↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グレイブハル城の観測者  作者: かも ねぎ
変節 第五章『王を見つめる者』
177/215

変節5-3 観察者の記錄 Ⅰ


 カップには新しい紅茶が注がれ、部屋に香りが舞った。

 コトリ、と、ポットを置く音。


 席についたモルガナは一度、アウレリウスとセティを見、わずかに息を飲んだ。


「私ね、前世の記憶がおぼろげながらあるの。

 それを話すわ。

 王と守護者について、きっと、わかると思うから……」


 モルガナは紅茶の波紋を見つめる。

 アウレリウスとセティは、彼女が話し出すのを静かに待った。


 ◇


 初め、私は森に住んでいた。

 いわゆる“魔女”と呼ばれる存在だったの。


 薬草の知識があり、薬を作るのが得意だったから、それを近くの村の人に売って生活をしていた。


 穏やかな毎日だった。

 薬を持っていけば、村の人はみんな喜んでくれたわ。

 時々こどもの看病を手伝ったり、収穫時期には畑仕事も一緒にやった。

 

 変わらない毎日。


 だけど、ある日、ある男性が村を訪れた。

 

 彼は、見目のとても良い男性だった。

 “華やか”というより、端正で、立ち振る舞いも無駄がなく、洗練された人だったわね。


 どんな立場の人だったのかは、私は知らない。

 私は所詮、村の外の人だったから。

 

 だけど、私は一目見て分かったわ。


 彼が“王”であると。


 何の“王”なのかは分からないわ。

 国の王なのか、それ以外なのか。

 

 今ならあれは“理の世界の王”なのだと分かるけど、村の外れに住む“魔女”だった頃の私には、その知識はなかった。


 物腰も穏やかで、いわゆる“美男子”よ。

 欠点が見つからないような人。

 

 あの頃の私の中で、

 そんな素敵な人に、話しかけてみたい気持ちと、

 触れてはならない気持ちがせめぎ合っていた。


 そういう強い興味と忌避感が同時に湧いてきて、私は、怖いと感じた。


 それで、

 あの頃の私は、話しかけないという選択をした。


 私は、ただ彼を見ていた。

 遠くから。


 はっきりとは分からなくても、彼がどう感じているのかは、見ているだけで分かった。


 それもまた、私は怖かった。

 なぜ分かるのかが、分からなかったから。


 ――彼は、今にも死んでしまいそうだった。

 まだ、誰も手を下していないのに。

 

 身体は健康だった。

 だけど、心が壊れかけていた。


 彼の周りを、大きな力が覆っているのが見えた。

 

 重くて、

 冷たくて、

 だけど、得体が知れない、楽しんでいるようなもの。


 それが彼を苦しめていることは、分かった。

 

 彼は村を去ったわ。


 それからしばらくして、

 私は勇気を出して村の人に聞いてみたの。


「あの素敵な彼は、もう来ないの?」

 って。


 村の人は言ったわ。

「あぁ、あの人は川に身を投げたよ……」

 と。

 

 これが、私が初めて“王”を観測した時の話。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。