拾遺8-1 測る温度
王都オルドンからほど近い、湖のほとりに建つ――グレイブハル城。
風光明媚なこの城は、いつしか観光名所として知られるようになった。
美しく、
静かで、
それでいて、どこか不思議な場所として。
この城を守るのは、
錬金術によって生み出された二体の――ホムンクルス。
絶世の美貌を持つ青年、アウレリウス。
そして、彼の手によって生まれた少年、セティ。
その誕生に祝福があったのか。
それとも――
それを知る者は、誰もいない。
世界から弾かれたこの城に封じられた、
厳かな秘密である。
◇
朝陽が、室内の沈黙を静かに撫でていた。
アウレリウスがベッドから起き上がると、セティはすでに身支度を終えていた。
書物机の前に立ち、髪を整えるための道具を並べている。
軽く伸びをする。
スリッパに足を入れ、セティの方へ歩み寄ると、革紐を持つその手首をそっと掴んだ。
――心拍数は、八十くらい。
そのまま引き寄せ、胸に抱き込む。
「おはよう、セティ」
「おはようございます、アウル」
離れ際、片手で彼の頬を包む。
薬指を頸動脈に当て、脈を測る。
――少し速い。九十を超えている。
腕を解き、セティから離れた。
アウレリウスも朝の身支度を始める。
クローゼットから服を取り出し、夜着のボタンに手をかけた。
背後で、扉が閉まる音がする。
――思い返せば。
僕が着替えるタイミングで、セティは部屋を出ていることが多い。
――そうか。
僕の肌を、見ないようにしていたのかもしれない。
ずっと、気づかなかった。
セティに首筋へキスをされたあの時からしばらくして、アウレリウスは彼の脈を取るようになった。
自分に触れられることを、セティがどう感じているのかを知るために。
ずっと一緒にいても、分からなかったこと。
彼の気持ちを知るには――
アウレリウスには、この方法しか思いつかなかった。
小さく息を吐く。
一人きりになった部屋には、朝の光が水のように静かに満ちていた。




