拾遺7-1 回廊と地下のあいだ
王都オルドンからほど近い、湖のほとりに建つ――グレイブハル城。
風光明媚なこの城は、いつしか観光名所として知られるようになった。
美しく、
静かで、
それでいて、どこか不思議な場所として。
この城を守るのは、
錬金術によって生み出された二体の――ホムンクルス。
絶世の美貌を持つ青年、アウレリウス。
そして、彼の手によって生まれた少年、セティ。
その誕生に祝福があったのか。
それとも――
それを知る者は、誰もいない。
世界から弾かれたこの城に封じられた、
厳かな秘密である。
◇
並んだ高窓の形になって、床に光が落ちていた。
空は高く、青く澄んでいる。
回廊を歩いていると、向こうからセティも歩いてくるところだった。
すれ違いざま、アウレリウスが手を差し出す。
セティは一瞬だけ視線を落とし、それから、そっとその手に自分の手を重ねた。
ふっと、柔らかく微笑み合う。
指を絡め、そして、何事もなかったように離れる。
しばらく歩いてから、アウレリウスは振り返った。
セティはもう回廊を渡りきり、向こうの階段を降りようとしているところだった。
その背を、静かに見送る。
そして、アウレリウスもまた歩き出した。
向かったのは、地下の部屋だった。
ポケットから鍵を取り出し、扉を開ける。
鋼の扉が、軋む音を立てて開く。
換気孔から、かすかな唸りが漏れていた。
部屋に入ると、後ろ手に扉を閉め、鍵をかける。
鳴き声。
奥へ進み、作業台の上の燭台を軽く叩く。
白い火が灯る。燭台の縁には、黒鉛で描かれた陣――錬金術の炎。
燭台を持ち上げ、部屋を見渡す。
広くはない部屋だ。
壁際の棚には、木製の檻のような箱がいくつも並んでいる。
中では、小さな白い生き物たちが、好き勝手に走り回っていた。
棚からいくつか箱を取り出し、作業台に並べる。
作業用キャビネットから、インク壺とペン、ノートも出した。
箱の蓋を開け、一匹のネズミを取り出す。
片手で固定し、腹部や口腔内を確かめる。
「……拒絶反応を起こしてる」
ネズミを箱に戻し、蓋を閉めた。
「失敗かな。どうだろう。
……もう少し、様子を見よう」
ノートに記録を取る。
別のケージを覗き込む。
「……繁殖はできる。
でも、通常個体より数が少ないんだよね。やっぱり」
ネズミを取り出し、膨らんだ腹に触れる。
戻す。
別のケージを開け、別個体から生まれた子の数を数える。
ノートに、淡々と書き留める。
水を替え、敷いていた干し草を新しいものに交換する。
ケージ一つ一つ、ネズミ一匹一匹。
世話を終え、最後に文具類を片付けた。
石鹸を使って、丁寧に手を洗う。
燭台に触れ、錬金術で生じた火を消した。
薄暗い部屋。
ネズミの鳴き声。
細い空気の流れる音。
ブーツが石床を叩く、かすかな音。
扉が開く。
外の明かりに、わずかに目を細めた。




