5話 別れと出会い (虹耀暦1286年9月:アルクス14歳)
2023/10/10 連載開始致しました。
初投稿になりますのでゆるく読んで頂ければありがたい限りです。
今回はいつもより少々長いです。なにとぞよろしくお願い致します。
ラービュラント大森林の辺境に位置する村落ネーベルドルフに、アルクス達4人が逗留して5日目の朝。
数日前”刃鱗土竜”によって穴だらけにされた防壁とは斜向かいにある門前。
そこに出立前のアル達4人と1羽、そして親切にも見送りへと外に出て来た幾人かの住人らの姿があった。
その中には無論、ここの長である山羊角族のシモン・レーラーの姿もある。
「皆さん、数日間お世話になりました」
アルが頭を下げると一党仲間の幼馴染達3人も口々に「ありがとうございました」と腰を折った。
三ツ足鴉の夜天翡翠も「カアー!」と元気に啼く。
住人らが「おう!」「気ぃつけんだぞ!」「元気でな!」などと返しているなか、一歩前へ進み出たシモンは一党へ朗らかな笑みを向けた。
「また困ったことがあったらおいで。僕らはいつだって歓迎するよ。ここを守ってもらった恩もあるしね」
「ありがとうございます、その時はまた。シモンさん達もどうかお達者で」
心の裡を語り合ったアルとシモンに当初のわだかまりはなく、寧ろ妙な連帯感や絆があった。
両者の視線が数瞬交わる。
―――――頑張ってね。
―――――ええ、そちらも。
どちらからともなく視線を外し、シモンは凛華たちの方へ、アルは進行方向へと身体を向けた。
「君達も元気でね。くれぐれも気をつけるんだよ」
「「「はい!」」」
ネーベルドルフの長に3人が元気いっぱい返事を返す。
「よし、んじゃ出発しよう」
別れの挨拶を長々しても未練たらしいものだ。
アルはさっと指を振って「『陸舟』」を発動し、仲間へ呼びかけた。
「うん!」
「そうね」
魔術によって盛り上がった土がみるみる内に幅広いカヌーのような舟を形成する。
アルがそこに『念動術』をかけた背嚢をぽいぽいっと入れ込み、すぐさま凛華とシルフィエーラが前に跳び乗る。
その間にマルクガルムが船尾につき、夜天翡翠が頭目の肩からバサッと上空へ飛翔していく。
次いでエーラが木々にお願いして路を拓き、そこに凛華が冰のコースを敷いた。
「こっちは準備いいよ~」
「こっちもすぐに出せるわよ」
「俺もいけるぜ」
「わかった。じゃ行こうか」
アルから目配せされたマルクが腕と足を厳つく『部分変化』させて、狼腕と狼脚による膂力で以て『陸舟』をググッと押し始める。
「よっと」
やがて進み出した『陸舟』にマルクがトンっと跳び乗ったところで、アルは背後へ声を張り上げた。
「じゃあ皆さん!本当にありがとうございました!行ってきます!」
「ありがとうございましたー!」
「お達者でー!」
「またいつか!」
ネーベルドルフの住民らが『陸舟』へ手を振りながら「また来いよー!」「頑張れよー!」などと口々に温かい声を掛ける。
シモンは彼らに力強くどこまでも駆け抜けていく爽やかな風を感じ、笑みを隠せなかった。
(あんな子達が生きていく世の中だ。僕も頑張ろうじゃないか)
夢を後押しされた気分ですらあった。
そんなことを思いながら手を振り続けるシモンへ、同じく見送りに出ていた仲の良い友人が声を掛けた。
「強過ぎる薫風みたいなやつらだったな」
「はははっ、言い得て妙だね。悪くない表現だと思うよ。あ、そうだ。伝書用の早鷹は今空いてるかい?」
「早鷹?空いてると思うぞ。理由は?」
「隠れ里に手紙を届けてもらおうと思ってね」
「あぁなるほど。それならヴィオレッタ様へ、あいつらが”刃鱗土竜”を討伐してくれた件の礼も頼んでくれ」
「そっちは当然さ」
住民らが女神と森へ祈りつつ村落へ戻っていく。
願わくはあの4人と1羽が更に成長し、また無事な姿を見せてくれんことを、と。
* * *
アル達4人を乗せた『陸舟』は快調なペースで森を滑走していた。
ラービュラント大森林のど真ん中を抜けてきた彼らからすれば、旧街道が近くなってきたここいらは起伏も少なく、道なき路の割に大人しさすら感じる。
急な斜面がないのでアルが急ブレーキを掛けたり、マルクが慌てて風を起こす必要もなく、先がどうなってるかわからず凛華がコースを出しあぐねるようなこともない。
「いい人達だったねー!」
エーラの通る声にアルを含めた3人が一様に頷く。
「そうだな」
「今度里帰りするときにお土産でも持っていきましょ」
「それ良いかもしんないね」
にこやかな会話がなされている下で、ザーッという快調な滑走音と共に『陸舟』がグングンと疾走する。
* * *
それから1時間半ほど移動し続けていると、エーラが急に「んっ!?」と驚いたような声を上げた。
即座に反応したマルクが『人狼化』して重量を上げ、アルが急いで舟底に爪をジャキッと出させて減速を試みる。
「エーラ、どうしたのよ?」
「背の高い木がほとんどいなくなっちゃったみたい」
「この先で?それじゃ――――」
「うん、たぶんもうすぐ大森林から抜けられるんだと思う」
エーラは自信を持って隣の凛華へ応えた。
太い樹木がめっきり減る代わりに、背の低い野草達が増えた気配を鋭敏に捉えたのだ。
植物に関するエーラの感覚と知識は、残り3人の持つそれより圧倒的に精度が高いし、豊富である。
「あとどれくらい?」
今度はアルが訊ねた。
ラービュラント大森林を抜け切るということは共和国と帝国を繋ぐ旧街道に出るということ。
アルはその手前で『陸舟』を解くつもりでいた。
移動しているところを見られてネーべルドルフまでの道筋を辿られてもことだからだ。
「二kmってとこかなぁ。もうそろそろ歩きに変えた方がいいかも」
「わかった。じゃあこのまま減速していって止まったところで降りよう」
アルの決定に3人が頷く。
「了解だ」
「こっちも了解よ。それにしても、案外早かったわね?もう少し掛かると思ってたわ」
「今までに比べたら道がマシだったからねぇ~」
細く白い顎に指をやっていた凛華が「それもそうね」と呟く。
そうこうする内に『陸舟』は徐々に速度を落としていき、やがてザザー……ッと止まった。
土に戻る『陸舟』を尻目に4人が背嚢を浮かせて歩き出す。
「おーい翡翠、偵察はもういいぞー。戻ってこーい」
「カァー」
アルの呼びかけに夜天翡翠は素直に応え、バサバサと羽音をさせながら勝手に主人扱いしている頭目の左肩へ止まった。
「おつかれさま」「おつかれぇ~」
凛華とエーラがすぐさま夜天翡翠へと寄ってくる。
干し肉を手に持っているあたり、また可愛がるつもりなのだろう。
大して疲れていないらしい三ツ足鴉は差し出された餌を啄みながら、まだ余裕とばかりに「カァー」と啼いた。
「翡翠もだいぶ体力がついたんじゃねーか?」
マルクの言葉に夜天翡翠が誇らしそうに「そのとおりっ!」と言いたげに胸元の濃紫羽を膨らませる。
その様子にクスリと笑みを零した4人は、雰囲気も和やかに最後の1kmも満たない距離を歩き始めた。
~・~・~・~
それから30分ほど歩いただろうか?
原生林然としていた風景が雑木林くらいの薄さに転じていた。
人の手が入っているとまではとても言えないが、それでも雰囲気に歴然とした差を感じる。
いよいよか。
4人の思考が自然と一致を見せ、誰ともなく息を呑んで雑木林を抜けると途端に視界が開けた。
一党の目に入ってきたのは一応整備されている――――といっても土瀝青や石畳で誂えられたものではないが、確かに人の手で開かれたことが伺える一本道と周囲の草原。
旧街道。およそひと月の期間を掛けてようやく辿り着いたのだ。
誰ともなく何だか不思議な光景だ、と雑草をサクサク踏みしめて街道に出てみる。
「おぉーっ!ここが旧街道か!凄いな、久々に文明を感じる」
アルは道路からの眺めに感嘆の声を上げた。
小規模の林がまばらに見えているが、他はだだっ広い草原だ。
その中に旧街道であるこの道が一本だけ続いていた。
「丸々ひと月は大森林の中だったものね。気持ちはわかるわよ」
好奇心で目を輝かせる我らが頭目を微笑ましく思った凛華が少々大人びた笑みを浮かべる。
しかし、エーラは首を傾げた。
「ボクは森の中、そんなに嫌でもなかったけどなぁ」
「そら森人はそうだろうよ」
森の中で最も力を発揮する種族なのだから、森で疲れることはあるまい。
「”魔法”使ったら一番野生児みたいなマルクには言われたくないよ」
マルクのツッコミにまるで野人と言われたような気分になったエーラがムッとした顔で言い返す。
「おい、そりゃ言っちゃダメだろ」
『人狼化』はどうしようもないだろうが、とマルクが半眼になるも頬を膨らませた耳長娘はその尖った耳ごとそっぽを向く。
「道なりに北東?で合ってるのかな――――の方に行こう。で、途中昼食を挟もうか。貰った食糧もあるしね」
2人のやり取りを聞き流してアルが一声かけた。
「はいな」
「は~い」
「応よ」
「カァ~」
生まれて初めて見る景色も何のその、仲間がいれば不安も薄いものだなと一党はテクテク歩き出した。
~・~・~・~
適当な木陰を見つけて昼食を摂った4人と1羽が、再び移動を開始して1時間も満たない頃。
大森林を途中まで歩いてきた面々にとって足だけ動かす作業というのは既に慣れ親しんだものだ。
特に疲れも感じない。
しかし、こうも平坦な道だと眠くなる。
いかんいかん、とアルが気を引き締め直そうとした――――その時だった。
ドドッ、ドドッ、ドドッ――――!
規則正しくも猛烈な勢いで何かが走る音が聞こえてくる。
即座に後ろを振り返った4人の視界に飛び込んできたのは、馬に乗って駆けてくる同い年くらいの少女2人組だった。
手綱を握っている方の少女は燃えるような朱髪で、見るからに必死そうだ。
スリムな鎧を着込み、腰には細めの剣を差している。
控えめに言ってそんな形相を浮かべていなければ美しい顔貌な部類だろう。
その後ろに乗っている栗色髪をしたもう一人は、鮮やかな青のラインが入った頑強そうな騎士鎧を身に着け、背には幅の広い騎士盾を背負っていた。
剣は取り落としたのか、元々なかったのかわからないが持っていない。
こちらも前に乗る少女とは系統は違うものの整った顔つきで、首元から細い首が覗いている。
だが、それ以上に様子が変だった。
フラついているというか、馬の揺れに耐えられていない。
4人が首を傾げていると、朱髪の少女の方も「魔族っ!?」と驚愕を露わにした。
凛華の二本角とエーラの長く尖った耳に気付いたのだろう。
驚いたのも束の間、朱髪の少女はハッとした様子で慌てて叫んだ。
「あなた達!早く逃げて!」
真意が分からずアル達が揃って「え?」と顔を見合わせる。
逃げる?魔獣でもいるのだろうか?
「アル」
「いや、魔獣の気配は感じない」
凛華が端的に訊ねるのに対し、アルも手早く答えた。
旧街道は道沿いこそ見渡せるほどに野草の背も低いが、人の手が入っていないと思われる場所は相応に背の高いものもある。
「精霊達もそう言ってるよ」
そういった場所に何かが隠れているかもしれないという懸念は、気配に鋭いアルと『精霊感応』を発動させたエーラによって否定された。
一方で朱髪の少女も警告はしたものの止まる気はないらしい。
速度を緩めず駆けてくる。
アル達は不思議そうな顔で馬を避け、すれ違いになりかけた。
その瞬間だった。
後ろに乗っていた栗色髪の方がぐらりと身体を傾げ、そのままずり落ちていく。
「あっ!」
頭から真っ逆さまに落ちていく騎士鎧の少女にエーラが思わず声を発した頃には、ワインレッドの影が疾走していた。
「あっぶねー……!」
マルクだ。なんとか受け止めたようだ。
人間態でもギリギリ血の匂いに気付けたので、『部分変化』させた狼脚でなんとか間に合わせたのだ。
「さすがマルク」
「まあな」
凛華へおざなりに返すマルクの目が一点を見つめている。
血の匂いの根源。騎士少女の怪我だ。
「ソーニャ!?」
彼女の落馬に気づいたのだろう。
朱髪の少女が馬を急停止、騎首をこちらに向けて慌ててやってきた。
「大丈夫なの!?」
すぐさま下馬して呼びかけた朱髪の少女に栗色髪の騎士少女――――ソーニャがほんの僅かに腕を動かしてみせる。
どうやら今ので精一杯のようだ。
「マルク、その子――――」
アルが同じく近寄って見てみれば、胴鎧と肩の間から矢が伸びていた。
マルクが嗅ぎつけたのはここから流れ出した血臭だ。
そこをエーラが覗いた。
鎧を手で押して矢を確認し、鼻をひくひくさせた後に涙目で鼻をつまむ。
血と鏃についた付着物の臭いで鼻の奥がツンと痛くなったのだ。
「この臭い……狩りで使われたりする毒だよ」
「毒!?そんな!」
朱髪の少女が驚く。矢のダメージで落ちたと思っていたらしい。
「毒の種類は?」
「この色と臭いはたぶん麻痺毒だね……でもこれ普通の麻痺毒じゃない。 もっと趣味が悪いやつだ。 ほっとくと死んじゃうのがほとんどなのに、この毒は獲物を絶対に殺さない毒なんだよ。 ただ動けなくなるだけ」
ぎゅるっと矢の形状を変えてよく確認したエーラが確信を以て告げる。
普段使いしないが、植物から採れる毒なら一通り叩き込まれている彼女の言うことだ。
間違いないだろう。
「これを放ったやつは?」
「そこまではわかんないけど、相当インケンだよ。これ作るの結構手間かかるんだ」
凛華の質問に植物の専門家が眉間に皺を寄せて首を振る。
「解毒はできるか?」
アルが問うとエーラはすぐに頷いた。
「できるけど、ちょっと時間いるよ。ボクの持ち合わせにはないから材料探しからだね」
ポンポンと会話を行う魔族達4名に朱髪の少女は置いて行かれかけ、慌てて縋り付くように叫んだ。
「た、助けられるんですかっ!?」
「そりゃあね。毒使うなら解毒も一緒に覚えないと危なっかしくて使えないじゃん」
それはそうだ。朱髪の少女は納得と同時にハッとして顔を上げる。
「そうじゃなくて、とりあえず逃げ――――」
彼女が言えたのはそこまでだった。
アル達がそれより早く、弾かれるように立ち上がったのだ。
その一瞬の後、馬の走る音が聞こえてきた。
ドドドドドドド――――ッ!
切れ目もわからぬほどの蹄の音。馬1頭で出せる音ではない。
(かなり多いな)
アルが赤褐色の瞳を細める。
直後、4名と2名の前に騎兵が現れた。
30人程だろうか、一個小隊と呼べる規模の騎兵が狭い街道に整然と並んだ。
顔まで隠す甲冑兜に揃いの銀胸甲をつけている。
槍と剣、そして弓を携えた彼らは「魔族だと……!?」「なぜこんなところに」などと口々に溢す。
アルはその声に驚愕というより、見下すような蔑みを感じた。
朱髪の少女とソーニャと呼ばれた少女の前に4人が立って黙っていると、甲冑兜に羽飾りをつけた指揮官と思わしき騎兵が声を上げる。
「そこをどけ、魔族。そのお二方は大事な方々なのだ。我々が保護する。貴様らの出る幕ではない」
侮蔑に満ちた高圧的な物言い。剣呑と言ってもいい。
しかしアルは平然と無視して訊ねた。
「あんたら誰だ?」
「貴様らに答える必要も、そして意味もない。もう一度だけ言ってやる。そこをどけ。本来なら貴様らは穢れた害虫として駆除されても文句は言えんのだぞ?」
アルの態度に怒りが湧いたらしい。
指揮官が理性の欠けたことを言う。
「「…………」」
凛華が無言で怒りを表し、エーラの顔から感情が抜け落ちた。
マルクはアルの方へ怪訝そうな視線をチラリと向けた。
―――――コイツ何なんだ?ふざけてるのか?
灰紫の瞳がそう語っている。
だが、アルには心当たりがあった。
そんな物言い――――否、その思想に。
だからこそ落ち着き払った様子で指揮官らしき騎兵の言葉を鼻で笑う。
「はっ、文句なら言えるだろ。勝手な理屈をつけるなよ、ボンクラ神殿騎士」
「貴様っ!我々を――――」
ほぼ正解だろうと思いつつ言ってみたアルだったが、やはり正解だったらしい。
そのまま扱き下ろすことにした。
「女神の名を出せば何をしても許されると思ってるイカレ共だろ?マトモな人間にそんな物言いは出来ないからすぐにわかったよ」
「貴様ぁっ!!」
羽飾りの騎兵が激昂する。
後ろにいた騎兵――――神殿騎士共も気色ばんだ。
瞬時に場が一触即発な空気に早変わりする。
「自覚くらいはあったらしいな」
アルは内心をおくびにも出さずに挑発した。
脳内ではこの状況をどうやって切り抜けるか目まぐるしく思考中だ。
凛華、エーラ、マルクの3人は、アルと指揮官の応酬で遅ればせながら納得すると同時に理解した。
―――――コイツらが神殿騎士。
この連中がアルの父ユリウスを殺し、同胞を殺して回っている下衆野郎共。
凛華が静かな殺気を迸らせ、エーラの『妖精の瞳』が輝く。
反対にマルクは奥歯を噛んでなんとか冷静さを保っていた。
後ろの朱髪と栗色髪を巻き添えにする可能性があるからだ。
指揮官は後ろから慌てて来た神殿騎士から耳打ちされ、ハッとした様子で落ち着きを取り戻した。
ここにいる理由を思い出したらしい。
「まあいい!その二人をこちらへ引き渡すのなら見逃してやる。貴様らは命を拾い、我々はやんごとない方々を保護できる。これ以上ない取引だろう?」
あくまでも上からの発言だ。
「ぷっ……」
しかしアルは失笑した。
「貴様ァッ!何が可笑しい!」
「さっきからアンタ、一体どの立場なんだ?助けに来たのか、捕らえに来たのか。言ってることがめちゃくちゃだぞ」
指揮官が怒りを抑えつけながら呻く。
「……無論、助けに来たに決まっているだろう」
「だったら最初っから間違ってる。 助けに来た内の一人が横たわってるんだぞ? 心配するのが普通じゃないのか? 『ご無事ですか!ソーニャ様はどうされたのですか!?』ってさ」
「っ!!」
「俺達が前にいたからなんだ?ソーニャって呼ばれてた子は、その後ろで真っ青になってるんだぞ?『そこをどけ』じゃないだろ。それこそ『貴様ァ!』だろうが」
「……」
アルは声音までワザと真似してニヤリと笑った。
指揮官が怒りに震える。
しかし言い返せない。
なにせ彼女らを捕らえるために追いかけて、死なない毒矢を射掛けた張本人なのだから。
ゆえにアルは言外にこう言ったのだ。
「何が保護だ。抜かせ」と。
ややあって指揮官は開き直ったらしく圧力を強めた。
「……だから、どうしたというのだ? 貴様らに関係あるまい。 最後の通告だ。 そこをどけ。 その方々を保護するのが我々に与えられた使命なのだ。 選ばせてやろう。 己の身命を取るか、仲間を馬鹿な選択で危険に晒すか」
アルは朱髪の少女をチラリと振り返った。
彼女はソーニャと呼ばれた少女を守るように抱きしめたまま、グッとこちらを見返した。
助けてと言わなければ、見捨てろとも言わない。
折れそうな心を気丈に歯を食い縛ってこらえ、抑えきれない恐怖が潤んだ瞳に漏れ滲んでいる。
顔を戻したアルが今度は仲間に視線をやる。
率直に言うと、天秤に掛けていた。
人間の少女2名を助けるため、仲間に殺人を強要するか。
とっとと撤退して胸糞の悪い一日を過ごすか。
しかし仲間達の眼はそんなアルの逡巡を一蹴した。
―――――今更何を躊躇ってる?
―――――放っておけば仲間や同胞を危険に晒す敵だろうが。
と、訴えている。
その考えはきっと正しい。
それでもアルは仲間に人を殺させたくない。
だが現実は無情だ。二者択一。
どちらを選んでも危険に晒されるのは目に見えている。
神殿騎士共からは殺気や粘ついた陰気を。
そして仲間達からは闘志を感じる。
誰一人引く気がないのだろう。
そしてアルとて…………引きたくない。
なぜならあのとき、朱髪の少女は自身が追われているにも関わらず、自分達に向かって「逃げろ」なんて言ったのだから。
(そうだ。答えなんて、どっちに着くかなんて――――決まってる)
俄にアルの雰囲気が変わった。
普段ののんびりとした雰囲気から腰に差してある二振りの刀――――白刃を思わせる鋭利なソレへと。
凛華、エーラがその覚悟を敏感に感じ取って、呼気をゆっくりと吐いていく。
(決めたか)
マルクも心中で独り言ちながら口の端を歪めた。
焦れた神殿騎士共がガチャガチャと装備を揺らす。
「聞こえなかったのか? 選ばせてやると言ったのだぞ。 貴様らはどちらを選ぶんだ? ああ、安心するが良い。 我々は慈悲深い。 その二人を差し出したのなら、命の保証だけはしてやろう」
先程まで怒りに歯軋りしていた指揮官が再度問いかけてきた。
すっかり己を取り戻したようで、自分達が圧倒的に優勢だと優越感に浸っているらしい。
それが、大きな間違いであるとも知らずに。
「お前らの慈悲なんて要らん。反吐が出る。『裂震牙・累』!」
アルはすげなく返すと、即座に右手を握り込んで魔術を起動した。
途端、ボコボコッッ!と大地から盛り上がった土砂が螺旋状の牙を多数形成。
一拍の間すらなく騎兵共を取り囲むや否や殺到する。
「な――――っ!?」
「どこから――――!?」
「うぎゃあ―――っ!?」
この『裂震牙・累』は、つい先程まで時間稼ぎにとアルが急遽創っていた目眩ましの術式から大急ぎで描き変えられた独自攻勢魔術。
咄嗟に籠められるだけの魔力をありったけ籠められて、発動されたため効果範囲は騎兵全体を呑み込むほどに広い。
誰も逃げられない。
しかし盛り上がった牙自体はそこまでの高さはない。
精々馬に乗っている神殿騎士共の爪先を掠る程度だ。
だがそれで合っている。何も間違っていない。
アルが狙ったのは初めから馬だからだ。
全方位から迫る大地の牙がグチャッ!という咀嚼音と共にその場を食らった。
馬が甲高い悲鳴とも嘶きともつかぬ声を上げる。
可哀そうだが、そうも言ってられなかった。
旧街道は馬をやられ落馬する者、倒れた馬の下敷きになる者、馬の血で転げる者の怒号や困惑の声で溢れ、一瞬で地獄へと変わる。
「馬がぁ……っ!?」
「魔、術だとぉ……っ!?」
「体勢を――――ぁかふっ!?」
「エーラは討ち漏らしを排除、一人も逃がすな。 マルク、ここを任せる。 その二人を守りながら近い連中を根こそぎ殺れ。 凛華、俺達は奥まで突っ走る。 血を凍らせて足留めしろ、その間に刈り取る。 状況開始!!」
近場に落ちた副官と思わしき神殿騎士の首元に刃尾刀を突き入れて捻り、引き抜くと同時にアルが淀みなく指示を出す。
今まで聞いたことがないほど冷淡で感情を排した口調。
「「「っ……応!」」」
静かなアルの覚悟を感じ取った面々は瞬間的に動きを止め、それでもすぐさま動きだした。
☆ ★ ☆
マルクはゆらりと『人狼化』し、近場にいた甲冑兜をグシャリと握り潰す。
断末魔が「ギャアァ―――ッ!?」と上がったが、緩めたりしない。
その騎士の絶命を確認すると、別の神殿騎士へと爪を振るった。
が、連中の着込んでいる胸甲は意外と面倒な防御性能を有しているらしい。
微妙に爪が逸れ、えぐるだけとなってしまった。
「『雷光裂爪』!」
狼爪に浮かび上がった術式が青白いスパークを放ちながらバチッと弾ける。
マルクは術の起動を確認するや否や、今度は騎士の胸に貫手を放った。
ジュバアッ!と鉄が熔けて砕け、爪が肉を抉り、一瞬で血液を蒸発させる音が響く。
「っ……!?」
神殿騎士は声も上げられずに死んだ。
「こっ、この、化け物がああっ!!」
すると近くで無理矢理起き上がって来た騎士が槍の一撃を放ってくる。
横目でそれを確認したマルクは人狼の闘気――――魔気を毛皮へ流した。
ガッ……チィィン――――!
魔気を孕んだ人狼の毛皮は、魔力を込めたそれより遥かに硬度を増し、槍をアッサリと受け止める。
(これなら魔気は要らなかったな)
心中でそう呟いてマルクは騎士の腕と喉元を斬り裂いた。
『雷光裂爪』が敵の出血すらも灼き止め、急所を焦がす。
「――――パ……ッ!?」
神殿騎士は声にならない掠れた音を絞り出しながら頽れた。
狼面の下でマルクが何とも言えない気持ちを押し殺した――――その時だ。
「きゃあっ!?」
後ろで朱髪の少女が悲鳴を上げた。
なんだと思えば、神殿騎士の一人が形振り構わず朱髪の方だけでも連れ去ろうとしているらしい。
しかしソーニャと呼ばれた少女が倒れたまま朱髪の腕を握りしめ、行かせまいとしがみついている。
「この――――!」
「よそ見してんじゃねえ」
騎士がソーニャを蹴りつけようとする前に、マルクが首をスッパリ斬り落とした。
「根性あるじゃねえか、お前」
狼の顔でニヤリと笑みを向けるとソーニャはフと笑い、力なく手を落とす。
今ので全精力を使い果たしたらしい。
「おい、盾くらい構えてやれ」
「は、はいっ」
朱髪の少女はこくりと頷き、ソーニャの傍に落ちていた盾を慣れない動作で構えた。
(これなら何かあっても間に合わせられる)
マルクは血に酔うこともなく、淡々と戦況を俯瞰することに徹する。
「あの、馬鹿野郎が」
その呟きを朱髪の少女は神妙な顔で聞いていた。
☆ ★ ☆
エーラが複合弓を洋弓型へ変化させて速射する。
目的は足止め。矢勢が強過ぎて制御の利かぬ強弓型でもない限りエーラが矢を外すことはそうそうない。
実際、放たれた矢は今のところ百発百中で神殿騎士へと直撃していた。
しかし、面広い太腿や分厚く特殊な形状の胴にはどうも効果が薄い。
魔獣の眼や足にも刺さる矢が通用していない。
翻って膝や足首と云った関節にはある程度有効なようだ。
おそらく鎧の下に更に着込んでいるか、何かもっと別の仕掛けがあるのだろう。
それを視て取ったエーラは躊躇うことなく魔術を発動した。
「『燐晄縫駆』!」
アルが専用改造したもう一つの『燐晄』。
『燐晄一矢』が一射の破壊力を重視したものだとすれば、こちらはエーラが放てる追尾矢としての特性を最大限伸ばした術だ。
光と化した矢が戦場を縫うように奔り、先端に集中した『燐晄』がその熱量で以て目標を灼き貫く。
「うがあぁぁぁ――――っ!?」
「ぎゃあ――――!」
「た、助け――――っ!?」
神殿騎士の首筋や手首、肘、足首、膝が幾筋かの光芒によって射貫かれ、熔けるように消し飛んだ。
普段ならそんな悲鳴を聞けば心も痛むエーラだが、今回だけは顔を苦しそうに歪めるだけで射貫き続ける。
その理由はただ一つ。
敵の密集地帯に飛び込んだアルと凛華がエーラに悲鳴を聞かせまいとするかのように、率先して射貫かれた者から屠り回っているからだ。
そのとき、精霊が囁く。
「ひィィィッ!?な、何なんだよぉっ!?」
腰を抜かし、這う這うの体で逃げる騎士がいる、と。
エーラが緑瞳を向けると、馬なのか味方の血なのかわからないほどドス黒い赤で鎧を染めた神殿騎士が、赤池と化した街道をベチャベチャと這いずっていた。
判断は刹那。
「飛ばして」
一秒も満たない内にエーラは『錬想顕幻』を発動。
直後、植物の根が垂直射出機を象り、彼女の軽い身体がポォン!と空中へ弾き飛ばす。
「風、お願い」
上昇したエーラの短外套がふわっと広がり、『精霊感応』によって風がその裡に入り込んでいく。
木の葉のように落下傘降下していくエーラは得物をシュルシュルと強弓型に切り替え、
「……悪いけど、逃がさないよ。『燐晄一矢』ッ!」
キィン――――ッ!という独特の弦音と共に、目にも止まらぬ迅さの閃光を放つ。
高位魔獣の目を灼き、頭蓋寸前まで貫通させるほどの威力を誇る渾身の一射は、騎士の上半身ごと消し飛ばした。
あれでは死んだことにすら気付けなかっただろう。
「……ふぅ」
降りてきたエーラの表情は些かも晴れない。どころか余計に曇っていた。
上から見て気付いてしまったのだ。
剣士2人で敵を屠っていると思っていたが、トドメを刺しているのはほとんどがアルだった。
普段の狩りならきちんと役割を決めて動くが、あの動きは違う。
「アル……!」
その事実と彼の真意に気付いて思わず名を呼ぶ。
そして複合弓を洋弓型に切り替えると、先ほどより急所を狙って矢を放ち、的確に騎士共の機動力を削ぎに掛かった。
戦場となった街道を不可避の光芒が奔り抜けていく。
☆ ★ ☆
凛華はチラリと隣を見た。
アルが戦場を縦横無尽に疾駆しながら神殿騎士共の首を斬り捨てている。
既に『蒼炎気刃』は発動済みだ。
甲冑兜や中に着込んでいるらしい鎖帷子など用を為さない。
龍焔の代わりに使っている魔術だ。生半可な威力ではない。
然して引っ掛かりもせず熔断し、落とした首には見向きもしない。
しかし『八針封刻紋』は解除していない。
後ろの少女2人すら警戒しているらしい。
ゆえに凛華も『修羅桔梗の相』ではなく『無垢の相』に留めた。
手の内は読まれない方がいいし、ただの鉄胸甲なら尾重剣で問題なく斬り裂ける。
(けどアルが捷過ぎる……!)
一陣の風と化した鬼火は騎士共の首をゴロゴロ落として回っていた。
まるで死を運ぶ風だ。
「『流幻冰鬼鑓』!」
凛華は堪らず独自魔術を使い、尾重剣を蒼白銀の馬上槍に変化させた。
『流幻冰鬼刃』と『流幻冰鬼鑓』は同一の魔術。
刃か鑓かは最後の一語を変えるだけで出だしを決められるし、一度発動すれば任意で切り替えられる。今回は槍だ。
「だああああああッ!!!」
アルに追いつこうと疾走。
『戦化粧』の膂力と尾重剣の重量、『流幻冰鬼槍』の瞬間凍結力を頼りにバキンバキンバキンッ!と騎士を凍らせ、砕いていく。
騎士からすればたまったものではないだろうが、凛華もそれどころじゃない。
アルは気配察知と魔力察知を正確にこなし、最小限の動きで手早く騎士共を斬り裂いて回っている。
破れかぶれに斬り掛かる騎士の一撃を眼も向けぬまま躱しざまに首を落とし、甲冑兜を脱ぎ捨てて構える相手には抜き手も見せない蒼炎短剣をボヒュッ!とブチ当て、血の海で藻掻いて回る騎士の首を疾走り抜けながら刈り落とす。
容赦の一片すらない。
だが凛華は理解してしまった、アルの行動原理を。
怒りや龍人の本能に呑まれたかと危惧したが……あれは違う。
極力、仲間達が命を奪わないで済むように必死で動き回っている。
自己満足だろうが何だろうが殺人に慣れて欲しくないから、あんなに怖い顔で必死に刀を振るっているのだ。
きっと強要してしまったと後悔しているだろう。
その痛々しい背中を見ていられず、
「でぇあああああッッ!!」
凛華は声を張り上げながら騎士を凍らせ、ぶった斬り、ぶち貫く。
彼女にとって今更。そんなの今更なのだ。
疾うの昔に――――着いて行くと決めたそのときに、そんな覚悟は済ませていたのだから。
☆ ★ ☆
朱髪の少女は両手で盾を構えたまま、琥珀色の瞳を見開いていた。
今更、神殿騎士共に対する情けなどない。
しかし、これは余りにも一方的だ。
虐殺と呼んで相違ない。
ついてきてくれた者たちの中には兵士もいた。
そんな彼らを殺して退けた連中を不意を討ったとは云え、あんなに容易く。
(……力が、欲しい)
傍らにいるソーニャは自分を守って矢を受けた。
自分とて戦う訓練はしていたが、神殿騎士共から見れば児戯にも等しいだろう。
ではなぜほぼ同年代に見える彼らはあそこまで戦える?
魔族だから?それとも訓練の量が違うから?
それとも才能の問題なのか?
(何より……恐くないの?)
正真正銘の殺し合いをしているというのに。
様々な疑問が湧く。
そこで自分を守るように立っている人狼の鋭い狼爪が目に入った。
(私にもあんな爪があれば……)
そう考えたところでふと気付く。
人狼の青年は小刻みに震えていた。
武者震いには、見えない。
そこでハッとした。
彼らは、あの自分達とそう変わらない青年達は――――今日初めて人を殺したのではないか?
かつて護衛をしてくれた新人の兵士が、自分を凶刃から守って敵を倒してくれたことがあった。
その彼はもういないが、あの時の彼もこんなふうに手を震わせていなかったか?
そこで初めて彼らの頭目らしき黒髪の青年を見た。
蒼い炎を滾らせ、死の刃を振るっている姿はまるで悪鬼だ。
純粋に恐いと思った。
違う世界の、殺し合いが常の日々を送っているのだと思っていた。
『あの、馬鹿野郎が』
人狼の青年が呟いた言葉が脳に木霊する。
彼は――――あの黒髪の青年は冷徹な殺人者に見えるが、そうではないのではないか?という疑問が鎌首を擡げ、確信に変わった。
必死になっているだけだったのだ。
仲間を死なせぬ為に、重荷を背負わせぬ為に。
それに気付いた瞬間、朱髪の少女は彼らへの見方がガラリと変わった。
☆ ★ ☆
アルは刃尾刀を片手に駆ける。
神殿騎士共の装備――――胸甲に甲冑兜、おまけに下に着込んでいる鎖帷子か何かへの刃の通りが悪かったため、すぐに『蒼炎気刃』で熔断することにした。
黒髪をドス黒い血に塗れさせ、斬って斬って斬りまくる。
何人の首を落としたろうか?
何人を焼き殺しただろうか?
そんな疑問を頭の片隅で考え始めたときだ。
プツリと気配が止む。
(いや……まだ一つだけ)
それはあの羽飾り付き甲冑兜を被った神殿騎士だった。
父を殺した者の中には聖騎士という神殿騎士の中でも特殊な何かを使う強者がいると聞いていたが、きっとこいつは違うのだろう。
特別な何かを使っていたと聞いたがそんなもの出す素振りも見せなかった。
ただの、憐れな指揮官だ。
「ひいっ、や、やめ、やめてくれぇっ!わ、わかった!はなし、を――――ぉっ?」
ジュッと音がして首が落ちた。
いや、アルが落とした。
嬲る趣味など持ち合わせていない。
(死んでくれれば……それでいい)
「アル!もう敵はいないよ!精霊達ももう誰も残ってないって!」
エーラの慌てた報告を聞いて、肩の力を抜く。
何度も立ち合い稽古をして、ずっと鍛練してきたのにえらく身体が強張っていた。
「……そうか」
ポツリと呟き、刃尾刀をだらんと下げる。
「大丈夫?酷い顔よ」
そう言う凛華の顔も引きつっていた。
やはり嫌な――――いや、気色の悪い感覚だ。
やるせない表情を浮かべたアルが刃尾刀を鞘に納めると、凛華も手元でグルングルンと尾重剣を回し、血を払って剣帯に背負い直す。
『戦化粧』がスウッと解け消えた。
「……状況、終了だ」
アルは宣言した。
もう戦いは終わり。
「怪我はねえか?」
少女らの前からマルクが訊ねてくる。
なぜか人狼態のままだ。
「ない」
「あたしもないわ」
「ボクもないよ」
3人はいつも通りの雰囲気を出しているが、幼馴染のアルにはよくわかった。
凛華はぶるぶると震える右腕を左手でぎゅうっと握り締め、エーラは手が白くなるくらい複合弓を握りしめている。
「……ああ」
それでようやくマルクが変化を解かない理由に納得がいった。
「どこかで休もう、とりあえず」
アルの右腕も押さえきれないくらい震えている。
今日初めて、彼らは人を殺したのだ。
そんな彼らを意識のないソーニャを抱えた朱髪の少女――――ラウラは神妙な顔で見つめていた。
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