変節1-5 ジュリアンの話
は?
グレイブハル城と、青年たちについて聞きたい?
……なんで俺に聞く。
行ったことがあるだろう、って?
まぁな。
あるには、あるが……。
俺は、どうやら最初から、
あの城に拒絶されていたみたいだ。
どう言えばいいのか、
俺だって、うまく説明できない。
ただ……
「来るな」って、言われてる気がしたんだよ。
あそこには、異様に美しい男がいた。
俺は、どうしても、あの男が欲しかった。
あんなに綺麗な人間、今まで見たことがない。
……え?
あぁ、あの未亡人か。
確かに美人だったな。
でも、そんなの比じゃない。
どんな女よりも、格上だ。
性別なんて、どうでもよくなるくらいにな。
俺はさ、見目がいいだろう?
……なんだよ。
本当のことだろ。
それに、名のある侯爵家の次男だ。
金もある。
欲しいと思って、手に入らなかった女なんていない。
だから、本気で手に入れようとした。
無理やりなんて、してない。
ちゃんと城に通って、恋人にしようとしたんだ。
あれを連れて歩けたら、
さぞ自慢できただろうからな。
こうやって腰を抱いて、髪を撫でてやる。
それから、低くて甘い声で囁くんだ。
「きれいな髪だね」って。
それで、優しくチークキス。
それだけで、大抵の女は落ちる。
……まぁ、男だけどな。
うちに遊びに来ないか、って誘ったら、なんて言ったと思う?
「何をしに?」
……だとさ。
侯爵家に誘ったんだぞ?
普通、喜んでついてくるだろ。
でもな……
そうやって口説き落とそうとしてる時に、新聞に載ったんだよ。
「某侯爵家次男、男を囲う」ってな。
この国の宗教じゃ、男色はタブーだろ。
社交界に、俺の居場所はなくなった。
父上にも、そりゃあ激怒された。
それでも、城には通った。
懲りないって言うだろうが、本当に美人なんだ。
一目見たら、俺の気持ちも分かる。
……あと少しで、キスできそうだったんだ。
そんな時にさ、近くにあったガラスの花瓶が割れた。
……タイミング、悪すぎだろ。
でも……
あれは、偶然なんかじゃない。
はっきり感じたんだ。
やっぱり、城に拒絶されてるって。
鳥肌が立った。
それに、あの生意気なやつ。
城にいる、黒髪の方だ。
あいつが……
夜、いたんだよ。
俺の部屋に。
枕元で、言うんだ。
「触らないで」って。
……言われただけだ。
言われただけなのに。
心臓に、ナイフを突き立てられたみたいだった。
流石に、只事じゃないって思った。
手を出しちゃいけないものに、俺は手を出しかけてたんだ。
だから、諦めた。
城には、もう二度と近づかないって決めた。
……そしたら、どうなったと思う?
あれだけ大騒ぎだった俺の醜聞を、誰も覚えてないんだ。
父上も、執事も、舞踏会で俺を避けてた女たちも。
急に、何事もなかったみたいに戻ってきた。
お前も……知らないだろ?
本当に、すごい騒ぎだったんだ。
……これで、いいか?
城?
城のことは、もうよく覚えてないな。
あの、綺麗な男のことしか、記憶に残ってない。
とにかく、あの城には、もう二度と関わりたくない。
お前だから話したんだ。
他のやつには言うなよ。
次に聞かれても、俺は、絶対に話さないからな。
……俺は帰る。
疲れた。
じゃあな。




