのかもしれないわね。


 その時の“王”も、ただの人だった。

 

 見目がとても良い、美しい女性だったわ。

 そして、完璧主義で、賢い人だった。


 ある時、彼女は恋をした。


 幼馴染の青年。

 少し内気だけれど、誠実で良い青年だった。

 

 だけど、彼は、斬り殺されたわ。


 彼女の騎士によって。


 身分的にも“騎士”だったけれど、私には分かったわ。

 

 彼が“守護者”だって。

 

 “守護者”である彼もまた、美しかった。

 騎士として無駄のない体つきに、整った顔貌。

 

 誰もが思ったわ。

 彼が間違うはずがないのだから、彼女の想い人が、きっと悪いことをしようとしたのね……って。

 

 私も、そう思った。


 “王”は泣いていた。

 でも、それは仕方がないことだと思った。

 だって“守護者”が斬ったのだもの。

 彼女を守るために必要なことなのだと、思ったから。


 それからしばらく経って、“王”はまた恋をしたわ。


 どんな相手だったかは、覚えていない。

 その彼もまた、すぐに守護者の剣が届いたから。


 “王”は美しかったわ。

 それゆえか、よく人を惹きつけ、出会いも多かった。


 その次に、彼女が恋をした人も、殺されたわ。

 その次も、そのまた次も――。


 ある時、私は気づいたの。

 “守護者”の彼は、“王”を愛していることに。


 だから、あれは正義ではなくて、独占欲なのかしら……って思うようになったわ。


 でも、何かしら。

 それも違うような気がしたの。

 

 彼もまた、大きな力で覆われていたから。


 彼は、彼女を愛していた。

 でも、彼が彼女に触れることはなかった。


 “王”は想い人を幾人も失って、壊れかけていた。

 恋をすれば、人が死ぬ。

 恋心を隠しても、なぜか“守護者”の彼には気づかれてしまう。


 ある時“王”は、“守護者”の彼に言ったの。


『恋がしたい。

 貴方は私を、愚かな女だと思うでしょう。

 でも、一生に一度でいい。

 女として、愛されたいの』


 守護者の彼は怒ったわ。

 

『そんなことを貴女が望んではならない。

 貴女は神聖であり続けるべきだ。

 それでこそ、私が愛する貴女なのだから』


 王の彼女は泣いた。

 

『騎士のあなた。

 私を愛して。

 これ以上失うのは、もう、耐えられない。

 私にあなたの愛を与えて。

 そうでなければ、私はもう生きることなどできないわ。

 この世界に、未練などないのよ』


 そうして、とうとう守護者の彼は彼女と身体を繋いだ。


 彼女の中から、“王”の光が消えた。


 しばらくは、二人は幸せそうだったわ。

 だけど彼女は病にかかって、すぐに亡くなってしまった。


 私には、見えていた。

 

 ――あれは、壊れたおもちゃを、誰かが捨てたのよ。

 

 ねぇ、聖典三十二章を、知っていて?


 ◇◇◇


 創造神オルドは、神の御遣いセリスの背に問う。

 『お前は何を守る』


 セリスは応える。

 『父が守れと言ったものを』


 オルドは笑った。

 『それはお前が勝手に決めたのだ。私は箱を作った。箱が壊れれば、新たな箱を作るまで』


 セリスは泣いた。

 『私は箱を壊したくなかったのです』


 太陽神ソラエは怒った。

 『壊れた箱は燃やしてしまえ』


 オルドはソラエを笑った。

 『なぜ燃やさねばならぬ。放っておけばよい』


 ソラエも笑った。

 『お前の作ったものはつまらぬ』


 オルドは怒った。

 『お前の作ったものは美しくない』


 こうして神々は争った。

 セリスは壊れた箱を抱いて泣いた。

 神々はセリスを二度と見ることはなかった。


 ◇◇◇


 これは、彼女と彼の物語だったんじゃないかしら。


 それで、この時代の王は終わったの。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。