変節2-5 永遠を信じた日
塔の上。
いつものように石塀に腰掛け、足を外へ投げ出す。
「アウルが……不老不死じゃなくなったんだ」
肩までの黒髪が、さわさわと風に撫でられる。
今日は髪を縛らなかった。
アウルは、ベッドで休んでいる。
「いつか……アウルは死んじゃうってことだよね」
涙が頬を伝う。
「いつか……別れの日が来るってことだよね」
風が柔らかく肩を包んだ。
まるで慰めるように。
「人は……強いね。みんな、いつか死ぬんでしょ?
みんな、こんな不安を抱えて生きてるの?」
シャツの胸元を強く握る。
手の甲を、涙が濡らした。
「気をつけないと。
今までは骨折しても放っておいても治ったけど、今度からはちゃんと治療しなきゃ。
食事も考えて、健康に気をつけて、長生きして……ずっと一緒にいるんだから」
涙を拭う。
「ずっと、ずぅっと……一緒にいるんだ」
指先が触れた城の石は、とても冷たかった。
空には雲がなく、
湖面には陽の光が踊るように弾かれている。
庭園からは相変わらず花の香りが漂ってくる。
小さく息を吐く。
それは柔らかな風に、すぐ溶けていった。
ふいに、胸の奥がふわりと温かくなる。
「アウルが、一緒に年を取ろうって」
自分の頬を両手で包む。
「嬉しいな」
今までは友達は作れなかったけど、作ってもいいのかもしれない。
……できるかな。
アウルは社交的だから、きっとすぐ友達ができる。
でも性格は変わらない。
これからも人との距離は近いままなんだろうな。
今までは世界に二人きりだったから気にならなかったけど……
他の人と仲良くしてたら、嫉妬しちゃうかもしれない。
「やっぱり閉じ込めておく?」
思わず笑った。
「……それはダメだよね。
ちゃんと見張っておこう」
これから、何が起きるんだろう。
僕も境界を壊してもらったら……
アウルの言うように、背が伸びるかな。
髪はすぐ戻るからと放ってきたけど、髪型を変えてもいいかもしれない。
でも、アウルの長い髪を編めなくなるのは寂しいかも。
短いアウルも見てみたいけど。
絶対爽やかだもの。
そのうち、腰が痛いとか、膝が痛いとか言い出すのかな。
髪も白くなったり、減ったりするのかな。
――そっか。
いろんなアウルが、これからは見られるんだ。
「……すごく、幸せかもしれない。
アウルが本当に僕のものになったんだ」
今までも『僕のアウル』って言ってきたけど、
本当に『僕のアウル』になったんだよね。
「わぁ! 嬉しい!」
思わず叫ぶ。
塀の上で足を抱える。
今更いろいろ思い出して、急に恥ずかしくなった。
「百年越しの恋だよ?
普通の人間だったら寿命だよね。
僕、耐えたよね。あんなに綺麗で無防備な人を前にしてさ」
深呼吸。
甘い水の匂い。
「お茶を淹れてアウルに持っていこう。
きっと暇をしてる。
放っておくと無理して動きかねないもの、あの人」
塀から降りる。
コツリとブーツが石床を打った。
その小さな音さえ、祝福に聞こえた。
僕は急いで、アウルのもとへ戻った。




