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グレイブハル城の観測者  作者: かも ねぎ
拾遺 第八章『終わりの方法』
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拾遺8-5 置いていかれないという誓い


 その夜も、いつものようにソファに並んで座っていた。

 セティは変わらない様子で本を開き、僕は燭台の火をぼんやり眺めている。


 ページをめくる音。

 天井に映る橙の光が、ゆらゆらと揺れていた。


 僕は体の向きを変え、セティの方を向いた。


 ――ごめんね、って言いたい。

 ――でも、それを言ってはいけない気がした。


 セティは僕をちらりと見てから、本を閉じ、テーブルに置いた。


「最近、ちょっと変です」

「……僕が?」

「……そうです」


 僕が手を伸ばすと、セティは素直にその手を取った。

 彼も体をこちらに向ける。


 気づけば、僕の手は情けないほど震えていた。


「……アウル。怖いことでも、あったんですか?」


 ――どうして。

 ――どうして、君はそんなふうに優しいんだ。


「セティ……。君は、“老いて死ぬ”ことをどう思ってる?」


「……え?」


「長く……長く生きていると、心は摩耗していく。

 いつか、僕も君も、壊れてしまう日が来る」


 灰の瞳に、橙の光が揺れて滲む。


「終わりがない日々は、僕たちを壊すんだ」

「……だから、“死”の研究を?」


 ――本当に、よく見ているね。


「……知ってたんだ」

「……なんとなくは」


 僕は小さく息を吸った。


「この生活が終わると思うと、悲しい。

 でも、できるだけ長く一緒に幸せでいるためには、“老化”と“死”が必要だと思うんだ」


 セティの手に、力がこもる。


「壊れてしまってから続く、終わりのない日々には……

 “絶望”しかないから」


 セティは、ぎゅっと僕の手を握った。


「セティ、僕は……年を取って、死にたい」


 灰の瞳が潤む。

 泣かないで、セティ。


「もし、僕が“老化を得る方法”に辿り着いたって言ったら……

 君は、どうする?」


 セティの瞳から、涙が一筋、零れ落ちた。


「僕は、アウルと一緒にいる」


 即答だった。


 胸が、締めつけられる。

 僕の視界も滲んだ。


「絶対に一緒にいます。

 アウルが老いて死ぬなら、僕も老いて死にます」


 指を絡める。

 自分の服に、自分の涙が落ちた。


「置いていかれるのだけは、絶対に嫌だ。

 アウルが死ぬなら、僕だって……」


 声が、震える。


「死ぬのなんか……怖くない」

「……セティ」


 僕は、すぐ泣くけど、

 セティは、あまり泣かないのに。


 大きな瞳から、いくつも涙が溢れていた。


「僕は、絶対、アウルと一緒にいる」


 嗚咽を混じえた声。


「……セティ。抱きしめても、いい?」


 震える声でそう言うと、セティは答える代わりに、僕の胸に飛び込んできた。


「アウル……僕を、置いていかないで」


 苦しくなるほど強く、セティは僕を抱きしめて泣いた。

 子どものように、声を上げて。


 ――置いていくわけがない。

 ――君に、永遠の孤独なんて、味わわせたくない。


 僕が“死”の研究をしていると知ってから、セティはずっと怯えていたのかもしれない。


 ――いつか、置いていかれるかもしれない、と。


 僕は、その気持ちにさえ、気づいていなかった。


 背を抱き、ゆっくりと撫でる。


 ――セティ。

 ――“老化を得る方法”が、どんな方法でも……


 君は、本当に受け入れてしまうんだろうか。



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