断章6 隠れ里の新文化
2023/10/10 連載開始致しました。
初投稿になりますのでゆるく読んで頂ければありがたい限りです。
時間が少々飛んだ短編となります。なにとぞよろしくお願いいたします。
アルクス、凛華、マルクガルム、シルフィエーラの4人が里を出るに当たり、頭目を決めるべく大激闘を繰り広げてからおよそ2年ほどの月日が経過した。
毎日のように訓練場や鍛錬場、武闘場で見られた4人の姿はもうない。
その代わり、最近はとある3名の子供が見かけられるようになっていた。
ワインレッドよりもう少し赤毛っぽく波打った髪を一括りにしている9歳の人狼族の少女と、どことなく顔立ちの似ている黄土色の髪をした人虎族の双子。
マルクの妹アドルフィーナ、そしてエリオットとアニカだ。
〈刃鱗土竜〉との戦闘で大怪我をしたアルの見舞いに行ったときからよくつるむようになり、顔見知りから友人へクラスチェンジしたらしい。
今ではもう親友と呼べる間柄だ。
ではなぜその3人がそういった場所に出没するようになったのかと言えば、当然ながらあの4人から強い影響を受けたせいである。
元々彼らを慕っていたアドルフィーナ、助けてもらったことで早い段階から懐いていた双子らは2年前の模擬仕合に魅せられたのだ。
全力の実力を遺憾なく発揮した当時の4名。
戦士団の指導役ですら揃って思わず唸った高等技術。戦法に思考のぶつかり合い。
そして何よりその闘志だ。
仮令窮地に陥ろうと諦めずに食い下がり、勝ちを拾おうとする精神力。
その姿勢が自分達の命を救ったのだと双子は再認識し、アドルフィーナは負けても腐ることも妬むこともなく最後まで堂々と闘い続けた兄を尊敬した。
尤も表情に出せば鬱陶しくなることはわかりきっていたので表には絶対出さなかったが。
つまりあの日、彼ら3人の心に火が点いたのだ。
思慕は憧憬へと変わり、目標になった。
自分達もあんな風にかっこよく、強くなってみせる。
そう息巻いてすぐアドルフィーナはマモンへ、双子は族長のベルクトへ稽古をつけてくれるよう頼み込んだ。
双子が両親に頼まなかったのは甘えてしまいそうだと考えたからである。
両親の方も人虎族の中ではそれほど戦闘を得意としていないことを自覚していたので、我が子らと共に頭を下げた。
その時点で3人とも”魔法”は発現していたし、やる気も充分すぎるほどある。
一度躊躇したマモンとベルクトは鉱人の酒場でバッタリ会い、酒を呑みながら互いにそんな話をした。
そこで決めたのだ。
どうせあの4人に憧れているのなら勝手に動きだす。
ならば取り返しのつかないことが起きる前に、間違った努力を重ねる前に、きちんと教導しておくべきだろうと。
それからはマモンとベルクトが決められた日、決められた時間に空いている片方もしくは両名で稽古をつけることに決まった。
それが3人が7歳になって間もない頃のことである。
「せえええい!!」
「フィーナ、跳び過ぎるな。空は一番自由が効かん。大地に力を借りるのだ」
正面から跳び上がって蹴りを放つ娘の脚を掴んで地面に放り投げる。
「ふおおっ!?」
(昔マルクにも似たようなことを言った気がする)
やはり兄妹は似るものだな、と独り言ちたマモンが忠告を飛ばす。
アドルフィーナは人狼態、マモンは人間態だ。
これも以前どこかで見た光景だ。
「「だあああああっ!!」」
そこへ背後から子供2人分の蹴りが襲い掛かってきた。
しかしマモンは焦り一つ見せず的確に腕のみで捌き、受け流した力を利用してそれぞれ別方向へ投げ飛ばす。
「うわぁっ!?」「のわっ!?」
スポーンッ!と飛んでいった人虎態のエリオットが下草をかき分けながら転がり、アニカがスライディングするように滑っていった。
「相変わらず見事なものだ」
ベルクトの声にマモンが口の端を少々歪める。苦笑しているのだ。
――自分とて出来るだろうに。
「魔法を使えば出来るが、生身でここまで的確にはできん……はずだ」
マモンの声ならぬ声を聞いた気がしてベルクトは弁明した。
「そうは思えんが」
そんな風に自然体で言葉を返すマモンへ、アドルフィーナが突撃した。
「よそ見する暇なんて、あげないんだからぁ!」
不意を突いたつもりらしい。
マルクもやっていた貫手だが、脚力がまだまだ足りない。
「不意討ちする気なら音は出すな」
マモンは片手でぺいっと娘の進行方向を変えてやる。
勢い余ったアドルフィーナが草原へすっ飛んで行く。
そこには立ち上がろうとしているアニカがいた。
人虎態でも「へっ?」という表情を浮かべているのがわかる。
「ちょ、ちょっとフィーナ!」
「どいてえぇぇぇ!」
無理な相談だった。
「「ふべっ!?」」
仲良く草むらに寝転がるアニカとフィーナ。
あちゃあ~、とエリオットは首を横に振った。
この多対一の稽古は別に平時の鍛錬メニューではない。
ベルクトは対魔獣戦を、マモンは対人戦を主に教えることにしていた。
しかし3人が相手によって戦い方を変える意義を真に理解していないと判断したので、今回はこういう稽古の形を取ったのだ。
「俺の言いたいことはわかったか? 動きを読むのではなく、相手の思考を読め。お前達の動きはそれが足りていない。だから人間態の俺でもあしらえるのだ」
マモンからありがたい指導をもらいながら、3人がしゅんとして戻ってくる。
魔法も既に解けていた。
「わかったけどムズかしい、です」
なんとなくは理解できたらしいエリオットが代表するように述べる。
アドルフィーナとアニカも、うんうんと頷いて同意する。
「難しくて当たり前で、だからこそ絶対に必要なのだ。お前達の憧れているあいつらが、只々力任せにぶつかっているように見えたか? この間帰ってきた時もそうだったか?」
「「「うっ……!」」」
思わず3人が詰まる。
答えは否だ。とてもそうは見えなかった。
もう2年近く前だったがあの仕合はすべて覚えている。
彼らは相手によって戦い方も変えていたし、状況によって逐一大きく方針を変えて動いていた。
そしてこの間もそうだ。
この2年の間に一度アル達が里に戻ってきた時のこと。
出て行って1年半ほど経っただけなのに洗練された覇気と武威を身に纏っていた。
そのときにも彼らは稽古をしていたので見に行ったのだ。
今の自分達とは――――……。
「全然、ちがいました」
アニカはガクリと肩を落とした。
「そうだろう。あいつらは互いのことをよく知っている。だからこそ一手優位に立つだけでも大変なはずだ。手の内をよく知っているし、知られているのだから」
そう言われたら、やるしかないじゃないか。
アドルフィーナはそう思いながら父を見る。
ベルクトも父の後方でゆるく頷いていた。
まったくの同意見らしい。
「次の武闘大会に出るのだろう?」
その言葉がトドメになった。
「うぅ~、わかった! 頑張るもん!」
パッと顔を上げたアドルフィーナと双子が顔を見合わせてやる気を見せる。
マモンとベルクトは「そうこなくてはな」とやる気に応えるように、その後も稽古をつけてやるのだった。
* * *
ヴィオレッタは武闘場のほど近くで腕を組んだまま佇んでいた。
そこに作業担当の森人達が軽やかに駆けてくる。
「里長殿、武闘場及び観戦席の設営は終わっております。彼らの頃に較べれば木々も少なくしてありますし、整備班も待機する手筈となっておりますので修復も前ほどは掛かりません」
「そうか……ご苦労じゃったな。明日はよろしく頼むぞ」
「承知。では」
「うむ」
労いの言葉をもらった作業班はサッと身を翻して去っていった。
「……長かったのう」
ヴィオレッタがしみじみとぼやく。
そこへ癒療班のリリーがやって来た。
後ろには森人の纏め役として働いていたラファルもいる。
里長の表情を見た彼が気遣うように声を掛ける。
「お疲れのようですが大丈夫ですか?」
「心労がかさんでおるだけじゃよ。あの四人は里におってもおらんでも騒動の種を作るから困ったものじゃ。特にアルのやつじゃ、またぞろ何かやっておるらしい」
「まぁまぁそう言わずに。アルくんの方はわかりませんが、こっちは住民の要望によるものでしょう?」
そう言ってリリーが武闘場の方を仰ぎ見る。
その視線を追ってヴィオレッタもそちらを見やると、そこには2年ほど前に4人が大暴れした武闘場をより洗練させた武舞台が整えられていた。
あの頭目決めから今日でちょうど2年。
仕合後すぐに旅立った彼らの対決は住民魔族達のツボを痛いほど刺激したらしく、今回だけと言わず定期的にこういった武闘大会を開いて欲しいとの要望が殺到したのだ。
子供から大人まで、老若男女を問わずに届く大量の要望書。
ヴィオレッタはここ数ヶ月その対応に追われる日々を過ごしていた。
各種族の代表らと協議を重ねたり、仕合の規則や規程を整備したり、他には隠れ里そのものの安全性を考え直す必要が出てきて調査を行ったり。
武闘大会の開催が本決まりになってからはこちらにかかりっぱなしである。
大変どころではない。
結局この場所でこの時期に、武闘大会を2年おきに開く。
そういう運びとなった。
同意する者のまぁ多いこと多いこと。
毎年と言い出す住民らを宥めるのに、よもやあそこまで骨が折れようとは。
そして今日はその武闘大会の前日である。
段取りなどの最終確認がさっきようやく終わった。
ヴィオレッタは司会進行をやらなくてよくなったが、仕合中は必ずいなければならない立場だ。
万が一、大事故が起こってもヴィオレッタがいれば大抵の負傷はどうにかなる。
死人を出さないためなので断れるはずもなかった。
「わかっておるのじゃがの、それでも発端はあやつらじゃしぃ。儂も焚きつけたり賭けの胴元をしたりしてしもうたが、ここまでの大事になるとは思わぬしぃ。なんか皆妙に張り切っておるしぃ。儂とてガッカリはさせとうないから頑張ったのじゃしぃ」
「結局どのような運びになったのです?」
しぃしぃ五月蝿く管を巻くヴィオレッタにリリーが苦笑して訊ねる。
癒療班としてここ最近は癒院で新人指導をしていたのでよく知らないのだ。
するとヴィオレッタの代わりにラファルが答えた。
「指導役や顔役が実力を認めた者のみ参加できる。加減のできない者などに参加資格はなし。あとは年齢ごとに実施日を変えてある。成人の部が最終日前から二日間。青年の部が十四歳から二十代前半までで二日目。少年の部が初日だな。年齢制限は九歳から十三歳までだ」
「随分細かく決めたのねぇ」
「エーラ達はあれでも加減や術の威力なんかも考慮して闘っていたが、そうでない者もいるからな。規則をあえて細かく決めて、守れない者は参加させるべきじゃないと満場一致で決が出た」
「なるほど~、あの子たちは毎日のように鍛錬してたものねぇ」
納得するリリーにラファルが「そうだろう」と頷く。
ヴィオレッタの方を見ると、
「うむ。大変じゃった……」
ぽつりと呟いていた。
疲れもするだろう、協議や調査の全てに参加しなければならないのだから。
「里長殿。よろしければ帰り掛けうちに寄って、家内の淹れる茶を飲んでいかれませんか? 私なども飲んでいるものですが、疲れがスッと抜けるような落ち着く香りのものでして。リリーもどうだ?」
「……すまぬが、そうさせてもらおうかの」
「いいわねぇ。最近はゆっくりお茶もできなかったし」
ほへえ、と力の抜けた表情をしているヴィオレッタとほんわり笑うリリーを連れてラファルはシルファリスの待つ自宅へ帰ることにした。
明日は忙しくなる。英気を養っておいてもらわねば。
甘い茶菓子などがあったら妻に出してくれるよう頼んでおくか、と頭にメモもしておく。
娘のこととなると空回りしてしまうだけで、ラファルは元来気配りが上手い男だ。
こうしていつぞやの模擬仕合を発端とした勝ち抜き制の武闘大会は隠れ里の新たな文化として、住民達から諸手を挙げて受け入れられていくのであった。
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