拾遺4-5 『燃え尽きた記録』最終話
本のページが、静かに閉じられる。
締め切られた暗い部屋。
黴の臭いが沈殿し、光の一筋さえ差し込まない。
やがて、小さな赤い火が手記にともる。
それは本から本へ、家具から家具へと燃え移り、
次第に勢いを増していく。
壁が燃え、柱が倒れる。
やがて屋根が落ち、すべてが炎に包まれた。
雨。
しとしとと降る雨が、火を鎮める。
雨は、長く降り続いた。
翌朝。
郊外の邸宅は、全焼した状態で発見される。
◇
グレイブハル城、受付室の小窓の前。
アウレリウスは机に向かい、新聞を開いていた。
「家が発火だって。怖いね」
ソファで本を読んでいたセティが、顔を上げる。
「……原因は分かっているんですか?」
「調査中だって。“自然発火じゃないか”って書いてある」
「……そうなんですね」
アウレリウスは新聞をたたみ、席を立つと、セティの隣に腰を下ろした。
「ねぇ、セティ。
それよりさ、そろそろまた仕立てに行こうと思うんだけど」
セティは、膝の上の本から視線を上げない。
「そうですか?」
「セティの服を、もう少し華やかなものに――」
「嫌です」
即答だった。
アウレリウスは、わずかに苦く笑う。
「……そっか。
でも、少し傷んできたから。そろそろ行こうね」
「はい」
柔らかな陽の光が、部屋を包み込んでいる。
――彼らが、あの手記の存在を知る日は、
永遠に訪れない。
◇
湖畔に建つ、グレイヴハル城。
静かで、美しく、
どこか不思議なこの城は、
月と、輪を持つ星の影に佇んでいる。
創造神オルドが世界を組み、
太陽神ソラエがそれを見つめる、
その只中で。
息を潜め、
語られぬ秘密を抱いたまま。
ホムンクルスである二人は、
この城で、今日も静かに暮らしている。
誰に知られずとも、
それでも――世界は、続いていく。




