変節5-3 観察者の記錄 Ⅰ
カップには新しい紅茶が注がれ、部屋に香りが舞った。
コトリ、と、ポットを置く音。
席についたモルガナは一度、アウレリウスとセティを見、わずかに息を飲んだ。
「私ね、前世の記憶がおぼろげながらあるの。
それを話すわ。
王と守護者について、きっと、わかると思うから……」
モルガナは紅茶の波紋を見つめる。
アウレリウスとセティは、彼女が話し出すのを静かに待った。
◇
初め、私は森に住んでいた。
いわゆる“魔女”と呼ばれる存在だったの。
薬草の知識があり、薬を作るのが得意だったから、それを近くの村の人に売って生活をしていた。
穏やかな毎日だった。
薬を持っていけば、村の人はみんな喜んでくれたわ。
時々こどもの看病を手伝ったり、収穫時期には畑仕事も一緒にやった。
変わらない毎日。
だけど、ある日、ある男性が村を訪れた。
彼は、見目のとても良い男性だった。
“華やか”というより、端正で、立ち振る舞いも無駄がなく、洗練された人だったわね。
どんな立場の人だったのかは、私は知らない。
私は所詮、村の外の人だったから。
だけど、私は一目見て分かったわ。
彼が“王”であると。
何の“王”なのかは分からないわ。
国の王なのか、それ以外なのか。
今ならあれは“理の世界の王”なのだと分かるけど、村の外れに住む“魔女”だった頃の私には、その知識はなかった。
物腰も穏やかで、いわゆる“美男子”よ。
欠点が見つからないような人。
あの頃の私の中で、
そんな素敵な人に、話しかけてみたい気持ちと、
触れてはならない気持ちがせめぎ合っていた。
そういう強い興味と忌避感が同時に湧いてきて、私は、怖いと感じた。
それで、
あの頃の私は、話しかけないという選択をした。
私は、ただ彼を見ていた。
遠くから。
はっきりとは分からなくても、彼がどう感じているのかは、見ているだけで分かった。
それもまた、私は怖かった。
なぜ分かるのかが、分からなかったから。
――彼は、今にも死んでしまいそうだった。
まだ、誰も手を下していないのに。
身体は健康だった。
だけど、心が壊れかけていた。
彼の周りを、大きな力が覆っているのが見えた。
重くて、
冷たくて、
だけど、得体が知れない、楽しんでいるようなもの。
それが彼を苦しめていることは、分かった。
彼は村を去ったわ。
それからしばらくして、
私は勇気を出して村の人に聞いてみたの。
「あの素敵な彼は、もう来ないの?」
って。
村の人は言ったわ。
「あぁ、あの人は川に身を投げたよ……」
と。
これが、私が初めて“王”を観測した時の話。




