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【12.6万PV 達成❗️】日輪の半龍人  作者: 倉田 創藍
少年期ノ弐 仲間との成長編

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4話 得意な魔術と……(アルクス7歳の春)

2023/10/10 連載開始致しました。


初投稿になりますのでゆるく読んで頂ければありがたい限りです。


非常にゆっくりとしたペースとなっておりますがなにとぞよろしくお願い致します。

 この世界――と云うより、この大陸にも四季はあり、また1週間が7日間で構成されているというのはアルクスの前世と変わらない。


 それは遥か昔から脈々と伝わる伝承に由来する。


 この世界で最も有名で、最も信奉されている神。


 創造を司る女神【アムノクレア】がまず初めに7種の精霊を生み出した。


 そしてその精霊らと共にたったの7日間でこの世界を創造したという。


 要するところの創造神話と云うやつだ。


 それゆえ7という数字は古来より大変縁起の良い数字であるとされている。


 またこの女神と七精霊を奉じているのが『虹耀教』という世界最古かつ最大の宗教。


 聖国はその熱心な『虹耀教』信徒が寄り集まって興った国であり、女神の贈り物とされる精霊の雫――魔晶石と呼ばれる、魔力を流すだけで各属性の力を引き出せる鉱石の最大産出国でもある。


 なお里内に敷いてある水道などに使われている水晶石は、厳密に言えばこの魔晶石ではない。


 帝都にいるヴィオレッタの友人が擬似的に内部を再現した擬似魔晶石と呼ばれる人口魔晶石だ。


 本物と較べて消費魔力が多くなる傾向にあり、出力に関しても魔晶石のような莫大なものではなく大きさに比例する。


 その代わり魔晶石(本物)は使っていく内にくすみ、最後には細かい硝子(ガラス)のような砂塵(さじん)になってしまうのに対して、擬似魔晶石は魔晶石の内部構造のみを再現し、出力や消費魔力は度外視されているので割ろうとしない限りは壊れるようなことはない。


 つまり外殻の劣化や破損以外で()()()()()()()という欠点(デメリット)がないのだ。


 これは魔力が多い割に適性にムラがあり、現状で魔晶石の輸入が絶望的な魔族にとってはうってつけの代物だ。


 30年近く前に帝国で友人が研究しているところへヴィオレッタが訪問し、共同開発したものなのでその歴史もかなり新しい。


 またこの研究は輸入に頼るばかりで数に制限のあった魔晶石を民間利用できるという点で帝国の生活水準を大きく向上させることに貢献し、更には帝国や王国の交易に()いて聖国に首根っこを摑まれていた状態を抜け出す切っ掛けとなった。




 里の西門に位地する訓練場にはラービュラント大森林へと続く柵が築かれており、その先は子供たちが狩猟や魔獣との戦いを覚える簡易狩猟場と呼ばれる森が広がっている。


 里に近いほど樹々の背が低く、奥の方に行くほど高い樹々が生えている。


 また柵替わりに結んである狩猟限界線(赤帯)さえ越えなければ危険な魔獣もそうそういない。


 あくまで簡易狩猟場。


 実際に魔獣が多いのは北門を抜けた先だ。


 そちらは主に大人や見習いの若い衆が向かう狩猟場となっている。


 そろそろ午後3時に差し掛かろうかという頃。


 そんな簡易狩猟場内をマルクガルム・イェーガーは【人狼化】して駆けていた。


 人狼の強靭な脚が土を蹴立てて樹々の間を素早く抜けていく。


 飛び移った木をガサガサと揺らしながら人狼少年は相棒の名を呼んだ。


「アル! そっち行ったぞ!」


 マルクの追っていた春告鳥(はるつげどり)は、木々の間を抜け、訓練場側へ抜ける獣道から上空へと飛び去ろうとしている。


「おーまかせっ!」


 アルことアルクス・シルト・ルミナスは、調子の良い返事と共に春告鳥へ向かって人差し指と中指を刀印に構え、魔術鍵語(けんご)による術式を描きながらその場でクルッと2本指を一回転。


「『風切刃(ふうせつじん)』!」

 

 描き切るやいなや鞭を振るうように目標へと魔術を放った。


 ヒュウ――!


 2m(メトロン)大の細長い風の刃は過剰な勢いで飛翔し、上昇していた春告鳥の頸部へ数瞬もせずに到達すると同時に寸断した。


「いよっしゃあっ!」


 マルクが快哉を上げる。


 そのまま手近な枝に掴まって首を失った春告鳥の胴体部を身を乗り出しながら受け止め(キャッチし)た。


 もう少しで7歳になるマルクだが、全長50cm(ケント・メトロン)もある鳥が落ちてくるのはなかなかの脅威だ。


 だがそれも人間態であったら、の話。人狼態なら大して苦でもない。


 受け止めた鳥を逆さまに引っ繰り返し、乗っていた枝から飛び降りる。


 ザ……ッと飛び降りた先ではアルが待っていた。


「捕れた?」


「おう! ほら」


「んじゃ穴作るよ~」


 春告鳥を見せるマルクを確認したアルがさっさと血抜きをしようと、適当に固めた魔力を地面に放射。途端、腐葉土交じりの土がぼふんっと舞い上がった。


「ぶわっ!? アル! ぺっ、ぺっ、土!」


 土草をひっかぶったマルクが文句を言う。


「あ。ごめん」


 アルは「いっけね」と言う顔で謝罪し、友人の毛皮についた土をぺしぺしと払いのけてやる。


「てきとーすぎだぞ」


 親友のいい加減さに文句を付けつつマルクは【人狼化】を解除した。


「ごめんて」


 アルの身の入り切らぬ謝罪も毎度のこと。


 掘った穴に春告鳥の血抜きをしているマルクを眺めつつ、半ば上の空でさっき放った術について思考を巡らせていた。


 変な魔獣が寄ってこないよう、血抜きはここではなく訓練場の煮炊き場でやった方が良い。


 だからこそ気絶で済ませたいのだ。


 最初にこの狩りの真似事をし始めたばかりの頃は避けられるか、途中で術が消えるか、当たってもフラフラ逃げられるかの3択だった。


 そのせいで過剰に魔力を込めて撃つ癖がついてしまっている。


「結局今日は、春告鳥一羽と一角兎(ひとつのうさぎ)二匹か?」


 師匠譲りの癖で「ふぅむ」と顎に手をやりながら今後の課題を検討していると、マルクが成果を問うた。


「そうだよ」


 腰にぶら下げていた兎2匹を確認してアルが頷く。


 こちらはまだ死んでいないため、紐でぐるぐる巻きだ。


「そっか。なぁ、アル。そんで今日も――」


「鳥持って行きなよ」


 友人に皆まで言わせず、アルは言った。


「いいのか?」


「うん」


 すまなそうな友にアルは気にするなと返す。


 去年の初冬にマルクにはアドルフィーナ・イェーガーという名の妹ができた。


 まだ小さな妹と彼女を産んだばかりの母に対して、彼はなんとなく不安を感じたらしい。


 2人に元気でいてもらおうと狩りの収穫を持ち帰り始めたのだ。


 勿論、彼の父マモンもきちんと働いているし、この里内では基本的に通貨による取引は行われていない。


 食料は融通しあったり、交換したりで食いっぱぐれることはないようにしている。


 アルが収穫に拘泥しないのもこのためだ。


 帰れば食事が待っている。それでもマルクは母と妹に元気でいてほしい。


 アルにはそれがわかっているので、幼馴染の友に皆まで言わせず『持って帰れ』と言ったのである。


 イェーガー家の両親は息子の行動にひそかにジーンと来ていたりするのだが、そこはまだまだ大人の感情を察せられぬ幼い少年。


 やたらと母が優しかったり、父が大きな手で髪をくしゃくしゃとかき回しても、それがなぜなのかまでは理解できていない。


 得てして家族とはそういうものだ。


「んじゃ、今日は帰ろっか。小腹空いたしね」


 血抜きが終わったのを見計らってアルは口を開いた。


 獲った獲物のうち1、2匹は大抵、煮炊き場で処理しておやつ代わりにしている。


 マルクが血抜きを終えた春告鳥を背負い、アルが血を流し入れていた穴を適当に埋めて訓練場への獣道を歩き始めた。


「兎、ぶらぶらしてジャマだなぁ」


 腰にぐるぐる巻きの兎をぶら下げたアルがぼやく。


「交換するか?」


 マルクは春告鳥を見せてそう問うた。


 春告鳥の方が明らかに重いだろう。


「やめとく。さっ、早く戻ろ」


 アルは人狼ではないのだ。


「調子いいヤツ」


「まーまー、マルクの方が背高いしさ」


「あんま変わんねーだろ」


 他愛のない言葉を交わしつつ柵の手前まで来る。


 もう少しで訓練場だというところで、



 ヒュロロロロロ――……!



 と春告鳥の鳴き声が聞こえた。


 2人は「おっ?」と顔を見合わせ、


「もう一羽いてもいいと思わない?」


「俺もそう思ってたとこ」


 と、阿吽の呼吸で空を見上げる。


 アルは既に指を刀印に構えてクルクル回しながら術式を描き始めていた。


 射出寸前に(スタンバイ)しておいて、見つけたらぶっ放そうという算段だ。


 しばし、2人で息を潜める。と、そこでマルクが獲物を見つけた。


「あそこだ! アル、術届くか?」


 訓練場の方へ低く飛ぶ春告鳥を指差す。


「わっかんないけどやってみる! 『風切刃』!」


 アルは描き終えていた魔術をぶっ放した。


 しかし、春告鳥はチラリとこちらを見たかと思いきや、2m弱もある風の刃をヒラリと躱し、馬鹿にしたようにヒュロロロと鳴いた。


「あっ! あんにゃろ! てやあぁっ!!」


 躱された瞬間、アルは瞳孔を縦長の黒いスリット状に変化させて『風切刃』とは段違いの威力をした炎杭をぶん投げた。


「っておい! ばか!」


 マルクが止めるも、もう遅い。


 龍人の血を引くアルの投げた炎杭は、躱そうとした春告鳥の移動先を潰すような軌道で飛び、数瞬後に直撃した。


 龍眼もどきによる動体視力の向上を利用した偏差撃ちだ。



 ボン……ッ!



 と、炎杭は春告鳥の頭部を吹き飛ばすだけに留まらず、羽や胴体まで燃やしながら訓練場の方に落ちていく。


 一応場所を考えて投げたのか、と胸を撫で下ろしたマルクであったが『訓練場だって草っぱらじゃねーか!』と気づくや、幼馴染の方を振り返った。


 炎をぷっ放した本人はやり遂げた顔で「あとはよろしくねっ!」と言わんばかりにグッと親指を立てている。


「ちょっ!? ばっ、これもってろ!」


 沈黙は数瞬。マルクはアルに春告鳥の胴体を投げ渡し、「ちくしょー!」と走り出した。


 【人狼化】しながら柵を飛び越え、


「ほっ……」


 春告鳥の無残な姿を確認して息を吐く。


 落下の勢いで火はほぼ消えていた。


 とりあえず、と残っている火の粉を払い落とし、春告鳥が落ちた周囲に教わったばかりの”属性変化”を使って水を撒く。


 まあ問題ないだろうというほど水を撒き終わって、『こいつも血抜きしなきゃな』と考えていたところへ、アルが柵を抜けて戻ってきた。


「お、お、お、重いぃ~。あ、終わった~?」


 呑気なものだ。


「お、おまぁなぁ!」


 慌てたり、焦ったり、安堵したり、情緒のジェットコースターに乗せられたせいでマルクの口調は乱れっぱなしである。


「食べるとこ残ってる? どうする? 持って帰る?」


 が、アルは然程気に留めちゃあいない。春告鳥の処遇の方が余程気になるらしい。


「はぁ~……まったく。ちょっと焼けてるし、もうこれは食おうぜ。そのかわり、食わない兎一匹持って帰っていいか?」


「いんじゃない?」


 なんともおざなりな返しである。


 何を隠そう、春告鳥は旨いのだ。


「おまえに聞いてるんだよ」


「いいでしょ」


「……ったく、おまえってやつはほんと」


「まーまー、羽むしる手間減ったじゃん」


 そこまでしょっぱい炎の扱いはしていない、との自負もあるので、アルはのほほんとのたまう。


「そーゆーこと言ってんじゃねーんだよ。いきなりやるなっつってんの」


「さ、食べいこー」


「だから聞けよ。ほんと、そーゆーとこだからな?」


 遠慮のない幼馴染同士の会話は煮炊き場につくまで止まらなかった。


 これが7歳になったアルと、もうすぐ7歳になるマルクの日常である。




 訓練場の休憩所に併設されている煮炊き場に辿り着いた2人は、ひぃひぃ言いながら獲物の血抜きを何とか熟し終えた。


 血抜き作業は7歳児には案外きつい。


 その後、魔獣解体用の水場に持って行ってよく洗い流す。


 これで子供のできることは終了だ。


 あとは水場の隣にある解体場へと足を運び、そこで獲物の解体を専門で行っている大人に渡してしばし待つ。


 しばらくして解体してもらった兎1匹と春告鳥の綺麗な方を葉包(はぐる)みにくるんでもらい、残りはそのまま葉に乗せてもらってきた。


 ちなみにだが、アルは極々たまに持って帰るくらいだ。


 2人がいそいそと煮炊き場で春告鳥を焼こうとしている――まさにその時であった。


「アル! マルクも今日の狩りはもう終わったの?」


 甲高く、幼い声が掛けられた。


「あれ? それってもしかして春告鳥? 今から食べるの? いいなぁ」


 幼馴染の女子組イスルギ・凛華とシルフィエーラ・ローリエだ。


 少女らは少女らで魚籠(びく)を提げている。


 大方、簡易狩猟場にいくつか流れている小川で魚()()でもしていたのだろう。


 言及しておくと、正しく魚()りだ。断じて釣りではない。


 その証拠に彼女らは釣竿や糸を持っていない。


「今から食べるとこ。そっちは何か捕った?」


「もっちろん! 大漁よ!」


 アルの質問に凛華は自信をもって答えたが、エーラの表情はものすごぉ~く渋いものだった。


「ねぇ~、二人とも聞いてよ。凛華のやり方ひっどいんだぁ」


 我慢できなくなった耳長娘が少年らに訴えはじめる。


「どした? いつもの熊みたいな捕り方じゃねーの?」


 と、訊ねたマルクに凛華が「あん?」と軽く睨みを入れる。


 熊とは何だ、喧嘩売ってるのか? と、言いたいのだ。


 しかし、マルクは気にしない。


 彼の言う”熊みたいな捕り方”とは――膝くらいまで川に浸かり、じっと待って近くを泳いでいく魚をこん棒でブウンッと薙ぎ払って川辺まで吹き飛ばす、というものである。


 反射神経と鬼人の魔法頼りな荒々しい猟法だ。


 一度それでびしょ濡れにさせられ、魚を口に叩き込まれた彼には悪口くらい言う権利がある。


「ちがうの。こないだアルがボクらに”属性変化”、教えてくれたでしょ?」


 エーラの言葉にアルとマルクはこくんと頷いた。


 それがどうしたのだろうか? と。


 彼女が問うたのは1、2週間前の話だ。


 日課を行っていたアルのところへ3人が合流していつものように遊んでいたのだが、誰ともなく「魔力の”属性変化”を教えて」と言い出し、学ぶ流れとなったのである。


 その結果、日々アルの日課を見ていた3人はすんなりと習得した。


 ちなみに他の魔族の子供達も大体このくらいから魔力を扱いだす。


 しかしなんとなくで扱うことの方が多いので、ヴィオレッタ仕込みの知識をしっかり伝授された3人よりは理解度で劣る。


「教えたけど、どうしたの?」


 そういやそうだっけ? と、回顧したアルが質問を投げかけた。


「ボクがせっかく水草たちに頼んでアミ張ってあげてたのに、凛華ってば魚のいそうなとこ全部凍らせちゃったんだよ? ひどくない?」


「「そりゃひどい」」


 訴えるエーラに、アルとマルクはほぼ同時に頷いた。


 何という力業(ゴリ押し)だろうか、と。


「なによぅ。いっぱい捕まえられたんだからいいじゃない」


 口を尖らせる凛華はとてもそんなことをしそうには見えない美少女だが、この4人の中では脳筋筆頭である。


「でも川凍らせちゃったって、どうやって魚捕ったの?」


 アルが当然の疑問を呈すると、彼女は「ん」と自分の腰を指差した。


 そこには稽古用に刃引きされた子供(サイズ)の長剣が差さっている。


「まさか凍った川、剣で引っこ抜いたのか……?」


(どこまでも脳筋なんだコイツ……)


 と、マルクがドン引きする。


「ちっがうわよ! 魚のいるとこをこう、グリグリって削ったのよ」


「グリグリってか、ゴリゴリだったよ」


 エーラの鋭い指摘に凛華はそっぽを向いた。自覚はあったらしい。


「ま、まぁとりあえず食べよ。魚分けてくれるんならぼくらもお肉分けるよ」


 アルは4人の中に流れた沈黙を掻き消すようにそう言うのであった。




 凛華とエーラが来て幼馴染組勢揃い(フルパーティ)となった4人は煮炊き場の一角に陣取り、置いてあった網を確かめるや、アルが手早くボッと火を点けた。


 木切れや炭から余計な煙が出なくなったところで、春告鳥と兎の肉、串に刺した山女魚(ヤマメ)虹鱒(ニジマス)などに塩を振って置いていく。


「あ、そうだ凛華」


 と、マルクは鬼娘を呼んだ。


「なによ?」


 じーっと火を見つめていた凛華が返事を寄越す。


「こっちのやつ、持って帰るから軽めに凍らしてくれ」


 そう言ってマルクは葉包みされた方の肉を見せた。


「もう、そのくらい自分でやんなさいよね――ほら、これでいい?」


 凛華はめんどくさがりながらもサッと手をかざして、葉包みを軽く凍らせる。


(お? さては、家で相当練習したな)


 アルはその手慣れた様子を観察してそう思った。


 魔力の動きが滑らか過ぎたのだ。


 その視線に気付いた鬼娘がぶっきらぼうに「なに?」と噛みつくように訊き、アルは「べっつに~」とニヤニヤする。


「ふんっ! バカアル」


 凛華は照れて頬を紅潮させながらそっぽを向いた。


 ちなみにマルクが彼女へ頼んだのは、凜華が氷鬼人だからである。


 人狼族の適性的に言えば凍らせることもできなくはない。


 実際。凛華やエーラがいないときはマルクも自分でやっている。彼らの適性が低い属性は火と土なのだから。 


 しかし、この鬼娘は特に氷への適性が高いのでこっちの方が早いと判断したのだ。


 尚、氷鬼人の向かない属性は火と闇である。


「お、あんがとー」


 そんなやりとりをやっているうちにパチパチという脂が炭に落ちる音や焼けた匂いが漂ってきた。


(ふぁん)人とも、(ふぁ)けてるよ~」


 いつの間にか火の番をしていたエーラが焼けた肉や魚を火から遠ざけながら呼びかけた。


 口がすでにモグモグ動いている。どうやら先に食べ始めていたらしい。


 その後、4人はいつものようにお喋りに興じつつ、春告鳥や一角兎、魚といった――春が来たことを感じさせる食材を楽しんで帰路につくのであった。



 * * *



 マルクとエーラと別れ――といっても近所も近所なのだが、アルが帰宅しようとしたところで隣の家に住んでいる凛華が「アル」と呼び止めた。


「ん?」


 顔を向けると、彼女はどこか気遣うように口を開く。


「明日は……その、稽古でしょ? アルに合った武器、きっと明日は見つかるわよ。じゃあ、またね」


「……うん。また、明日」


 イスルギ家の玄関が閉じられてから、アルはようよう絞り出すように沈んだ声を返した。


 2人が八重蔵に剣の稽古を頼んでおよそ半年が経つ。


 週に3~4日。朝から夕方まで稽古漬け。


 だというのに、残念ながらアルが八重蔵から向いていると言われた武器は未だに一つとして存在しなかった。

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