変節1-7 モルガナの話
いらっしゃい。
あら、香水を変えたの?
あなたの雰囲気によく似合っているわ。
素敵よ。
あなた、
グレイブハル城と青年たちの話が聞きたいのね。
ふふ。
実はね、アウレリウスとセティちゃんは、私のお友達なの。
世界が彼らを求めているのは、分かるわ。
私も、そうだもの。
でもね、私は人間なの。
だから、好きなように生きることにしているのよ。
世界に求められて、
それに応じたとしても――
世界は、何も返してはくれない。
世界は、ただ箱を置いただけ。
それだけなの。
えぇ、でも……
二人は、まだそのことに気づいていないみたい。
世界に選ばれたことも。
世界が、何もしてくれないことも。
それを、教えるべきか、ですって?
……どうかしら。
私は、あえて教えたいとは思えないわね。
何も知らないままでいることは、
いけないことかしら。
だって、世界は知識を与えてはくれないの。
知らないままでいた方が、必ずしも不幸だとは限らないでしょう?
もし――
彼らが、自分で気づいてしまったら。
その時は、教えてあげるわ。
ふふ。
この黒猫、ウンブラっていうの。
ふてぶてしくて、可愛らしいでしょう?
ウンブラったら、私よりアウレリウスが好きなのよ。
浮気者でしょう?
……ふふ、大丈夫。怒ってはいないわ。
滅多に人に懐かない子なの。
アウレリウスが、特別なのよ。
私も猫だったら、きっと彼に懐いていたでしょうね。
あぁ、彼のこと?
確かに、とても美しいわ。
月を映す湖面。
虹をつくる水滴。
若葉につく朝露。
そんな感じかしら。
見た目も、仕草も、美しい。
立っているだけで、絵になる人ね。
でも……
彼の言葉も、美しいのよ。
とても、優しい。
だけど、湖には水底があるでしょう?
光が、届かない場所が。
アウレリウスは、水のような人だわ。
誠実で、柔らかくて、潤いを与える。
けれど、
ずっと触れていると、体が冷えてしまう。
ある意味、怖い人よ。
……見たこと、ある?
彼ね、とても艶っぽい瞬間があるの。
これは、私の想像だけれど――
きっと、与えられてしまったのよ。
人を惹きつける力。
でも、彼は臆病なほどの人だから。
そんな力は、彼にとっては呪いでしょうね。
私は……
それも含めて、美しいと思うけれど。
もう一人。
セティちゃんのことね。
本来、彼は鋼の剣なのだと思うわ。
えぇ、彼も美しいわよ。
アウレリウスが光のような人だから、
セティちゃんは影に見えてしまうけれど。
鋼の剣には、月が宿る。
彼は、そんな人。
王都を歩いていたら、女性が声をかけたくなるのは、きっとセティちゃんでしょうね。
アウレリウスは、確かに美しいけれど……
完璧すぎるもの。
まぁ、でも――
セティちゃんを振り向かせられる女性なんて、いないでしょうけど。
彼、怖いほど一途だもの。
でも……ふふ。
城とセティちゃんの、アウレリウスへの執着は――
見ていて、ちょっと重いわね。
二人とも、真面目すぎるのよ。
もっと、自分の心に素直になればいいのに。
私は占いを稼業にしているけれど、彼らの未来は見えないの。
大きな力で、覆われているから。
占い師としては、何も言えない。
でも、友人としてなら――
はっきり言えるわ。
彼らは、幸せになるべきよ。
……ねぇ。
そろそろ、あなたのお話も聞かせて。
新しい恋でも、したのね?
恋の話、大好きなの。
あら、いけない。
紅茶を出すのを忘れていたわ。
アップルパイを焼いたの。
食べてくれる?
……そう。嬉しいわ。
用意してくるから、一緒に食べましょう。
席を外すわね。
ウンブラ、いい子にしてて。




