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グレイブハル城の観測者  作者: かも ねぎ
拾遺 第七章『終わりを選べない日々』
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拾遺7-2 静かな反復


 夜半。

 明かりを落とした部屋に、月光だけが静かに満ちていた。


 アウレリウスは目を覚まし、隣のベッドを見る。

 セティは、規則正しい寝息を立てて眠っている。


 起き上がり、燭台を手に取って部屋を出た。




 地下の廊下には、闇だけが横たわっていた。

 鍵を開け、実験室へ入る。


 扉を開けた途端、むっとする獣臭が鼻を突いた。

 換気孔はきちんと機能しているが、こればかりはどうしようもない。


 奥の作業台に燭台を置き、目当てのケージを棚から取り出す。

 白いネズミは中を行き来し、落ち着きなく走り回っていた。


 蓋を開け、取り出す。


「昼間は拒絶反応を起こしていたけど……どうかな」


 腹部を観察する。


「……戻ってしまったか」


 脇に置いてあった小型溶鉱炉の温度を確かめ、蓋を開ける。

 その個体を、中へ落とした。


 作業台を布巾で一度、淡々と拭く。


 作業用キャビネットからナイフを取り出し、自分の指先を傷つけた。


 ぽつり、と血が滲む。

 その指で、作業台に直接陣を描く。

 描き終えると、布で指先を拭った。


 棚から材料を取り出し、陣の上に並べる。

 燭台を使って火を放つ。


 血は、すでにほとんど止まっている。

 もう一度刃を当て、青白い炎の中へ、自分の血を垂らした。


 炎は一瞬強く燃え上がり、すぐに収束する。

 台の上には、白い小さなネズミ。

 逃さぬよう掴み上げ、観察する。


「……何匹くらい、必要かな。

 だいぶ、減らしちゃったからな」


 淡々とケージに入れる。

 その作業を、何度か繰り返した。


 いくつかケージが揃うと、棚から血液の入った試験管を取り出す。


 注射器に移し、ネズミを一匹取り出す。

 尾から、血液を注入する。


 ケージに戻し、そのまま様子を見る。

 痙攣が走るが、やがて治まった。


 再び取り出し、足に小さな傷をつける。

 傷は、みるみるうちに塞がっていく。


「……やっぱり、この方法じゃだめだ」


 ノートを開き、記録を取る。


 他の個体も順に観察し、ひとつずつ、書き留めていった。


 片付けを済ませ、手を洗い、部屋を出る。




 私室には、まだ月光が白く落ちていた。

 セティのシーツを、淡い光が覆っている。


 彼のベッドの脇に立ち、眠る前髪にそっと触れた。

 腰をかがめ、額にキスを落とす。


 衣擦れの音だけが、部屋に残る。


 ちらりと、自分の指先を見る。

 傷は、もう塞がっていた。


 アウレリウスもベッドに潜り、眠りにつく。


 静かな寝息。

 こうして、彼の一日が――やっと、終わる。


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