変節1-3 エリザの話
ごきげんよう。
グレイブハル城と、そこにいらっしゃるお二人について、ですか?
お一人としか、わたくしはお話しておりませんけれど、それでも、よろしいでしょうか。
……えぇ、そうです。
アウレリウスさんという方ですわ。
彼は、目を見張るほど美しい青年でした。
社交界で多くの方とお話しする機会がありましたけれど、あれほどの美貌をお持ちの方は、他に存じません。
金の御髪は柔らかそうで、「絹のような髪」とは、きっとあの方の髪のことを指して言うのだと、そう思いました。
青く澄んだ瞳も、優しいお声も、美しい仕草も。
何もかもが、あまりに整っていらしたのです。
グレイブハル城は、噂どおり美しい城でしたわ。
けれど……とても静かでした。
一人で佇んでいると、怖いと感じるほどに。
石床のはずなのに、歩いても音がしないのです。
不思議でしょう?
あまりに静かで、まるで、あちらの世界へ引きずり込まれてしまいそうでした。
「あちら」がどこなのか、ですって?
……申し訳ありません。
わかりませんわ。
ただ、ここではない、どこかへ引っ張られてしまうような、そんな心細さを感じたのです。
それで……
今では、愚かな行いだったと思っております。
白状いたしますと、
わたくし、あの方に――
ほんの一瞬だけ、心を惹かれてしまいました。
よくしてくださる婚約者がいる身で。
はしたないでしょう?
本当に……お恥ずかしいことですわ。
どうしてだったのでしょう。
あの時は、自分が自分ではないように感じられて……。
まるで、魅了されていたかのようでした。
えぇ、少し想像してみてくださいな。
音のしない、静かで美しい城。
この世に、ひとりぼっちになってしまったような、ひどい心細さに襲われるのです。
そんな時、この世のものとは思えないほど美しい青年に、そっと手を取られて、
「こちらへおいで」なんて、甘く囁かれる。
そして、そのまま寄り添われるのですわ。
……耐えられまして?
あぁ、いえ。
アウレリウスさんは、本当に良い方です。
溺れかけていた愚かなわたくしに、
「もう、ここには来ちゃだめだよ」
そう、はっきり仰ってくださいました。
もし、不誠実な方でしたら、あのまま、わたくしを手籠めにすることもできたはずですもの。
婚約者のノアには、正直に話しました。
こんなことがあった、と。
彼は笑って、許してくださいましたわ。
本当に……わたくしには、過ぎた方です。
……え?
えぇ、ふふ。そうですの。
この指輪は、彼が贈ってくれたものですわ。
美しいでしょう?
自慢の婚約者です。
もう二度と、彼を裏切ることはありません。
グレイブハル城について尋ねられましたら、
美しい城だったこと、
そこにいた青年も心優しく、礼儀正しかったこと――
そう、自信を持ってお答えいたしますわ。
けれど……
わたくし自身は、もう……
あそこへ行くのは、少し怖いですわね。
来年には、結婚式を挙げる予定ですの。
あなたも、来てくださる?
まぁ、嬉しい。
それでは、招待状をご用意いたしますわ。
えぇ、それでは。
ごきげんよう。




