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グレイブハル城の観測者  作者: かも ねぎ
変節 第一章『立つ場所』
147/160

変節1-3 エリザの話


ごきげんよう。

グレイブハル城と、そこにいらっしゃるお二人について、ですか?


お一人としか、わたくしはお話しておりませんけれど、それでも、よろしいでしょうか。


……えぇ、そうです。

アウレリウスさんという方ですわ。


彼は、目を見張るほど美しい青年でした。

社交界で多くの方とお話しする機会がありましたけれど、あれほどの美貌をお持ちの方は、他に存じません。


金の御髪は柔らかそうで、「絹のような髪」とは、きっとあの方の髪のことを指して言うのだと、そう思いました。

青く澄んだ瞳も、優しいお声も、美しい仕草も。

何もかもが、あまりに整っていらしたのです。


グレイブハル城は、噂どおり美しい城でしたわ。

けれど……とても静かでした。

一人で佇んでいると、怖いと感じるほどに。


石床のはずなのに、歩いても音がしないのです。

不思議でしょう?


あまりに静かで、まるで、あちらの世界へ引きずり込まれてしまいそうでした。


「あちら」がどこなのか、ですって?

……申し訳ありません。

わかりませんわ。


ただ、ここではない、どこかへ引っ張られてしまうような、そんな心細さを感じたのです。


それで……

今では、愚かな行いだったと思っております。


白状いたしますと、

わたくし、あの方に――

ほんの一瞬だけ、心を惹かれてしまいました。


よくしてくださる婚約者がいる身で。

はしたないでしょう?

本当に……お恥ずかしいことですわ。


どうしてだったのでしょう。

あの時は、自分が自分ではないように感じられて……。

まるで、魅了されていたかのようでした。


えぇ、少し想像してみてくださいな。


音のしない、静かで美しい城。

この世に、ひとりぼっちになってしまったような、ひどい心細さに襲われるのです。

そんな時、この世のものとは思えないほど美しい青年に、そっと手を取られて、

「こちらへおいで」なんて、甘く囁かれる。

そして、そのまま寄り添われるのですわ。


……耐えられまして?


あぁ、いえ。

アウレリウスさんは、本当に良い方です。

溺れかけていた愚かなわたくしに、

「もう、ここには来ちゃだめだよ」

そう、はっきり仰ってくださいました。


もし、不誠実な方でしたら、あのまま、わたくしを手籠めにすることもできたはずですもの。


婚約者のノアには、正直に話しました。

こんなことがあった、と。

彼は笑って、許してくださいましたわ。

本当に……わたくしには、過ぎた方です。


……え?


えぇ、ふふ。そうですの。

この指輪は、彼が贈ってくれたものですわ。

美しいでしょう?

自慢の婚約者です。


もう二度と、彼を裏切ることはありません。


グレイブハル城について尋ねられましたら、

美しい城だったこと、

そこにいた青年も心優しく、礼儀正しかったこと――

そう、自信を持ってお答えいたしますわ。


けれど……

わたくし自身は、もう……

あそこへ行くのは、少し怖いですわね。


来年には、結婚式を挙げる予定ですの。

あなたも、来てくださる?

まぁ、嬉しい。

それでは、招待状をご用意いたしますわ。


えぇ、それでは。

ごきげんよう。


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