98 ルベリオ王国騎士団の体制の強化
ジョセフの手紙からロマーフ公の企てが発覚した数日後。使者はロマーフ公国に入国し、そこから一日でロマーフ公の暮らす城にたどり着いていた。
事前に報せもなく早馬で来た急な使者の来訪に公国側は慌てた。
次代の公王であるジョナサンは、ロマーフ公と共に謁見の間に急いだ。
まさか、ジョセフが何か失礼でもしてしまったのだろうか? と、現在ルベリオ王国に滞在中の弟が頭を過ったジョナサンだったが、事態はもっと大きくて深刻であることを今はまだ知らない。
そして、この数分後に使者から聞かされる内容にジョナサンは誰の言葉を信じて良いか分からず、頭を抱えることになるとは、まだ夢にも思っていなかった。
その頃、ルベリオ王国ではシャンテルが騎士団の訓練に力を入れていた。
ジョセフのことが発覚した翌々日に王国騎士団の各団長と副団長で会議を行った結果を受けての対応だった。
ロマーフ公国との関係が今後どうなるのか、今はまだ不透明であり、騎士団には入団試験後の新人が多い。
そのため、有事に備えて普段より訓練時間を増やし、実践的な訓練を取り入れようとなったのだ。また、武器のチェックや手入れも普段より細かく実施することになった。
本来は企てが発覚した翌日に会議を開くべきだったが、シャンテルやジョアンヌの精神状態が不安定だったため、翌々日に持ち越されていた。
だが、そのおかげというべきか、イドリスが前日に先行して動いて、備品や武器のチェックをしてくれていた。その結果を元に、足りない物のリストや必要になりそうな物のリストまで上げてくれていたのだ。
今回の会議で決まったことは、第一騎士団のイドリスとシャンテルの提案が殆どだった。そこに各騎士団の副団長の意見が反映され、細かいことも決まった。
だけど会議の後半、ずっと黙り込んでいたジョアンヌがこの決定に一人反発した。
『わたくしはそのような訓練には参加しませんわよ』
『わかっております。第三騎士団の指揮は副団長に一任なさってください。ジョアンヌ様は見守っていてくださればそれで充分です』
イドリスが気を遣って頷く。その直後に、第三騎士団の副団長が『私にお任せください』と付け足した。
『言っておくけれど、もしもの時は第三騎士団は全員わたくしの護衛を第一優先としますので。そのつもりで』
その言葉に一瞬場が静まった。
『ジョアンヌ、全員を貴女の護衛につけるのはやりすぎよ。さすがに冗談よね?』
確かめるようにシャンテルが尋ねると『冗談ではありませんわ!』と彼女は声を荒らげた。
『わたくしたちを殺そうと考えていた国よ! わたくしたちが真っ先に狙われるに決まっているじゃない!! それなのに、どうしてわたくしの騎士団を国防に回さなきゃいけないのっ!!』
『ジョアンヌ様、その方がジョアンヌ様や国民の命を守ることに繋がるのですよ』
イドリスが宥めるようにそう言うと、ジョアンヌは信じられないことを口にした。
『国民よりも、わたくしを守ることが最優先でしょう!!』
『なっ!?』
『ジョアンヌ! なんてこと言うの!!』
シャンテルは思わず椅子から立ち上がった。だが、彼女は俯いた状態で顔を上げようともしない。
『あんな国! イドリスがいれば、すぐに片付けられるでしょう! 早くどうにかして頂戴!!』
謁見の間で共にジョセフの話を聞いたジョアンヌは余程怖い思いをしたのか、極端で投げやりな発言をした。
通常の精神状態ではないので、その場に居た者はジョアンヌを下がらせることにした。そして、『国民よりも』と、民を蔑ろにした発言については誰も追求しなかった。
だけど、今回の会議に参加した者の誰もが、そんな彼女が王になってしまったら、この国は終わるだろうと思った。
主君として仕えるなら、シャンテル様のように国民を大切にしてくれる人がいい。
イドリスや副団長たちはそんな考えを微かに抱いたのだった。
そんな会議での決定を元に、シャンテルたちは実戦を意識した訓練を行っていた。
「野蛮だこと」
見学していたジョアンヌが、定位置で紅茶を嗜みながら、蔑む視線を離れた場所にいるシャンテルに向ける。
お姉様のせいで、この前の会議ではわたくしが悪いみたいに思われちゃったじゃない! 許せないわ!
そんな見当違いな恨みをジョアンヌは密かに募らせていた。




