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【祝16.3万PV❗️】日輪の半龍人  作者: 倉田 創藍
少年期・2章 仲間との成長篇

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4話 得意な魔術と……(アルクス7歳の春)

前回からおよそ1年後。少しだけ成長した主人公アルクスら子供の日常回です。

 この世界――というより、この大陸にも四季はあり、また1週間が7日間で構成されているというのはアルクスの前世と変わらない。


 それは遥(はる)か昔から脈々(みゃくみゃく)と受け継がれる伝承に由来する。


 この世界で最も有名で、最も信奉されている神。


 創造を司(つかさど)る女神【アムノクレア】は、初めに7種の精霊を生み出した。


 そして、その精霊らと共にたった7日間でこの世界を創造したという。


 要するに、創造神話というやつだ。


 それゆえ『7』という数字は古来より大変縁起の良い数字であるとされている。


 またこの女神と七大精霊を奉じているのが【虹耀教】という世界最古かつ最大の宗教。


 聖国はその熱心な【虹耀教】信徒が寄り集まって興った国であり、女神の贈り物と伝わる精霊の雫(しずく)――魔晶石という、魔力を流すだけで各属性の力を引き出せる鉱石の最大産出国でもある。


 尚、里内に敷いてある水道などに使われている水晶石は、厳密に言えばこの魔晶石ではない。


 帝都に居るヴィオレッタの友人が擬似(ぎじ)的に内部を再現した擬似魔晶石(ぎじましょうせき)と呼ばれる人口魔晶石だ。


 本物と較べて消費魔力が多くなる傾向にあり、出力に関しても魔晶石のような莫大(ばくだい)なものではなく、その大きさに比例する。


 その代わり魔晶石(本物)は使っていく内にくすみ、最後には細かい硝子(ガラス)のような砂塵(さじん)になってしまうのに対し、擬似魔晶石は内部構造のみを再現し、出力や消費魔力を度外視しているので割ろうとしない限りは壊れるようなことはない。


 つまり外殻(がいかく)の劣化や破損以外でモ(・)ノ(・)が(・)な(・)く(・)な(・)る(・)という欠点(デメリット)がないのだ。


 これは魔力が豊富な割に適性にムラがあり、現状で魔晶石の輸入が絶望的な魔族にとってはうってつけの代物だった。


 また、30年近く前に帝国で友人が研究しているところへヴィオレッタが訪問し、共同開発したものなのでその歴史もかなり新しい。


 結果として、この研究は輸入に頼るばかりで数に制限のあった魔晶石を民間利用できるという点で帝国の生活水準を大きく向上させることに貢献(こうけん)。


 更には、帝国や王国の交易に於(お)いて、聖国に首根っこを摑(つか)まれていた状態を脱する切っ掛けとなった。




 里の西門に位地する訓練場には、ラービュラント大森林へと続く柵が築かれており、その先は子供たちが狩猟や魔獣との戦いを覚える『簡易狩猟場』と呼ばれる森が広がっている。


 里に近いほど樹々の背が低く、奥の方に行くほど高くなっていく。


 また柵替わりに結んである狩猟限界線(赤帯)さえ越えなければ危険な魔獣もそうそういない。


 あくまで簡易的な狩猟場。


 実際に魔獣が多いのは北門を抜けた先だ。


 そちらは主に大人や見習いの若い衆が向かう狩猟場となっている。


 そろそろ午後3時に差し掛かろうかという頃。


 そんな簡易狩猟場内をマルクガルム・イェーガーは【人狼化】して駆けていた。


 人狼の強靭(きょうじん)な脚が土を蹴立(けた)てて樹々の間を素早く抜けていく。


 飛び移った木をガサガサと揺らしながら、人狼少年は相棒の名を呼んだ。


「アル! そっち行ったぞ!」


 マルクガルムの追っていた春告鳥(はるつげどり)は、木々の間を抜け、訓練場側へ抜ける獣道から上空へと飛び去ろうとしている。


「おーまかせっ!」


 アルクスは、調子の良い返事と共に春告鳥へ向かって人差し指と中指を刀印(とういん)に構え、魔術鍵語(けんご)を描きながらその場でクルッと2本指を一廻転(いっかいてん)。


「『風切刃(ふうせつじん)』!」

 

 術式を完成させるや否(いな)や、鞭(むち)を振るうように目標へと魔術を放った。


 ヒュウ――!


 2m(メトロン)大の細長い真空波は過剰な勢いで飛翔し、上昇していた春告鳥の頸部(くび)へ数瞬もせずに到達すると同時、寸断した。


「いよっしゃあっ!」


 マルクガルムが快哉(かいさい)を上げる。


 そのまま手近な枝に掴まって、首を失った春告鳥の胴体部を身を乗り出しながら受け止め(キャッチし)た。


 もう少しで7歳になる彼だが、全長50cm(ケント・メトロン)もある鳥が落ちてくるのはなかなかの脅威だ。


 だがそれも人間態(なまみ)であったら、の話。人狼態なら大して苦でもない。


 受け止めた鳥を逆さまに引っ繰り返し、乗っていた枝から飛び降りる。


「捕れた?」


 ザ……ッと飛び降りた先ではアルクスが待っていた。


「おう! ほら」


「んじゃ穴作るよ~」


 春告鳥を見せるマルクガルムを確認したアルクスがさっさと血抜きをしようと、適当に固めた魔力を地面に放射。


 途端、腐葉土交じりの土がぼふんっと舞い上がった。


「ぶわっ!? アル! ぺっ、ぺっ、土!」


 土草をひっかぶったマルクガルムが文句を言う。


「あ。ごめん」


 アルクスは「いっけね」と言う顔で謝罪し、友人の毛皮についた土をぺしぺしと払いのけてやる。


「てきとーすぎだぞ」


 親友のいい加減さに文句を付けつつ、マルクガルムは【人狼化】を解除した。


「ごめんて」


 アルクスの身の入り切らぬ謝罪も毎度のこと。


 掘った穴に春告鳥の血抜きをしているマルクガルムを眺めつつ、半ば上の空でさっき放った術について思考を廻(めぐ)らせていた。


 変な魔獣が寄ってこないよう、血抜きは此処(ここ)ではなく訓練場の煮炊き場でやった方が良い。


 だからこそ気絶で済ませたいのだ。


 最初にこの狩りの真似事をし始めたばかりの頃は避けられるか、途中で術が消えるか、当たってもフラフラ逃げられるかの3択だった。


 そのせいで過剰に魔力を込めて撃つ癖がついてしまっている。


 師匠譲(ゆず)りの癖で「ふぅむ」と顎に手をやりながら今後の課題を検討していると、


「結局今日は、春告鳥一羽と一角兎(ひとつのうさぎ)二匹か?」


 マルクガルムが成果を問うた。


「そうだよ」


 腰にぶら下げていた兎2匹を確認してアルクスが頷く。


 こちらはまだ死んでいないため、紐(ひも)でぐるぐる巻きだ。


「そっか。なぁ、アル。そんで今日も――」


「鳥、持って行きなよ」


 友人に皆まで言わせず、アルクスは言った。


「いいのか?」


「うん」


 すまなそうな友に、気にするなと返す。


 去年の初冬、マルクガルムにはアドルフィーナ・イェーガーという名の妹ができた。


 まだまだ小さな妹と彼女を産んだばかりの母に対して、彼はなんとなく不安を感じたらしい。


 2人に元気でいてもらおうと狩りの収穫を持ち帰り始めたのだ。


 勿論(もちろん)、彼の父マモンもきちんと働いているし、この里内では基本的に通貨による取引は行われていない。


 食料は融通(ゆうずう)しあったり、交換したりで食いっぱぐれることはないようにしている。


 アルクスが収穫に拘泥しないのもこのためだ。


 帰れば食事が待っている。それでもマルクガルムは母と妹に元気でいてほしい。


 アルクスにはそれが分かっているので、幼馴染の友に皆まで言わせず『持って帰れ』と言ったのである。


 イェーガー家の両親は息子の行動にひそかにジーンと来ていたりするのだが、そこはまだまだ大人の感情を察せられぬ幼い少年。


 やたらと母が優しかったり、父が大きな手で髪をくしゃくしゃとかき回しても、それがなぜなのかまでは理解できていない。


 得てして家族とはそういうものだ。


「んじゃ、今日は帰ろっか。小腹空いたしね」


 血抜きが終わったのを見計らってアルクスは口を開いた。


 獲った獲物のうち1、2匹は大抵、煮炊(にた)き場(ば)で処理しておやつ代わりにしている。


 マルクガルムが血抜きを終えた春告鳥を背負い、アルクスが血を流し入れていた穴を適当に埋めて訓練場への獣道を歩き始めた。


「兎、ぶらぶらしてジャマだなぁ」


 腰にぐるぐる巻きの兎をぶら下げたアルクスがぼやく。


「交換するか?」


 マルクガルムは春告鳥を見せてそう問うた。


 春告鳥の方が明らかに重いだろう。


「やめとく。さっ、早く戻ろ」


 アルクスは人狼ではないのだ。


「調子いいヤツ」


「まーまー、マルクの方が背ぇ高いしさ」


「あんま変わんねーだろ」


 他愛のない言葉を交わしつつ柵の手前まで来る。


 もう少しで訓練場だというところで、


 ヒュロロロロロ――……!


 と、春告鳥の鳴き声が聞こえた。


「おっ?」と、2人で顔を見合わせ、


「もう一羽いてもいいと思わない?」


「俺もそう思ってたとこ」


 と、阿吽(あうん)の呼吸で空を見上げる。


 アルクスは既に指を刀印に構えてクルクル廻(まわ)しながら術式を描き始めていた。


 射出寸前に(スタンバイ)しておいて、見つけたらぶっ放そうという算段だ。


 しばし、2人で息を潜める。と、そこでマルクガルムが獲物を見つけた。


「あそこだ! アル、術届くか?」


 訓練場の方へ低く飛ぶ春告鳥を指差す。


「わっかんないけどやってみる! 『風切刃』!」


 アルクスは描き終えていた魔術をぶっ放した。


 しかし、春告鳥はチラリとこちらを見たかと思いきや、2m弱もある真空波をヒラリと躱(かわ)し、馬鹿にしたようにヒュロロロと鳴いた。


「あっ! あんにゃろ! てやあぁっ!!」


 躱された瞬間、アルクスは瞳孔を縦長(スリット)状に変化させて『風切刃』とは段違いな威力の炎杭(えんくい)をぶん投げた。


「っておい! ばか!」


 マルクガルムが止めるも、時既(ときすで)に遅し。


 龍人の血を引くアルクスの投げた炎杭は、躱そうとした春告鳥の移動先を潰(つぶ)すような軌道で飛び、数瞬後に直撃した。


 龍眼もどきによる、動体視力の向上を利用した偏差撃(へんさ)ちだ。


 ぼん……ッ!


 と、春告鳥の頭部を吹き飛ばすだけに留まらず、羽や胴体まで燃やしながら訓練場の方に落ちていく。


 一応場所を考えて投げたのか、と胸を撫(な)で下ろしたマルクガルムであったが『訓練場だって草っぱらじゃねーか!』と気づくや、幼馴染の方を振り返った。


 炎をぷっ放した本人はやり遂(と)げた顔で「あとはよろしくねっ!」と言わんばかりにグッと親指を立てている。


「ちょっ、ばっ、これもってろ!」


 沈黙は数瞬。マルクガルムはアルクスに春告鳥の胴体を投げ渡し、「ちくしょー!」と走り出した。


 【人狼化】しながら柵を飛び越え、


「ほっ……」


 春告鳥の無残な姿を確認して息を吐く。


 落下の勢いで火はほぼ消えていた。


 とりあえず、と残っている火の粉を払い落とし、春告鳥が落ちた周囲に教わったばかりの”属性変化”を使って水を撒(ま)く。


 まあ問題ないだろうというほど水を撒き終わって、『こいつも血抜きしなきゃな』と考えていたところへ、アルクスが柵を抜けて戻ってきた。


「お、お、お、重いぃ~。あ、終わった~?」


 呑気なものだ。


「お、おまぁなぁ!」


 慌てたり、焦ったり、安堵したり、情緒の急加減速無軌道駒(ジェットコースター)に乗せられたせいでマルクガルムの口調は乱れっぱなしである。


「食べるとこ残ってる? どうする? 持って帰る?」


 が、アルクスは然(さ)して気に留めちゃあいない。春告鳥の処遇の方が気になっているらしい。


「はぁ~……ったく。ちょっと焼けてるし、もうこれは食っちまおうぜ。そのかわり、食わない兎一匹持って帰っていいか?」


「いんじゃない?」


 なんともおざなりな返しである。


 何を隠そう、春告鳥は旨いのだ。


「おまえに聞いてるんだよ」


「いいでしょ」


「……ったく、おまえってやつはほんと」


「まーまー、羽むしる手間減ったじゃん」


 そこまでしょっぱい炎の扱いはしていない、との自負もあるので、のほほんとアルクスがのたまう。


「そーゆーこと言ってんじゃねーんだよ。いきなりやるなっつってんの」


「さ、食べいこー」


「だから聞けよ。ほんと、そーゆーとこだからな?」


 遠慮のない幼馴染同士の会話は煮炊き場につくまで止まらなかった。


 これが7歳になったアルクスと、あとほんの数日で7歳になるマルクガルムの日常である。




 訓練場の休憩所に併設されている煮炊き場に辿り着いた2人は、ひぃひぃ言いながら獲物の血抜きを何とか熟(こな)し終えた。


 7歳児に血抜き作業はなかなかきつい。


 その後、魔獣解体用の水場(みずば)に持って行ってよく洗い流す。


 これで子供のできることは終了だ。


 あとは水場の隣にある解体場へと足を運び、そこで獲物の解体を専門で行っている大人に渡してしばし待つ。


 しばらくして解体してもらった兎1匹と春告鳥の綺麗な方を葉包(はぐる)みにくるんでもらい、残りはそのまま葉に乗せてもらってきた。


 ちなみにだが、アルクスは極々たまに持って帰るくらいだ。


 2人がいそいそと煮炊き場で春告鳥を焼こうとしている――まさにその時であった。


「アル! マルクも今日の狩りはもう終わったの?」


 甲高く、幼い声が掛けられた。


「あれ? それってもしかして春告鳥? 今から食べるの? いいなぁ」


 幼馴染の女子組イスルギ・凛華とシルフィエーラ・ローリエだ。


 少女らは少女らで魚籠(びく)を提げている。


 大方、簡易狩猟場にいくつか流れている小川で魚捕(・)り(・)でもしていたのだろう。


 言及しておくと、正しく魚捕(と)りだ。断じて釣りではない。


 その証拠に彼女らは釣竿(つりざお)も糸も持っていない。


「今から食べるとこ。そっちは何か捕った?」


「もっちろん! 大漁よ!」


 アルクスの質問に凛華は自信をもって答えたが、シルフィエーラの表情は途端にものすごぉ~く渋いものへと変わった。


「ね~え~、二人とも聞いてよ。凛華のやり方ひっどいんだぁ」


 我慢できなくなったらしく少年らに訴えはじめる。


「どした? いつもの熊みたいな捕り方じゃねーの?」


 と、訊ねたマルクガルムに凛華が「あん?」と軽く睨(にら)みを入れる。


 熊とは何だ、喧嘩売ってるのか? と。


 しかし、人狼少年は気にしない。


 彼の言う”熊みたいな捕り方”とは――膝(ひざ)くらいまで川に浸(つ)かり、じっと待って近くを泳いでいく魚を棍棒(こんぼう)でブウンッと薙(な)ぎ払って川辺(かわべ)りまで吹き飛ばす、というものである。


 反射神経と鬼人の魔法頼りな荒々しい猟法(りょうほう)だ。


 それで一度びしょ濡れにさせられ、魚を口に叩き込まれた彼には悪口くらい言う権利がある。


「ちがうの。こないだアルがボクらに”属性変化”、教えてくれたでしょ?」


 耳長娘(みみながむすめ)の言葉に、アルクスとマルクガルムはこくんと頷いた。


 それがどうしたのだろうか? と。


 彼女が問うたのは1、2週間前の話だ。


 日課を行っていたアルクスのところへ3人が合流し、いつものように遊んでいたのだが、誰ともなく「”属性変化”を教えて」と言い出し、学ぶ流れとなったのである。


 その結果、日々アルクスの日課を見ていた3人はすんなりと習得した。


 ちなみに他の魔族の子供達も大体このくらいから魔力を扱いだす。


 しかしなんとなくで扱うことの方が多いので、ヴィオレッタ仕込みの知識をしっかり伝授された3人よりは理解度で劣る。


「教えたけど、どうしたの?」


 そういやそうだっけ? と、回顧したアルクスが質問を投げかけた。


「ボクがせっかく水草たちに頼んでアミ張ってあげてたのに、凛華ってば魚のいそうなとこ全部凍らせちゃったんだよ? ひどくない?」


「「そりゃひどい」」


 訴えるシルフィエーラに、アルクスとマルクガルムはほぼ同時に頷いた。


 何という力業(ゴリ押し)だろうか、と。


「なによぅ。いっぱい捕まえられたんだからいいじゃない」


 口を尖らせる凛華はとてもそんなことをしそうには見えぬ美少女だが、この4人の中では脳筋筆頭である。


「でも川凍らせちゃったって、どうやって魚捕ったの?」


 アルクスが当然の疑問を呈すると、彼女は「ん」と自分の腰を指差した。


 そこには稽古用に刃引きされた子供大(サイズ)の長剣が差さっている。


「まさか凍った川、剣で引っこ抜いたのか……?」


(どこまで脳筋なんだコイツ……)


 と、マルクガルムがドン引きする。


「ちっがうわよ! 魚のいるとこをこう、グリグリって削ったのよ」


「グリグリってか、ゴリゴリだったよ」


 シルフィエーラの鋭い指摘に凛華はそっぽを向いた。自覚はあったらしい。


「ま、まぁとりあえず食べよ。魚分けてくれるんならぼくらもお肉分けるよ」


 アルクスは4人の中に流れた沈黙を掻き消すようにそう言うのであった。




 凛華とシルフィエーラが来て幼馴染組勢揃い(フルパーティ)となった4人は、煮炊き場の一角を陣取り、置いてあった網を確かめるや、アルクスが手早くボッと火を点けた。


 次いで、木切(きぎ)れや炭から余計な煙が出なくなったところで、春告鳥と兎の肉、串に刺した山女魚(ヤマメ)や虹鱒(ニジマス)などに塩を振って置いていく。


「あ、そうだ凛華」


 と、マルクガルムは鬼娘を呼んだ。


「なによ?」


 じーっと火を見つめていた凛華が返事を寄越す。


「こっちのやつ、持って帰るから軽めに凍らしてくれ」


 そう言ってマルクガルムは葉包みされた方の肉を見せた。


「もう、そのくらい自分でやんなさいよね――ほら、これでいい?」


 凛華はめんどくさがりながらもサッと手をかざして、葉包みを軽く凍らせる。


(お? さては、家で相当練習したな)


 アルクスはその手慣れた様子を観察してそう思った。


 魔力の動きが滑らか過ぎたのだ。


 その視線に気付いた鬼娘がぶっきらぼうに「なに?」と噛みつくように訊き、アルクスは「べっつに~」とニヤニヤする。


「ふんっ! バカアル」


 凛華は照れて頬を紅潮させながらそっぽを向いた。


 ちなみにマルクガルムが彼女へ頼んだのは、この鬼娘(おにむすめ)が氷鬼人だからである。


 人狼族の適性的に言えば凍らせることもできなくはない。


 実際、凛華やシルフィエーラがいないときは自分でやっている。彼ら人狼の適性が低い属性は火と土なのだから。 


 しかし、この鬼娘は特に氷への適性が高いのでこっちの方が早いと判断したのだ。


 尚、氷鬼人の向かない属性は炎と闇である。


「お、あんがとー」


 そんなやりとりをやっているうちにパチパチという脂が炭に落ちる音や焼けた匂いが漂ってきた。


「三(ふぁん)人とも、焼(ふぁ)けてるよ~」


 いつの間にか火の番をしていた耳長娘が焼けた肉や魚を火から遠ざけながら呼びかけた。


 口が既にモグモグ動いている。どうやら先に食べ始めていたらしい。


 その後、4人はいつものようにお喋りに興じつつ、春告鳥や一角兎、魚といった――春が来たことを感じさせる食材を楽しんで帰路につくのであった。



 * * *



 マルクガルムとシルフィエーラと別れ――といっても近所も近所なのだが、アルクスが帰宅しようとしたところで隣の家に住んでいる凛華が「アル」と呼び止めた。


「ん?」


 顔を向けると、彼女はどこか気遣うように口を開く。


「明日は……その、稽古でしょ? あんたに合った武器、きっと明日は見つかるわよ。じゃあ、またね」


「……うん。また、明日」


 イスルギ家の玄関が閉じられてから、アルクスはようよう絞り出すように沈んだ声を返した。


 2人が八重蔵(やえぞう)に剣の稽古を頼んでおよそ半年が経つ。


 週に3~4日。朝から夕方まで稽古漬(づ)け。


 だというのに、残念ながらアルクスが八重蔵から向いていると言われた武器は、未だに一つとして存在しなかった。

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