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どうぞ、その泥舟にお二人でお乗りください

最終エピソード掲載日:2026/09/16
「正面へ行くなら、大理石の舞台と鉢植えを降ろして」

王女を迎える豪華遊覧船は、飾りを載せすぎて浅瀬を通れない。船頭のカリーナが忠告すると、婚約者のレナートは顔をしかめた。彼の隣には、社交界に顔が利く令嬢がいる。これからの商売に必要なのは彼女だと告げられ、カリーナは婚約解消を受け入れ、式典の水先も辞退した。

二人で地図を広げた夜を思い出して泣いたあと、指輪を外す。明日も客は待っている。「泥舟」と笑われた、祖父から継いだ小さな平底船〈ツバメ〉の甲板を磨かなければ。

野菜を市場へ届け、お年寄りが下りやすい場所に船を寄せる。そんな定期便に、河岸改修の視察で財務大臣ダミアンが乗ってきた。選んだ席は、操舵輪のすぐ脇。

「閣下。その席は濡れます」 「ここでいい」

袖を濡らしてまで川の話を聞きたがる、頑固なお客さま。ところが、視察の質問がなくなっても席を離れず、帰港すれば夕食に誘ってくる。仕事の説明ならいくらでもできるのに、その誘いには返事がつかえた。

そして川祭りの日。華やかな拍手の途中で、豪華船が止まる。 救援を求める監視艇を迎え、カリーナは〈ツバメ〉の舫い綱を解いた。
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