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グレイブハル城の観測者  作者: かも ねぎ
変節 第一章『立つ場所』
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変節1-6 ヘンリーの話


あぁ、どうも。

お世話になっております。


グレイブハル城について、ですか?


……正直に言ってしまうと、

私から話せることは、あまりないと思いますよ。


えぇ、そうなんです。

取材には行きました。

――行った、はずなんです。


ほら、これ。

見てください。


この書類、分かりますか?

グレイブハル城に行く前に、

私が必死で集めた資料です。


エドマンド・ヴァレイン侯爵。

あの城の、かつての持ち主ですね。


侯爵は、実に多くの功績を残した人物です。

ハートウェル区に立つ大学や研究施設のほとんどは、彼が関わったものと言ってもいい。

それほどの偉人ですから、こうして資料も、いくらでも集まりました。


ただ……

奥方を亡くされてから、すぐに引退してしまったようで。

現役期間は、思ったほど長くなかった。


もし、あのまま政務に関わり続けていたら、

この国のあり方さえ変えていたんじゃないか――

そう思わされる人物です。


そんな侯爵が遺した城、それがグレイブハル城です。


えぇ、こちらは――

グレイブハル城についての噂をまとめた資料ですね。


「静かで不思議」

「青年たちが美しい」


……そればかりなんですよ。


具体的に、どう不思議なのか。

青年たちは、どんな人物なのか。

肝心なところが、まったく分からない。


しかも入城料が高い。

地方の城館と比べても、明らかに高額です。

案内料まで含めたら、

私の給料、一か月分ですよ?


それなのに、

誰も「高い」とは言わない。

「それだけの価値がある」

――そう言うんです。


……これは、記事にしたくなりますよね?

私、記者ですから。


だから、行ったんです。

グレイブハル城に。


こちらが、外観の写真です。

美しいでしょう?


規模としては、地方の城館と比べると大きくはないです。


ですが、王都のすぐ近く。

王から、相当な信頼を得ていなければ、

あの場所に城は建てられません。


湖も、広い庭園も、本当に見事でした。

「風光明媚」とは、よく言ったものです。


……城の中、ですか?


えぇ。

入りましたよ。

だって、私の財布からは、

確かに十六銀、減っていましたからね。

庶民にとっては、とんでもない金額です。


驚くほど美しい青年たち……。


えぇ、いました。

多分、見ましたし、

会話も、したはずです。


どうして、そんなに歯切れが悪いのか、ですって?


……覚えていないんです。


もう一度、言いますよ?

覚えていないんです。


確かに、青年と話しました。

写真も、何枚も撮った――はずなんです。


見てください、これ。

何も写っていないでしょう?


写真が下手?

冗談じゃない。


さっき見たでしょう?

外観の写真。

ちゃんと、美しく写っていたじゃないですか。


あれを撮ったのは、紛れもなく、私です。


いいですか。

私は、記者なんですよ。

取材して、

写真を撮って、

記事を書く。

それが、仕事です。


それなのに――

写真は残っていない。


青年たちの特徴も思い出せない。

城の中の様子も、何一つ覚えていない。 


記事にしようとしても、

何も……

何も、書けなかったんです。


編集長には、散々どやされましたよ。

危うく、見学料が経費で落ちないところでした。

十六銀です。

死活問題ですよ。

本当に。


……はぁ。


ですから、私が言えることも、結局はこれだけです。


「静かで不思議」

「青年たちが美しい」


期待外れでしょう?


……あぁ、申し訳ありません。

そろそろ、次の取材に行かなくては。


グレイブハル城以外のことでしたら、

いくらでもお話しできますよ。


ただ、時間がないので……

それは、また今度でよろしいですか。


えぇ、それでは。

失礼しますよ。


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