拾遺9-1 翳らせてしまった空
王都オルドンからほど近い、湖のほとりに建つ――グレイブハル城。
風光明媚なこの城は、いつしか観光名所として知られるようになった。
美しく、
静かで、
それでいて、どこか不思議な場所として。
この城を守るのは、
錬金術によって生み出された二体の――ホムンクルス。
絶世の美貌を持つ青年、アウレリウス。
そして、彼の手によって生まれた少年、セティ。
その誕生に祝福があったのか。
それとも――。
それを知る者は、誰もいない。
世界から弾かれたこの城に封じられた、
厳かな秘密である。
◇
受付室。
空を雲が泳いでいくのを、アウルは小窓の前でぼんやりと眺めていた。
ふと、振り返る。
金の髪が光を纏っている。
相変わらず、きらきらしている人。
目が合うと、アウルはふわりと笑った。
でも――以前とは、少し違う。
小窓の向こうに、見学者が立った。
銀貨を受け取り、丁寧に金庫へ収める。
見学者が玄関ホールへ入っていくと、ソファにいた僕の横にアウルは歩み寄った。
「セティ、案内に行ってくるね」
「……はい」
そのまま、彼は受付室を出ていった。
以前なら、僕の前に立って、額にキスをしてくれた。
あの日以来、アウルは、僕に触れるときに、少し躊躇するようになってしまった。
それに、時々――
あの美しい青い瞳も、翳る。
二度と翳らせないって、決めていたのに。
結局、翳らせてしまったのは、僕だ。
本を閉じる。
でも、もし、あのとき。
僕が止めなかったら、どうなっていた?
思いのままに、アウルの境界を壊していたら。
もっと、アウルは罪悪感で苦しんだんじゃない?
僕の気持ちを利用したって、自分を責め続けたんじゃない?
だから――
これで、良かったんだよね。
そう、思いたい。
唇を噛んで、膝を抱えた。
アウルには、笑っていてほしい。
あの瞳を、二度と翳らせないって、決めていたのに。
僕は、どうしたら良かった?
僕に、何ができた?
泣いたら、いけない。
泣いたら、
きっと、アウルを、もっと悲しませてしまう。




