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グレイブハル城の観測者  作者: かも ねぎ
拾遺 第七章『終わりを選べない日々』
127/160

拾遺7-1 回廊と地下のあいだ


 王都オルドンからほど近い、湖のほとりに建つ――グレイブハル城。


 風光明媚なこの城は、いつしか観光名所として知られるようになった。


 美しく、

 静かで、

 それでいて、どこか不思議な場所として。


 この城を守るのは、

 錬金術によって生み出された二体の――ホムンクルス。


 絶世の美貌を持つ青年、アウレリウス。

 そして、彼の手によって生まれた少年、セティ。


 その誕生に祝福があったのか。

 それとも――


 それを知る者は、誰もいない。

 世界から弾かれたこの城に封じられた、

 厳かな秘密である。


 ◇


 並んだ高窓の形になって、床に光が落ちていた。

 空は高く、青く澄んでいる。


 回廊を歩いていると、向こうからセティも歩いてくるところだった。


 すれ違いざま、アウレリウスが手を差し出す。

 セティは一瞬だけ視線を落とし、それから、そっとその手に自分の手を重ねた。


 ふっと、柔らかく微笑み合う。

 指を絡め、そして、何事もなかったように離れる。


 しばらく歩いてから、アウレリウスは振り返った。


 セティはもう回廊を渡りきり、向こうの階段を降りようとしているところだった。


 その背を、静かに見送る。


 そして、アウレリウスもまた歩き出した。




 向かったのは、地下の部屋だった。


 ポケットから鍵を取り出し、扉を開ける。

 鋼の扉が、軋む音を立てて開く。


 換気孔から、かすかな唸りが漏れていた。


 部屋に入ると、後ろ手に扉を閉め、鍵をかける。


 鳴き声。


 奥へ進み、作業台の上の燭台を軽く叩く。

 白い火が灯る。燭台の縁には、黒鉛で描かれた陣――錬金術の炎。


 燭台を持ち上げ、部屋を見渡す。


 広くはない部屋だ。

 壁際の棚には、木製の檻のような箱がいくつも並んでいる。

 中では、小さな白い生き物たちが、好き勝手に走り回っていた。


 棚からいくつか箱を取り出し、作業台に並べる。

 作業用キャビネットから、インク壺とペン、ノートも出した。


 箱の蓋を開け、一匹のネズミを取り出す。

 片手で固定し、腹部や口腔内を確かめる。


「……拒絶反応を起こしてる」


 ネズミを箱に戻し、蓋を閉めた。


「失敗かな。どうだろう。

 ……もう少し、様子を見よう」


 ノートに記録を取る。

 別のケージを覗き込む。


「……繁殖はできる。

 でも、通常個体より数が少ないんだよね。やっぱり」


 ネズミを取り出し、膨らんだ腹に触れる。

 戻す。

 別のケージを開け、別個体から生まれた子の数を数える。

 ノートに、淡々と書き留める。


 水を替え、敷いていた干し草を新しいものに交換する。

 ケージ一つ一つ、ネズミ一匹一匹。


 世話を終え、最後に文具類を片付けた。

 石鹸を使って、丁寧に手を洗う。

 燭台に触れ、錬金術で生じた火を消した。


 薄暗い部屋。

 ネズミの鳴き声。

 細い空気の流れる音。


 ブーツが石床を叩く、かすかな音。


 扉が開く。


 外の明かりに、わずかに目を細めた。



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