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【10.9万PV 感謝!】日輪の半龍人  作者: 倉田 創藍
武芸者編ノ參  叛逆騎士と水竜編

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7話 募る想い、果たされる告白(虹耀暦1286年12月:アルクス14歳)

2023/10/10 連載開始致しました。


初投稿になりますのでゆるく読んで頂ければありがたい限りです。


なにとぞよろしくお願い致します。

 アルクスは全体的に白っぽい空間にいた。魂の内面世界。いつもの場所。見回してみれば、お目当ての人物はすぐに見つかった。


 TV前のソファでだらしなく横になっている黒目黒髪の男性。アルにとって馴染み深い見た目の20代後半。前世の己――長月だ。


「よぉ~兄弟、お前もマメだねぇ。ここに来るのは半年に一回くらいでも良いんじゃねーか?」


「親戚の集まりみたいだな」


 アルが苦笑すると長月もニヒルな笑みを浮かべる。


「似たようなもんだろ? おまけにお前の体験したことはお前の目ぇ通して全部知ってんだから、尚の事話すことなんざねーだろうよ」


「そりゃま、そうなんだけどさ」


「しっかし八岐大蛇(やまたのおろち)が実在したとはなぁ」


 体勢こそダラけ切っている長月だが、実に楽しそうだ。とはいうものの、その意見にはアルも否やはない。


 そもそも同じ魂から生まれた別人格である。根本的な感じ方は似たようなものだろう。


「いや、十叉大水蛇(とおまたのおおみずち)だって」


「まだ(とお)じゃなかったろ? 前世(こっち)じゃ神話の世界にしかいなかった伝説の生物だぜ? おまけに手の付けらんない暴れん坊じゃなくてちゃんと触れ合える。何ならお利口さんな部類だろ? 初めてお前を羨ましいと思ったよ」


 長月にとってみれば、やはり”八岐大蛇”の方が馴染み深い響きだ。


「ボッコボコにされたけどね」


 ――勝とうなんて考えなくて良かった。


 今頃になってアルは胸を撫で下ろす。


「あぁ~、そういやそうだった。って考えると、やっぱここで見てんのが大正解だな……いやしかしまさか洪水の化身とか言われてた伝承の生物を見れるなんてなぁ」


 眠たげに開かれた長月の瞳は、〈隠れ里(こきょう)〉の幼子らのような純粋な光を宿していた。よほど興奮したらしい。


「楽しそうだな」


 子供のような大人とはきっとこういう感じなのだろう、とアルは思う。


「あんなの見て心躍らねえ男はいねえ。だろ? 浪漫だよ、浪漫」


 長月が左眼だけを向けてそう言った。この男はやはり己の前世で間違いないのだろう。アルも全く以て同意見だ。


「はは、わからん話じゃないね。けど気になることがあってさ」


「あの罰当たり共の狙いか? 売っ払うにしても足が付きそうなもんだよなぁ」


 長月の言う通り、仮令(たとえ)あそこまで大掛かりな犯罪を何とかやり(おお)せたとしても、すぐに明るみになるはずだ。


「うん、そこだよ。たぶん〈ドラッヘンクヴェーレ〉の(みずち)って有名だと思うんだ」


「ま、そうじゃねーの? あの爺さん、観光にも力入れてたっぽいしな。村にしちゃ施設も整ってたし。景観は崩さないっつうポリシーがあるっぺえが、それが余計上手く嵌まってるパターンだろうよ」


「だろ? けどアイツらは蛟を()()()()()としてた。ってことはやっぱり()()()――そういう闇取引みたいなのがあるってことなんじゃないかって。 どう思う?」


「そらあるだろうさ。俺のいた世界(こっち)よか多いと思っといて良いんじゃねーの?」


 アルが難しい顔で問うと、長月は肩を竦めてよいしょっと身を起こした。


 何と言っても国の管理体系が違う。日本のように国の中に自然がある、という見方が出来ない。


 国と地域がもっと切り離されている。情報伝達だって魔導列車とやらのおかげで遅過ぎはしないものの、前世のように一瞬でとはいかない。


 そんな()()に無数の犯罪組織が潜んでいるとしても不思議はない。


 それこそ特殊詐欺グループのような情報を利用する類の輩は少ないのかもしれないが、武力に訴える連中は前世よりむしろ圧倒的に多くて然るべきだ。


「だよねぇ。帝国や王国は安定してるって聞いてたけど、ヤバい連中ってどこにでもいるんだなぁ」


 アルがしみじみとした様子で言うと、


「いるさそりゃ、あぶれる連中はどこにでも。あのイカした兄ちゃん達やお前の叔父さんは、人間の中でも相当上等な部類だと思うぜ? 皆があんなふうだと思ってんなら認識を改めな。足元掬われちまってからじゃ遅えぞ」


 雑な口調の忠告が飛んできた。


「うん。肝に銘じとくよ」


 こうやって警鐘を鳴らしてくれるのが長月という男だ。アルは素直に頷く。


「それにだ、兄弟。お前すっかり忘れてるだろ。あの~……餓狼っつったか? あの痩せ狼共、隣で同類がバタバタ死んでってるのに、怯えも竦みもしなかったんだぜ? お前らの知らねー何らかの()()()があったと見ていいだろ」


 その指摘にハッとする。


「こないだの”誘引剤”とか言うやつと似たものが使われてたのかな?」


 師匠譲りの癖でアルが顎を擦っていると、


「主成分が麻薬ってやつか? どうだろうな。誘導してたっつう可能性自体なら高いだろうけどよ、村の周りは人気(ひとけ)のない雪っ原か森だろ? 俺ならそんなとこ潜んで痩せ狼操る気にゃなれんね」


 長月はポケットから電子タバコを出しながら冷静に意見した。


「だとしたら屋内? いや、最初から村に居て指示を出してたとか……あっ! あの行商人!」


「ふぅ――っ……ま、野郎が臭いことに違いはねえ。だがお前の言った”誘引剤”ってのを、ぶってぇ柵がある村んなかとはいえ、持ち歩くのはちっと危険過ぎやしねーか? お前の知識によれば餓狼って魔獣は鼻が良いんだろ? そこまでの密閉技術があるかは知らんが、あの連中が持ってるとも思えねえぞ」


 水蒸気を吐き出しながらビッと指を差す前世の己。確かに人基準の密閉技術で獣の鼻を騙せるとも思えない。アルは難しい顔で唸った。


「うーん。寝ちゃったからアイツがどうなったかもわかんないしなぁ」


「ま、とりあえず起きてからだろ。お前は八岐大蛇に掛かりっきりだったし」


 これ以上は余計な推測になりかねない。偏見は捨てるべきだ。


「蛟だって。そうだなぁ。後は起きてから情報収集ってとこだね」


 そう言ってアルが立ち上がると、


「おう。話し合いが必要になったらまた来な」


 片目を閉じたまま長月が手をゆるく振る。


「じゃ、また」


 アルはこくっと頷いて意識を浮上させた。それに伴って身体が浮き上がっていく。


 すぐに部屋と同じく白い天井に呑み込まれ――――……。



 ◇ ◆ ◇



 目を覚ました。辺りはまだ少し暗い。なんだかあたたかいし、落ち着く良い匂いもする。掛け毛布と身体が溶け合うような心地良さだ。


 抗い難い二度寝の誘惑を堪えてアルは左眼をグッと見開き……。



「ぃ……!?」


 すぐさま息を呑む。危うく声が漏れそうになった。


 なぜならすぐ隣の布団というか毛皮で、見知った少女がすぅすぅと寝息を立てていたからだ。あどけない寝顔のラウラである。


(ビックリしたぁ……ていうか、ここどこ?)


 強制的に意識を叩き起こされたアルは天井に目をやって、それが壁でないことに気付いた。


(幌馬車の荷台……?)


 よくよく感触を確かめると、下に敷いてある毛皮も何やら妙に上等だ。


「……ぇ?」


 そこで更にふと違和感に気付いた。毛布が掛かっていると思っていたが妙に腹のところで膨らんでいるし、毛布にしては重過ぎる。


 おそるおそる毛布の左端を捲ると、シルフィエーラがアルの胴へ絡みつくようにして眠っていた。


 腕は腰に回されアルの胸板に頭を置いている。乳白色の金髪と、細身ながら柔らかく力の入っていない体、くぅくぅと静かな息を立てる無邪気な寝顔に、アルの心臓が大きく跳ねた。


「んぅ~……」


 毛布を捲られて寒かったのか、エーラが更にぎゅう~っとしがみついてくる。


「っ!?」


 その声は普段が天真爛漫な分、やたらと艶めかしい響きを伴っていた。


 理性を総動員して意識を別のことに向けたアルは、ようやく己の身体に包帯が巻かれていることに気付いた。


 どうやら寝ている間に手当てされたらしい。癒薬帯の匂いもしている。


 だが、今のでハッキリとわかってしまった。


 溶け合うような心地良さを感じさせていたのは、毛布なんかじゃない。彼女()だ。


 そう、全身に感じていた心地良さ。エーラだけでは右半身に説明がつかない。ゆっくりと首を右に巡らすと、


「ぅ、ぉ……!?」


 覆われた右眼のせいで気付かなかったが、彼女が一番わかりやすい場所にいた。凛華だ。


 アルの首に両腕を回し、右側から覆い被さるように眠っている。意識すれば静かな寝息も聴こえてきた。思わず視界に入った光景を凝視してしまう。


 綺麗な顔で気持ち良さそうに瞼を閉じる彼女と、押し付けられて形を変えた胸の柔らかい感触と、薄っすらと覗く谷間に半ば呆然としてしまった。


(凛華って、結構胸が――)


「んっ……」


「っ!?」


 鬼娘の甘い声で視線を釘づけにされていたアルはハッとする。


 ――このままじゃマズい、色々と。


 そのまま囲まれて寝ていたいという名残惜しさを、アルは鋼の理性でブン殴ってゆっくりと動き出した。



 ~・~・~・~



 然ながら奸計のようだった。


 何とか身を捩り、腕を差し入れて枕代わりになりそうなものを首の下に宛てがってやったり、起こさぬよう体勢を変えて毛布を掛け直してやったりと、散々悪戦苦闘して抜け出したアルは膝をついて「はぁぁぁぁ~~~……」と大きく息をついた。


「……心臓に悪い」


 目を凝らすと端の方でマルクガルムがすかーっと眠っていて、ソーニャは少女ら3人とマルクの中間くらいの位置で穏やかな寝息を立てている。


(俺も端に転がしてくれれば良かったのに、マルクめ)


 理不尽にも親友へ怨嗟の念を送りながら、アルは置いてあった龍鱗布と装備を静かに身に着けた。幸い派手に音の鳴るようなものもない。


 両閉じになっていた天幕の紐を解き、幌の隙間からそろ~っと抜け出す。


「脱出成功。蛟と戦うより大変だった」


 なにせ抗わないという選択肢、抗いたくない自身の欲求があまりに強烈過ぎて、結局己との闘いになってしまった。自分でも驚くほど歯を食い縛っていた気がする。


 ――いつか、闘わなくていい日が来るといいけど。


 アルは胸中でそんな風にケリをつけると、雪が薄っすらと舞い散る朝の〈ドラッヘンクヴェーレ〉を歩き出した。



 ~・~・~・~



 時刻はおよそ8時前。帝国の冬は南部でも日の出が遅い。まだ少し暗い道を歩いて広場の方へ出向くと、『黒鉄の旋風』所属の双子ヨハンとエマがいた。


「おはようございます」


「お、アルクス。おはよう、早いね」


「おはよーさん。他の連中はどうした?」


 アルが挨拶すると双子も挨拶を返してくる。よくよく見るとそれほど似ていない。


「まだ寝てますよ。そう言うお二人も早いみたいですけど」


「いんや、俺らはこれから寝直すのさ」


 その返答に、アルはキョトンと首を傾げた。


「寝直す? もしかして、見張りやってくれてたんですか? 起こしてくれて良かったのに」


 気を使わせたか、と申し訳ない顔をすればヨハンは手を振って否定する。


「いや、違う違う。見張りは村の人達がやってくれたよ。ついでに〈ウィルデリッタルト〉までの伝令もな」


 武芸者達の活躍に対し、どうやら〈ドラッヘンクヴェーレ〉の住民達は誠意で応えてくれたらしい。


「そうしたら領軍が大急ぎで何人か連れて来てくれたんだよ、囚人護送車に乗ってね。で、私らは昨日捕えたアイツの引き渡しもあって起こされたんだけど、意外と時間食っちゃったんだよ」


 エマはそう言って、今まさに護送車に押し込まれている男を指差した。アルはそちらを見て「なるほど」と納得する。


「やっぱりあの行商人、この件に噛んでたんですね」


「おう、アイツが餓狼使いの一人だったみたいだぜ」


 ヨハンは首をコキコキ鳴らしながら、男の役割を述べた。


「どうやって操ってたんです? っていうか案の定、複数人いたんですね」


「あれだけの数いたからなぁ」


「指示はね、えぇと……あっ、あれだよ。あの兵士の持ってる黒いの。あの笛で指示を出してたみたい。私らが踏み込んだ時も必死に吹いてたからね」


 魂の内面世界でも話題に上がっていた餓狼の操り方にアルが興味を示すと、エマが兵士の手にぶら下がっている黒っぽい笛を指さして答えてくれる。


「あれって……犬笛? ですか?」


「たぶんね。餓狼笛かな? 正確に言えば」


「よく笛だけで気付けましたね」


 まさか餓狼使い本人と、その証拠品まで押さえているとは。アルは素直に先輩武芸者の洞察力を感嘆する。


「実家の近くに牧場があってな、牧羊犬飼ってたのさ。そこの爺さんが声で呼ぶのしんどいからって、よくこんな感じの笛使ってたんだよ。俺らにゃあ聞こえねーけど、犬や狼の耳には聴こえるってやつ」


「だから聞いてみたんだよ。『餓狼は呼べた?』って。そしたら慌てて剣向けてきてね。まぁ、腕の方は大したことなかったから良かったんだけど」


 ヨハンとエマが揃って大したことじゃない、と照れ臭そうに笑う。


 当人達はこの通り「偶然だ」とか「偶々だ」と言い、自分達は地味だと思っているが、こういった記憶や思い出を頼りに咄嗟の判断を下せるのは有能な証だ。


 ゆえに仲間達からの信頼も厚い。


 『黒鉄の旋風』頭目であるレーゲン曰く、「戦闘以外大して役に立たない俺よか、よっぽど経験豊富な武芸者」だそうだ。残念なことに彼らは知らないが。


「そうだったんですか。あ、残りの餓狼使いってどうなったか知ってますか?」


 複数人いたと言っていたがどうなったのだろうか?と思ってアルが聞くと、


「あの偽商人に聞いた限りだと二人は死んで、一人は逃げてるらしいぜ。死体と顔突き合わせてやったらペラペラ喋ってくれた」


 ヨハンが事も無げに返す。


「えぐぅ~」


「取り押さえるとき以外暴力に訴えてないだけマシってもんさ」


「え? あれ? じゃあボコボコにされてたのは?」


 アルは疑問符を浮かべた。見たところ服もボロボロになっていたし、頬と眼に青痣もあった気がする。


「そっちは住民達からだよ。どうも盗品を売り捌いてたらしくてね」


 どうやら他の()()で手に入れたものを住民達に売りつけていたらしい。


「ああ、それで。納得です。相当酷い連中の集まりみたいですね」


 余罪もたくさん出てくるのだろう。


「”叛逆騎士”ハインリヒ・エッカートの手下だからな」


「その”叛逆騎士”ってのは何なんです?」


 アルは当然知らない。個人三等級のレーゲンとハンナが手子摺(てこず)っていたので厄介な敵なのだろうと認識していたが、帝国の犯罪者に明るいわけではない。


 詳しく聞こうとすると、


「アルクス達は知らないでも当たり前――ふわぁ~、だよ。ま、簡単に言うと凶悪犯だね。詳しいことはレーゲンにでも聞いてくれれば教えてくれるよ。説明したいけど、さすがに眠くってね」


「俺も寝たいぜ。つーわけで、すまんアルクス。レーゲンに聞いてくれ」


 大欠伸をしながら双子は謝った。


 今の今まで下手人の引き渡し作業をやっていたのだ、と失念していたアルが慌てて謝る。


「あ。ごめんなさい、つい。おやすみなさい」

 

 思考中の問題や事柄についてすぐ議論したがるのは悪い癖だと自覚はしているのだが、なかなか直らない。


「はは、いいっていいって。そんじゃ、おやすみな」


「おやすみアルクス~」


 ヨハンとエマがそれぞれ後輩の肩を軽く叩いて歩き去っていく。アルはその背にもう一度「おやすみなさい」と声を掛けるのだった。



 ~・~・~・~



 双子を見送ってそう時間も経たぬ頃に『黒鉄の旋風』の頭目レーゲンが一人でやって来た。


 まだ眠そうな顔で護送車とテキパキ働く兵士達を見ながら、昨夜の顛末を語る――。


 アルが寝てしまった後のことだ。馬車の荷台に天幕を張って眠ることにしたのだが、村の纏め役とひと悶着あったらしい。といっても悪い方の揉め事ではない。


 纏め役夫妻と住民らが「恩人を馬車の荷台で休ませるなんて!」と被害の少ない宿の部屋を使うよう勧めてきたそうなのだ。


 レーゲンが「放火で家を失くした者もいるのに、そんな厚かましい真似ができるか!」と突っぱねるも向こうも引き下がらず、そのまま折衝が始まったらしい。


 最終的に、やってきた馬車の荷台とほぼ同質の荷台をもう一台借りて、各々の一党がその中で休むということで交渉は纏まり、また冬場だということで都市や街に卸す為に猟師らが拵えていた毛皮を貰い受けることになったそうな。


 話を聞き終えたアルは真っ先に頭を下げた。


「すいません。俺も起きとくべきでした」


「蛟とやり合って平然としてたら化け物だっての。それにああいった折衝は臨時頭目の仕事だ。気にすんな」


 レーゲンが後輩の黎い髪を撫でるように叩いてニッと笑う。幾分か昨夜の疲れも抜けているのか、やんちゃな笑顔だ。


「お前も人の子だって知れて良かったぜ」


「失礼な。何だと思ってたんですか?」


 顔を上げたアルは憮然としていた。


「聖国の騎士連中がブッ放した大規模魔術を片手で払いのける化け物」


「やりましたけど、あれは相性が良かっただけなんですって」


 食事に行った際などちょくちょくネタにされる話だ。アルの返しも決まっている。


「あれが水属性だったら?」


「蒸発させてました」


「そういうとこだよ」


「しょうがないじゃないですか。魔力鍛えてるんですから」


 ぶぅぶぅ不平を垂れるアルにレーゲンは一頻り笑い声を上げた。


「ぷはははは! わーったわーった。そういや昨日――いやもう今日に入ってたな。 お前らの荷台の方、嬢ちゃん達そこそこ騒がしかったぜ。寝る場所がどうのってよ」


 思い出したようにレーゲンが言えば、途端にアルはげんなりとした顔を見せる。


「あの心臓に悪い並び、話し合ってあれだったのか……」


「心臓に悪い? はっはぁ~ん、こーの幸せ(もん)め」


 察した先輩武芸者が揶揄ってくるが、当のアルからすれば生殺しのようなものだ。


「幸せになれる人はいいですよね」


 返答自体にトゲはない。が、レーゲンは何かを思い出してハッとした。


「お前があの子達に応えない理由って昨日のアレか? あのドス黒い闘気」


「そんなとこです」


 己の置かれている状況をしっかり受け止めているアルが気にした風もなく返す。彼女らの気持ちにも、気付いていないわけではない。


 しかし、彼女らが隠れ里を出る際にした決意宣言を知っているというわけでもないので、その想いの強さや深さは知らないし、想像もついていない。


 おまけに前世の記憶を追体験しているせいで『そうは言っても子供の頃から親しい相手と結ばれるなんてそうそうないよな』なんて考えていたりする。


 彼女らにそんな話をすれば、ボコボコにされること必至だろう。


「不謹慎なこと言ったらしいな」


「気にしちゃいませんよ、不甲斐ない俺が悪いだけですし」


 レーゲンは謝罪したが、当のアルは気にしていなさそうだ。


「そう、か……ヤバい闘気なのはわかるが、何とかなんねぇのか?」


 というより何とかしてやりたい。


 気付けば年の離れた弟妹のように感じている後輩武芸者へそう訊ねると、


「した結果がコレですよ」


 アルは左手を胸に翳して『八針封刻紋』を軽く浮かび上がらせた。この封印術式を開発してから2年は経ったが、現状でもこれが最善手(ベスト)。それは変わっていない。


「封印してる意味がわかったよ。お前の闘気にしちゃ物騒過ぎた。殺意の塊みてえだったからな」


 レーゲンが幻視したドス黒い闘気の翼。あれは不幸しか呼ばないだろう。


「いずれ何とかしてみせますよ。それよりそっちはどうだったんです? しおらしいハンナさんと甘い夜は過ごせましたか?」


 アルはパパッと自分の話題を蹴り飛ばし、意趣返しも込めた返答を先輩武芸者に投げかけた。


「甘い夜っておま、いや、それは~……その、な? いろいろ忙しかったし、ほら、えぇと」


 しかし、レーゲンは言葉を濁す。濁しまくる。


「まさか、過ごさなかったんですか? あんなにそれっぽい雰囲気出してくれてたのに?」


 思わずアルは半眼を向けた。どう見ても最高のチャンスだったじゃん、と。


「う……いや、俺もその、頑張ろうかなっ、とは思ったんだけどよ……疲れてるとこにそんな話するのも迷惑じゃねーかなとかさ、色々思いやってだな」


「意気地なし」


 言い訳を重ねるレーゲンが後輩の端的な罵倒にバッサリ切られた。視線もグサグサと刺さる。


「ぐっ、わ、わかったから。じゃあ今日、今日告白するって。マジだから! だからその蔑んだような目ぇやめろよ!」


 レーゲンがそう言った途端、アルは左目を輝かせる。


「今日! ホントですか!?」


「てんめっ! 露骨に楽しそうにしやがって!」


 対照的にレーゲンは苦い顔になった。


「武芸者に――」


「二言なしだろ!? わかったよ! やってやんよ!」


 レーゲンは後輩の台詞を引き取り、半ばヤケクソにそう言った。


 ――もう、この際だ……!


 この調子で武芸都市に戻ったら、どうせ決意が鈍って何もできない。


 ――後輩に乗せられたことにしよう、そうしよう。それがいい。それしかない。


 もうどうにでもなれ、と肚を括る。


「楽しみですね」


 当の後押ししてきた後輩はニコニコと黒い笑みを浮かべていた。


「なんちゅうガキだ」


 ――無駄に整った笑顔がムカつく。


 レーゲンは依頼も片付けたというのに、胃をキリキリと圧迫する緊張感に身を強張らせるのであった。



 * * *



 それから2人が暇だからということで住民の遠慮を押し切って村の復興作業を手伝っている内に、他の面々も起き出してきた。


 比較的緩やかでバラバラの起床時間だが、昨日の今日で文句を言うほど両頭目とも狭量ではない。


 正午を回ると早く起きざるを得なかった双子も起きてきて全員が揃い、広場にいた住民達が大鍋で作った料理をありがたくお裾分けしてもらうことで昼食の時間と相成った。


 広い野外に集団での食事。


 誰かの家や家族付き合いで一緒に食事を摂る習慣があった隠れ里の魔族組4人にはなんとなく懐かしく、ラウラとソーニャはあまり体験したことはないが寒さも気にならないほど暖かで楽しい時間となるのであった。


 そして現在。


 そろそろ〈ウィルデリッタルト〉へ帰還しよう、と二党がそんな話をしていると、決意を固め過ぎてほんのり目を血走らせたレーゲンが同一党内の副頭目ハンナを連れ出した。


 あまりに落ち着かない彼にハンナは一瞬怪訝な顔をしたのだが、「都市に戻る前に蛟でも見に行かないか?」という提案自体は何ら変哲もない誘いだ。不思議そうな顔をして着いていく。


 昨日、露天風呂での会話を森人2人から通訳してもらったことなどすっかり忘れているあたり、彼女も大概だ。


 あるいはその後に起こった襲撃の衝撃が強過ぎただけかもしれない。



 静かな湖面――不忍大沼(しのばずのおおぬま)を眺めていたハンナがぼんやりと口を開く。


「蛟、いないわねえ。怪我治してるのかしら?」


「怪我ならアルクスが『治癒』使ってたから大してないと思うぜ」


 キョロキョロと暗い金髪を振って蛟の姿を探す彼女へ、レーゲンがやや早口で応えた。


「そうだったの?」


「おう、魔力がかなり籠ってたぜ。蛟の傷もすぐに治り始めたからな」


 そうなんだー、とあくまで自然体の彼女に、レーゲンも「まずは当たり障りないところから」と大いに日和る。


「そのあと結局、疲れて寝ちゃったんでしょ?」


「全身ズタボロだったらしいからな」


 いつもの雰囲気だ。このままではよろしくない。なぁなぁになりそうな雰囲気をどうにかすべく、レーゲンは目まぐるしく思考する。



 それを物陰から見ていたアルを初めとした”鬼火”の一党と『黒鉄の旋風』の残り4名。


「俺のこととかどうでもいいんだって!」


「煮え切らないわね」


「キュンキュンする~」


「目が離せませんね」


 アルの背中から顔を覗かせている凛華、エーラ、ラウラにマルクが半眼でツッコむ。


「お前ら趣味悪くねぇ?」


「マルクもいるではないか。他人のことは言えんぞ」


 ソーニャが鋭くツッコみ返すと、


「そう言うお前はどうなんだよ?」


 マルクも即座に問い返した。


「私は義姉(あね)に同じだ」


 気にならぬはずがない。目が離せるわけもなし。騎士胸甲こそ着けているものの、ソーニャとて恋バナに興味のある乙女なのだ。


「良い趣味してるよな、まったく」


 マルクは呆れたような顔をする。が、彼もどこかに行く気配はない。


 ――こんな面白そうなもの、絶対に見過ごせない。


 アルと同じくそう思っているあたり、マルクも他人のことは言えなかった。


「くっ、何を見せられてんだ俺ぁ……! とっととくっつけよあのバカ……!」


「良いなぁ、私もあんなふうに告白されたい」


 双子が同時に怨嗟と羨望の声を上げる。


「いかんぞ、レーゲン。それではいつもの流れだ」


 森人剣士ケリアが「もっと攻めるんだ!」と応援(エール)を送ると、


「ハンナもどうしてこう、変なところで察しが悪いの? もっと空気を読んで言いやすい雰囲気にしなきゃダメじゃない。コロッといくのに」


 同じく森人弓術士プリムラも「届いて!」とばかりに念を送った。


 恋人の発言に、ハタと動きを止めたケリアが思わずそちらを見る。


「なぁプリムラ、私はコロッといったのか?」


「私、逃がしたくない獲物には手段を選ばない主義なの」


 が、プリムラはいっそ堂々と言い放った。


「そ、そうか。まぁ、その、私も――」


 逃がしたくないと言われ、悪い気がしないケリアが嬉しそうな、照れ臭そうな顔をするも、


「「ケッ!」」


 双子が唾を吐き捨てたかのように苦い声を出す。


「オホン、そうだった。今はあっちだったな」


「そうよ? 恋人が二組いる一党になるかならないかの瀬戸際なの」


 ケリアが咳払いをして話を元に戻すと、プリムラもそんなことを言った。


「「あっ。あぁ~……」」


 そうじゃん、自分達だけ相手なしになるじゃん、と双子が蹲る。どうやら上手く行った未来について、考えが及んでいなかったらしい。




 そんな彼らに見られているとも知らず、ハンナは後輩武芸者(アルクス)を慮っている(ように見える)レーゲンへ優しく微笑む。


「アンタも怪我してたじゃない」


「名誉の負傷だ。痛くも痒くもねえ」


 レーゲンはどうにか雰囲気をそれっぽいものにすべく頭をフル回転させていた。が、圧倒的に経験が足りない。そのせいで返答も若干雑だ。


「確かに、あの凶悪犯を捕まえるのに重たい怪我してないもんね。名誉の負傷って言えるくらいで良かったわ」


 ハンナがクスクス笑う。そう言えば昔、ちょっとばかり有名な地元の盗賊を退治した時も、彼はそのように言っていた。


 しかし、続いて彼の口から紡がれたのは、少なくともハンナにとっては意外な返答だった。


「あんなゴロツキはどうでもいい」


 意識の大半を思考に注ぎ込んでいるせいか、上の空のまま口にしたようだ。


「え? でも”叛逆騎士”よ? 名誉じゃない」


「何言ってんだ。俺の名誉ってなァお前を護り切ってたた、か――――あっ」


 10年近い相棒と思考の端で会話をしていたレーゲンは、己が口走ってしまった台詞に気付いてハタと動きを止めた。急速に汗が噴き出してくる。


 ハンナは顔を軽く紅潮させ、


「いっ、今のは、仲間を守れたって、こと……よね? レーゲンの言った名誉って、そのこと……なのよね?」


 上目遣いでレーゲンを見上げた。彼女の瞳には確認を取るような、それでいてそうであって欲しくないような、相反した感情が滲んでいる。


 いつものレーゲンなら間違いなく「そうだ」と肯定して、照れ隠しにバカなことの一つや二つ吐いてみたことだろう。


 ぬるま湯に戻る為に言う、決まりきったおためごかし。


 だが今の彼は、住民の手伝い中も含めて散々っぱらアルに発破をかけられたレーゲンだ。覚悟が違う。


 ひとつ大きく息を吸い、ハンナの目を真っ直ぐ見てこう言った。


「いいや。好きな女と肩並べて闘って、その上で護り切れたってことが何よりの名誉なんだよ」


「へ…………っ?」


 其処(そこ)()()く期待はしていたが、それでも誤魔化すような言葉が返ってくると思っていたハンナが虚を衝かれて目を見開く。


 レーゲンの顔は少々赤いが、視線は真っ直ぐに彼女を向いていた。


 物陰のアル達は「いったあああぁぁぁ――――っ!!」と小声で大はしゃぎである。


 10年近く過去のことだ。


 実を言うと、一党を組み始めた当初はハンナの方が断然強かったのである。


 〈ウィルデリッタルト〉でもそこそこ名の通った商家の子女であり、きちんとした教育を受けていたので魔術も扱えるし、剣術も基礎ができていた。


 それに対してレーゲンは田舎街の一般家庭で育った普通の少年。


 最初の方は危機(ピンチ)を助けてもらったり、依頼者との折衝をしてもらったりと、矢面に立っていたのは常に彼女の方だった。


 ――誘ったのはこっちなのに、なんて不甲斐ないんだ俺は。


 レーゲンはそうやって己を罵倒こそすれ、ハンナに嫉妬や羨望といった感情は一切持たなかった。


 なぜなら彼女は嫌な顔一つ見せることもなければ、馬鹿にするようなこともなく、「仲間なんでしょ?」と笑っていたからだ。


 だからこそ、その不甲斐なさをバネにレーゲンは努力した。


 先輩武芸者に何度も頭を下げ、協会に置いてある規則から魔獣の知識、犯罪者一覧などを片っ端から読み漁り、魔術の指南をハンナに頼み込み――暇ができるたびにそうやって己を高めるべく励み続けたのだ。


 頑張ってくれている相方にいつか肩を並べられるように。いつか護り返せるように、と。


 それが恋慕に変わったのはいつの頃だったか。


 彼自身も憶えていないがレーゲンにとって、ハンナとは最初に組んだ相棒、という枠を超えた大事な存在であり、彼を強くした原動力そのものだったのである。



 そんな想いが込められた短い告白に、ハンナはこれが本当に現実なのか判然としない感覚に囚われていた。


 いつかそんな関係になれたらいいなとか、いっそ自分からいくかとか、でも断られたらどうしようとか、それはもう何度も何度も考えてきた。


 しかし、いざ本人の口から面と向かって言われると、返す言葉が浮かばない。


「え、えっと……」


 そこにレーゲンが更に踏み込む。


「ハンナ。俺ぁ、お前のことが好きだ。いつ頃からそうだったかは忘れちまったけど、大切な女なんだ。今の関係が居心地良くて、長い間言い出せなかった。あー、そんで……えと、言葉が上手く出てこねぇ。


 とにかく、大事に想ってる。付き合ってほしい。その……ゆくゆくは結婚とかも、考えちゃいるんだが、まずは真剣な交際から始めたいと思ってる。そんで、えぇと、返事……聞かせてもらってもいいか?」


 ――言い切った。


 もう思いついたままの言葉をレーゲンは述べていた。頭で色々考えていた台詞など吹き飛び、ありのままの想いを告げることにしたのだ。


 顔をボンッと真っ赤にしたハンナが「あぅ」だの「えとっ」だの、言葉にならない声を上げる。彼女の方も思考が定まっていないようだ。そのまま沈黙してしまう。


 一向に返事をくれないハンナにレーゲンが「参ったな。やっぱ……ダメだったかね」と頬をポリポリ掻いた――瞬間だった。


 彼の胸にハンナが飛び込む。彼女は行動で示すことにしたのだ。


 脳が沸騰しているかのように熱っぽくて言語化が難しいというだけで、想いは同じなのだから。


「うおっ!?」


 レーゲンは飛び込んできた彼女を受け止め、柔らかな身体を軽めに抱き返したまま思案する。


(これは……どっちだ? お友達のままでいましょうとか言う奴か?)


 だとすればいたたまれないなんてもんじゃない。都市へは単騎で帰還することも視野に入れるべきだろうか?


 そんな馬鹿なことを考えて顔を青褪めさせる彼へ、ハンナは埋めていた顔を上げた。彼女の紅潮した頬と潤んだ瞳にレーゲンは思わず見惚れる。


「……嬉しい。これからもっともっとよろしくね、レーゲン」


 囁くようにそう言って、はにかんだ。普段気の強い彼女の、高揚と恥じらいが綯い交ぜになった柔らかく魅力的な笑み。


 呆けるように見惚れるレーゲンの脳内で、彼女の発した言葉の意味がじんわりと融けていき、ようやく理解に達する。


 ――これは、つまり……了承だ。


 青くなっていた彼の顔にみるみる喜色が浮かんでいく。ハンナはその表情を見て、更に嬉しくなった。


「ああ! よろしくな!」


 感情が爆発したかのように、レーゲンは彼女をぎゅうっと強く抱き締める。彼女の腕も腰に回された。


 それでようやく心から胸を撫で下ろす。もうへたり込みそうだ。


「……はぁぁ~、良かったぁ」

 

 そんな彼へハンナは楽しそうに笑った。


「断るわけないのに。もう」


「もし断られたらって、頭を(よぎ)り続けてたんだよ」


 抱き合ったままレーゲンが言うと、


「ふふっ、うん。私もそれで言い出せなかったの。だからありがとね。やっと、こうなれた」


 ハンナが心底嬉しそうに笑い、顎を上向かせて目を閉じる。


 レーゲンの心臓がドキッと跳ねた。が、それでも彼女の意に応えるべく唇を重ねる。


 ぎこちなくも、甘くて柔らかな口付け。何年越しの本懐だろうか。止めどなく溢れてくる愛おしさで、幾度重ねても足りない気がする。


 そうして何度も長い口付けを交わし、ようやく身体を離した。


 お互いに顔は赤く、幸福感で頭がクラクラする。


 するとそこで何の脈絡もなくザパァ――ッと水を上げ、鎌首をもたげた蛟が現れてしまった。


「んなっ!? アルの魔力を辿ってきたんじゃない!?」


「でえぇっ!? 嘘だろ! 今そんな出てないはずなのに!」


「昨日、散々触れ合ったから覚えちゃったんだよきっと!」


「あっちに誘導とかできますか!?」


 途端、驚く2人の耳に”鬼火”の一党所属の4名の声がバッチリ届く。


「いや……四人とも」


 なんだか凄いものを見ていたと、気恥ずかしさを紛らわすようにソーニャが口を開き、


「今の会話でバレたぞ」


 冷静を装うマルクがそう言った。


「「「「っ!?」」」」


 やっべ!という顔の4人がそちらを見れば、レーゲンとハンナが今度は羞恥で顔を真っ赤にしている。


「ア、アンタ達っ!? 見てたの!? ちょ、ちょっとプリムラ達まで!」


 無理矢理怒ったような顔をしているが、一党の仲間までいたせいで耳まで真っ赤だ。同僚にキスシーンを見られたのだ。然もありなん。


「やっぱり見てやがったのか…………うぉぉぉ、思ったより恥ずい」


 レーゲンは俯いて羞恥に耐えている。


 本当に見守ってんじゃねーよ! と叫びたいところだ。


 ケリアとプリムラは良い笑顔を2人に送り、双子は自分達のことは今は置いておこうと、楽し気に笑っている。


 そこでアルがこう言った。


「ささっ、こちらのことはお気になさらず。続きをどうぞ」


 だが、凛華とエーラは興味津々でジーッとこちらを見ているし、ラウラとソーニャも恥ずかしそうに顔を赤らめてはいるものの視線を外す気など毛ほどもなさそうだ。


 というか誰もどこかに行く気配が微塵もない。


「「できるかあっ!!」」


 レーゲンとハンナの渾身のツッコミが湖面の上を奔り抜けていくのだった。



 ~・~・~・~



 その後。


 仲間の10人にしこたま祝福されまくった2人は、帰路につく前に蛟と触れ合っておこうと言うことで寄ってきてくれた鎌首の鱗を撫でたりしていたのだが、ここでアルが一計を案じた。


 昨日の段階で話が通じるとみたのか、鎌首の一つへ話しかけ、レーゲンとハンナを誘導。


 すると、蛟がまるで「乗れ」とでも言わんばかりに、彼らの前に鎌首を降ろしたのだ。


 アルに背を押されるがまま、2人がおそるおそる跨がると、蛟は湖上を優雅に巡航(クルージング)し始めた。


 村を一望できるほどの高さから見下ろせる白銀を主とした素晴らしい景色に、火照った顔には丁度良い冷たくも爽やかな風。


 初めは落ちないようにと怖がっていた2人も、恐怖から一転して感嘆の声を上げ――途中からはレーゲンが後ろからハンナを大事そうに抱えて、蛟からの感謝の印をゆったりと楽しむのだった。


 ちなみにその蛟を直接助けたアルだが――……それはもうほとんどの鎌首から巻きつかれてなかなか解放して貰えず、凛華、エーラ、そしてラウラは群がる鎌首と楽しそうに触れ合うのであった。


 マルクが後で聞いたところ、ソーニャも迫力には慣れたものの、触るのはやはり難しかったらしい。




 こうして『黒鉄の旋風』と”鬼火”の一党は、大きな達成報告を携えて帰路に着いたのだった。

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