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グレイブハル城の観測者  作者: かも ねぎ
拾遺 第七章『終わりを選べない日々』
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拾遺7-6 受け入れられない結論


 アウレリウスがその日、実験室に入ると、何匹かの個体が動かなくなっていた。


 通気孔を抜ける空気の唸り。

 錬金術の炎が手元を照らすなか、ケージの蓋を開け、ネズミを一匹取り出す。

 観察をしてから、いったん戻し、作業台に器具を並べた。


 解剖。

 小さな身体を丁寧に開き、一つひとつ臓器を取り出して確認していく。


 息を吐き、すべてを別の小さな箱に収めた。


「寿命だったみたいだ。

 ――つまり、成功したんだ」


 器具を拭き、片付ける。


 手袋を替え、同じ処置を施したはずの、まだ元気な個体を見る。

 取り出し、腹部を確認する。

 手術痕は残っているが、ほとんど綺麗に治癒していた。


 その個体は、小型の溶鉱炉へ入れた。


 ――“失敗した個体”。

 すなわち、錬金術による人造個体。


 繰り返される実験。

 苦しみを与え続けるくらいなら、灰になるまで燃やす。

 しっかりと燃やしてしまえば、いかに恒常性の強い人造個体であっても、身体そのものを失う。

 それは、すでに分かっていることだった。


 アウレリウスは、しばらくそれを眺めていた。


 やがて片付けを終え、手を洗い、部屋を出る。

 手には、先ほどの小さな箱。


 階段を上り、裏口から外へ出た。

 緑の庭園の端。

 背の高い木々がまとまって植えられ、深い木陰を作っている。


 低木の根元には、隠すようにシャベルが突き刺されたままだ。

 それを取り、穴を掘る。

 ネズミの遺体が入った箱を、そこへ埋めた。


 屈んだまま、アウレリウスは一度、瞳を伏せる。


 ここには、いくつもの“成功個体”が眠っている。


 それでも、これまで扱ってきた総個体数に比べれば、圧倒的に少ない。

 だが最近、ようやく、その数が増え始めていた。


 人造個体に“老化”を与えるため、 アウレリウスなりに、ひとつの理論には辿り着いている。


 あとは、それをどう具体化するか――今は、その段階だった。


 外科的手術による成功例はいくつかある。 

 だが、成功率は高いとは言えない。


 それを自分の身体に施すことを考えると、現実的とは、とても言えなかった。


 成功率の問題だけではない。

 埋め込む臓器は、何でもいいわけではないのだ。

 アウレリウスの身体に適合する内臓を持つ個体など、おそらく――セティしかいない。


 ――セティの身体を刻むなんて、できるわけがない。


 だが、外科的手法以外でも、老化を示した個体は存在した。

 成功率は高く、リスクも比較的低い。


「でも……それは……」


 息を吐く。


 ――それでも、僕には“現実的”だとは思えない。


 立ち上がり、シャベルを元の位置に戻す。柔らかな風が髪を揺らした。


 甘い湖の匂い。

 葉擦れの音。

 ここからは、霧に包まれた王都も、

 遠い峰々も見渡せる。


 ――世界は、今日も綺麗だ。


 たとえ僕たちが壊れてしまっても、

 世界は、変わらず美しいままなのだろう。



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