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グレイブハル城の観測者  作者: かも ねぎ
変節 第一章『立つ場所』
148/167

変節1-4 マーサの話


……どうも。


グレイブハル城と、青年たちについて?

さぁね。

自分で出かけてみたらいいんじゃないかい。

あたしだって、そんなに多くは知らないよ。


最初は一年契約の予定だったんだけどさ、

最近になって、長期で働いてみないかって声をかけられてね。

……何かあったのかね。


あそこは馬車も手配してくれるし、給料もいい。

でも、短期でしか人を雇わないことで有名な城なんだ。

だからまぁ……ありがたいこったよ。


馬の飼料だとかを運ぶ業者も、

相当選んでるみたいだね。

なんたって「城」だからさ。

いろいろ、あるんだろうよ。


あたしが行くのは、週に一回だけ。

朝から夕刻まで仕事して、帰る。

そんだけさ。


……青年たち?

そんなに知りたいのかい。


穏やかで、優しくて、本当にいい子たちだよ。

こんな無愛想な婆さんにも、親切にしてくれる。


あんな立派なお城に住んでるのに、

ちっとも偉ぶらないんだ。

人が良すぎて、逆に心配になるくらいさ。


前にね……

うちの息子の嫁さんが……

子どもを流しちまって……

ひどく落ち込んでた時があってさ。


その話をしたら、あの子たち、城に招いてくれたんだよ。

それをきっかけに、前より嫁さんとも話せるようになった。

ありがたいよ。本当に。


あんな、いい子たちは、そうそういないだろうね。


アウレリウスさんはさ、きれいだよな。

きれいすぎて、ちょっと怖いくらいだ。


物腰も穏やかでね。

童話に出てくる「王子様」ってのは、

きっと、ああいう人なんだろうよ。


セティ坊っちゃんの方は……

まぁ、かわいい顔してるね。

息子の若い頃を思い出すよ。


……いや、うちの息子は、あんなきれいな顔してなかったけどさ。


坊っちゃんは所作もきれいだ。

あんまり笑わない子だけど、優しい子なんだよ。

たまに、ぽつぽつ話すだけだけどさ。

本当に、いい子だ。


だけど――

あの城は、不思議だね。


あの大きさの館なら、

使用人が何人もいてもおかしくないのに。

日頃は、二人しかいない。

あたしも週一回しか行ってないだろ?

なのに、あんまり汚れないんだ。


あたしは、ただの庶民だからさ。

あんな立派な建物とは、縁がない。

掃除婦として、他のお貴族様の邸宅に入ったことはあるけどね。


だからまぁ……

よくは分からないけどさ。


やっぱり、不思議なんだよ。

空気っていうのかな。


時々ね、城の方に呼ばれる気がするんだよ。

『ここが汚れているよ』ってさ。

週一日で、あの城全部を掃除するのは無理だよ。

だけど、

「ここはやらなきゃいけない」って場所が……

なぜか分かるんだ。

行ってみると、確かに埃が積もってる。

そこを掃除するだろ?

するとさ……

なんだか、感謝されてる気がするんだよね。


……なんだい。

婆さんがおかしくなったって?


そんなこと言うなら、もう話さないよ。

聞いてきたのは、あんただろ。


……仕方ないね。


あたしだって、不思議には思ってるよ。

でもさ、「不思議」って言っても、怖いわけじゃない。

心地のいい城なんだ。

内門をくぐるとね、なぜか歓迎されてるって思うんだよ。


そうそう。

朝、内門をくぐるとさ、たいていアウレリウスさんが、ちょうど外に出てる。

で、

馬車を降りるときに、手を差し出してくれるんだ。

こんな婆さんに、だよ。


……あれは、やめてほしいね。


なんでって?

そりゃ、恥ずかしいからさ。

エスコートなんてされる身分じゃない。


はぁ……。

もう、いいかい。


あ、そう。

じゃあ、あたしは帰るよ。


あんたも、気をつけて帰りな。


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